暑い時期に運動会はするべきではない
6月になるとだんだん暑くなって衣替えをしてくる奴も増えてきた。と言っても、
「今週から運動会準備期間です。みんなにとっては高校の初めての運動会だから、わからないこととかあると思うけど、先輩がいろいろ教えてくれるので皆さん頑張ってくださいね~。あと、組み分け表はこの紙に載ってるので見てください」
みんなは
「
「おう。そうか」
帰宅部で活動するようになってからなぜか
「あと、
「そうか」
え、偶然5人とも一緒なの? 三宅先生まさか仕組んだ?
「あっ! いたいた!」
「どうしたの? 桧倉さん」
「なんか、先輩から聞いた話なんだけどさ~、運動会に部活動紹介と部活動対抗リレーってのがあるらしいよ」
「えっ!そうなの!?」
「帰宅部の紹介って何すんだよ」
「それは部長の燎太が考えてよ」
「それ、俺が考えなきゃダメ?」
「あんた、部長でしょー。そんぐらいやりなさいよ」
「そういうのは副部長の陣内さんの方が得意だと思います」
「一人で無理なら僕も協力するよ」
あぁ、加西ってホント優しい。
「しょうがない。加西がそこまで言ってくれるなら俺がやろう」
「いや、
午後からは運動会の応援練習をして、放課後は各自部活に向かった。俺たち帰宅部には部室がなく、教室に残って部活動紹介の内容を考えていた。
「みんな、遅くなってごめんね~。あれ? みんな何考えてるの?」
「運動会の部活動紹介の内容だよ」
「あ、それ、帰宅部はやりません」
「は?」
「え、だって先輩から聞いたよ!」
「ほかの部活はちゃんとするんだけど、帰宅部の部活動紹介をやってしまったらあなたたちみたいな人が増えてしまうから辞めることにしました」
「燎太、一応考えてたのにな」
「残念ね。部長さん」
陣内に関してはちょっと喜んでません?
「部活動対抗リレーも参加しないんですか?」
「加西くん、いい質問です! 部活動対抗リレーまで出れないのはかわいそうだなーっと思ったので、部活動対抗リレーには参加します!」
「三宅先生、有難迷惑です」
「え、そうなの? みんなやりたくないの?」
「僕、走るの苦手なんだけど……」
「まぁ、
「でも、確かリレーって6人じゃなかったか? 俺ら5人しかいないから出られないんじゃねーの?」
「うそ! もう出るって先生たちに伝えちゃった……」
「じゃあ、
「私はちょっと……」
「三宅先生が出ると決めたのなら、一緒に走るべきではないですか?」
「ねぇ、やらないって選択肢は――」
俺がやらない方向を提案しようとしたが三宅先生に遮られた。
「仕方ないよね。責任とって私も走ります!」
あー。やっぱそうなりますよねー。
「でも、私結構やばいんだよね……」
「じゃあ、今からリレーの練習しようよ! 結優も走るの苦手だって言ってたし」
俺たちはほかの部活の迷惑にならないように校庭の片隅でリレーの練習を開始した。そこで各自の50m走のタイムを計ってみた。
「
俺も陣内も平均に近いタイムだった。よかった。最近少し動くだけで疲れてたからタイム落ちたかと思ったぜ。
「さすが元運動部だねー。
「2人ともすごいね! 僕なんかが走ったら絶対足引っ張っちゃうよ」
「じゃあ次は加西くんと三宅先生ですね」
そして二人のタイムを計測したのだが……
「えーと……。まず、加西くんは8秒04、三宅先生は12秒78です」
三宅先生のあまりの遅さにみんなは何て言えばいいのか戸惑っていた。
「だから言ったじゃん。私ずっと足遅かったんだから」
「三宅先生の場合はそれだけじゃないと思います」
「なんて言えばいいんだ?」
「うーん。走り方もダサいですよね」
言っちゃった。せっかく陣内と新島が濁してたのに、桧倉堂々と言っちゃったよ。
「走り方そんなにダサい!?」
三宅先生はかなりショックを受けていた。今までも周りが気を遣って言ってこなかったんですね……。
「とにかく、走り方も含めて練習を始めてみましょう」
運動会までの1週間。俺たち帰宅部はリレーの練習が放課後の活動内容になった。
***
運動会当日。梅雨の季節だというのにこの日に限ってとても晴れていた。雨で中止になればよかったのに……。
「燎太ー! 急がないと間に合わないよ!」
「おう」
部活動紹介の時に唯一何もすることがない俺たち帰宅部はいつものように雑用に回された。女子2人が放送係。そして、男子3人は器具係をさせられている。特に困るのが張り切っている男子バスケ部とかは小道具をやたらと使ってくる。
普通に部活動紹介しろよ。準備と片づけをしてるこっちの身にもなってくれませんかね……。
「みんなお疲れー。手伝ってくれてありがとね」
「俺たちそういう部活なんでしょ……」
「2か月もやればみんな分かってきたのね~」
「夕姫先生、次がリレーですよ! 大丈夫ですか?」
「1週間も練習したんだよ! 大丈夫、大丈夫」
「三宅先生、足、震えてますよ」
「加西くんこそ、震えてるんじゃない?」
「僕、すぐに緊張するタイプなんですよ……」
「2人とも1週間でかなり上達したと思うわ」
「俺もそう思う」
「特に夕姫先生は走り方が断然良くなった!」
桧倉、結構そこディスるなぁ。
「そろそろ時間だわ。行きましょう」
部活動対抗リレーは運動部と文化部にまず分かれて、それぞれの上位2チームの合計4チームで決勝を行う。文化部には吹奏楽部、ESS、美術部、箏曲部、新聞部、合唱部そして帰宅部の7つの部活で競われた。
「運動部の次は文化部の予選です。昨年決勝に進出した合唱部と吹奏楽部が今年も決勝に進出するのでしょうか。それともほかの部活が進出するのか! 今年から発足した帰宅部にも期待です」
いや、期待しないでいいから。
「それでは参りましょう! 位置について、よーい、ドン!」
パンっとスタートの合図が鳴り響いた。
「さぁ! みんな一斉にスタートしました! 現在トップを走るのは合唱部です! しかし、その後ろには帰宅部がついています!」
中学校で運動部に入っていた新島は合唱部と接戦を繰り広げていた。そして、2位と3位の差はかなり開いていた。しかし……。
第2走者の三宅先生にバトンが渡った。その途端に次々と抜かされていき一気に最下位になってしまった。
第3走者の桧倉にバトンが渡るとものすごいスピードで追い上げて行った。さすが元陸上部だ。
第4走者の加西は一生懸命に走った。にしても、懸命に走る姿もかわいいですね。うん。
俺が見とれているうちに第5走者の陣内にバトンが回っていた。陣内は1人抜かして3位になっていた。そして、あっという間に俺にバトンが回ってきた。
「1人ぐらい抜かしなさいよ」
「あいよ」
なに、すごいプレッシャーかけてくるじゃん。陣内がかけてきたプレッシャーを軽くかわして俺は走り出した。
「さぁ、ついに、アンカー対決になりました! アンカーにはグラウンド1周走ってもