帰宅部なのに夏休みがないとかブラックすぎる

 期末テストも終わり、あとは夏休みが来るのを待つのみ。帰宅部である俺は夏休みに入ればただの休み! 早く来ないかなー、夏休み! なんて思いながら帰宅部の時間を過ごしていた。

「帰宅部のみんな、久しぶりにお仕事だよ!」

「しばらくなくて楽だったのにな」

「こんな暑い日に外の活動したくないですよぉ―」

「外の活動はまだしないから大丈夫。でも、夏休みも活動してもらうことになるけど」

は、夏休みも活動? え、帰宅部なのに?

三宅みやけ先生、僕たちいったい何するんですか?」

「文化祭の準備」

「それ、今日決めた文化祭実行委員がやる仕事で、俺たち関係ないですよね」

「そうなんだけど、毎年その人数じゃあ足りないんだよね……」

「ということは、正確に言うと私たちは文化祭実行委員の手伝いをするのですね」

「そーいうこと! どうせ、帰宅部は夏休み部活ないんだから暇でしょ。ね、久坂部くさかべくん」

「え、あ……、はい」

夏休みは部活も無いうえに、遊ぶ友達もいないからどうせずっと家に引きこもっているだろと言いたいんですね。まぁ、そうなんですけど。

「じゃあ、もう話し合い始まってるから参加してきてね~」

そういうと三宅先生は教室を出て行った。

萌百菜ももな、話し合いとか苦手なんだけど―」

「仕方ないでしょ。三宅先生に頼まれた仕事をこなすのが私たちの仕事よ」

「はーい」

「ぼ、僕もこういうの苦手なんだけど、燎太りょうた晟斗まさとは得意?」

「得意ではないけど、何回かはこういうのに参加したことはある」

「晟斗はやっぱすごいね。燎太は?」

「なわけねーだろ。俺はこういうのを避けてきた側だ。それどころか存在すら忘れられてて参加する余地もなかったくらいだ」

「それ、自信ありげに言うことじゃねーぞ」

新島にいじまが冷めた声で言った。


***


 話し合いを行っている教室に着き、扉を開けると一斉にみんながこちらを見てきた。すると、すぐに文化祭実行委員長と思われる人物が話しかけてきた。

「もしかして、帰宅部の皆さんですか?」

「はい。三宅先生に文化祭実行委員会に協力するように言われてきました」

「私、文化祭実行委員長の倉敷くらしきはなです。早速なんだけど、テーマがなかなか決まらなくて……。何かいい考えがあれば遠慮なく発表してね」

委員長が状況を説明している間に周りの委員の人が俺たちの席を準備していた。準備された席に座ると、話し合いが再開された。

「じゃあ、話し合いの続きをします。漠然としててもいいので何かありませんか?」

委員長が話を振っても誰も発言しない。もしかして、さっきからこれの繰り返しなの? これ、一生決まらないんじゃない?

「うーん……。困ったな。できれば今日中にテーマを決めたいんだけど……」

あぁ、わかった。毎年間に合わない理由ってこの話し合いに時間がかかって準備に取り掛かれないからだな。でも、この状況って俺たちが来たところで変わらないと思うんだが。

「すいません。昨年と一昨年はなぜあのようなテーマになったのですか?」

しびれを切らしたのか、陣内じんないが発言をした。

「えっと、資料によると、昨年の『古典文学』は委員長が古典文学を好きだったからで、一昨年の『TSD48』はこの高校出身の方がアイドルの総選挙で1位を取ったことを記念して高咲台たかさきだいのTSDを取ったそうです」

「そうですか……」

「じゃ、じゃあさ、私たちの好きなものを挙げていってその中で良さそうなのをテーマにするのはどうかな?」

陣内の隣に座っていた桧倉ひくらが少し顔を赤くしながら発言した。ホントに苦手なんだなこういうの。

「そうですね。じゃあ、みんなが好きなものを挙げていってください」

そう言っても委員会の人たちは誰も発言しない。みんな、好きなものないの?

「誰も発表しないなら俺から言います。俺はロック系のバンドとかが好きです」

新島もこの状況を打破しようと発言した。

「萌百菜は原宿が好き! ほら、結優ゆうも。何が好き?」

「え、僕は……」

人前で話すのが苦手な加西かさいは困った顔をしたが、何か言わなきゃと小さな声で発言した。

「スイーツ、とか」

「あ、萌百菜もスイーツ好きだよ! 高咲台駅の近くにおいしいパンケーキ屋さんあるよね」

「うん。まだ行ったことないけど、おいしいって評判だよね」

同じ趣味の人を見つけた加西は少しテンションが上がっていた。それにしても、ホント、加西ってかわいいな。

「私もまだなんだよねー。今度みんなで行こうよ!」

って、2人で勝手に盛り上がって話がそれてません?

「その話はまた改めてやりましょう。では、私が好きなものは花です」

改めてするって結構乗り気ですね。

「さぁ、部長さん。あなたも言いなさい」

そうなりますよね。こうなると予想しときながら全く答えを用意していなかった。

「あれだな。人間観察」

時が止まったように教室内に静寂が広がった。さすがにこれはまずかったか。

「え。うそ」

「うわ。さすがにねーわ」

「燎太、冗談だよね」

「あなたに良い趣味があるとは思っていなかったけど、ここまでひどいとは思っていなかったわ」

そんな、みんなで一斉に攻撃してこないで。俺、泣いちゃうから。

「えーっと……。これは……」

「書かなくていいです」

俺が言ったのは却下され、黒板には4人が言ったことが書かれた。

「私たちが言い終わったので次は委員の方が発表をしてください」

陣内が委員会メンバーに振ったが、誰も言う気配が見られない。

「はぁ」

陣内が小さなため息をつき、頭を抱えた。

「あなたたち、やる気あるの?」

とうとう陣内はこの状況に我慢できなくなった。

沙彩花さやか、みんなも考えてるから」

「さっきからあなたたち、誰かが発言するのを待って自分は発言する気がないじゃない。これではテーマどころか文化祭すら成立しないわ」

「みんなを責めないであげてください」

委員長も陣内をなだめたが、委員の1人が初めて口を開いた。

「私たちだって、好きで委員会に入ったわけじゃないです!」

1人が口を開くとほかの人たちも発言しだした。

「こういうのは私たちみたいな人に押し付けられるんですよ」

「誰も、やりたくてやってません」

ここにいた人たちは誰一人としてやりたくてこの委員会に入ったわけではなかった。確かに、俺たちのクラスもじゃんけんで負けた人がなってたな。俺、そのじゃんけんにすら参加できてないけど。

「クラスで目立っている人たちほどこういう面倒な仕事は地味でおとなしい私たちに押し付けて、後から文句とか言ってくるんですよ……」

委員長も俯きながら言った。しかし、陣内はまだ納得していなかった。

「嫌なら、断ればいいじゃない」

「そんなことできないからこうしてやってるんです!」

委員長が声を荒げた。

「沙彩花、みんながみんな沙彩花みたいに強くないんだよ」

桧倉が小さくそうつぶやくと、陣内は下を向いてこれ以上は何も言わなかった。そうこうしているうちにもう少しで下校時間になる。

「今日中に決めたいんだろ。今出てる中でもうテーマ決めたらどうだ」

「4つしか出てないよ?」

「しかも、俺たちが言った好きなやつで決めて大丈夫かよ」

「仕方ないですね。もう時間もないですし、この4つの中で決めましょう」

委員長は小さく深呼吸して前を向いた。

「実は私、この原宿っていいと思うんです。最近こういうの流行ってますし」

「ホント!? じゃあさ、結優が言ったスイーツも取り入れてかわいくデコってSNS映えさせようよ!」

「なんかそれいいじゃん」

「うん。楽しそうかも」

「皆さん、どうですか?」

委員長がみんなに同意を求めると、みんな賛成した。

「じゃあ、今回のテーマは『原宿』で決まりです」

「ちょっと待って。『原宿』はさすがにダサいくない?」

桧倉はテーマ名に納得いかないようだ。

「『原宿』って、確かカラフルでかわいらしいものがたくさんある場所よね。なら、『Kawaii』とかどうかしら。近頃は海外にも通じるようになったわ」

「それ、いいかも! って、かわいいって海外でも通じるんだ!」

「じゃあ、今年の文化祭のテーマは『Kawaii』ということで明日から活動していきましょう」

いろいろあったものの、今日中にテーマを決めることができた。ってか、委員会と陣内の中が険悪すぎるんだけど、これから大丈夫なのか?


***


 昨日テーマが決まり、今日は企画内容や展示品を決めるらしい。

「じゃあ、まずは展示品から決めていこうと思います」

委員長が話し合いを始めようとしたとき、陣内がそれを止めた。しかし、それはいつものような威力がなかった。

「あ、あの。その前に言いたいことがあるのですが……」

「なんですか?」

「昨日は言い過ぎたと思い……、このままの状態で進めるのも効率が悪いので、その……ごめんなさい」

みんなは黙って陣内の言葉を聞いていた。

「いいですよ。私たちも押し付けられたとしても、委員としての責任が足りなかったです。これから一緒に頑張りましょう」

委員長がそう言うとほかの委員もうなずいた。

「では、展示品についてですが、例年同様看板制作が主になっていきます。あとは、ポスターも作ってもらいます」

「委員長、昨日テーマが決まって原宿についていろいろ調べてみて、こういうのを取り入れたらいいのかなと思って考えてきたんですけど……」

委員の一人が1枚の紙を持ってきた。

「あ、いいじゃん! これをもとに看板とかポスターつくっていこう」

昨日とは打って変わって話し合いがスムーズに進み、看板やポスターは紙を持ってきた子を中心に、加えて絵が得意な陣内が担当する。桧倉と加西は企画のファッションショーを担当し、俺と新島はバザーのクレープを担当することになった。例年に比べて事は早く進んでいる。しかし、2学期になるとクラスのこともやらなくてはいけなくなり、夏休み中にある程度終わらせなければいけないためやはり夏休みは文化祭の準備につぶされてしまうらしい。

あぁ、俺の夏休みが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る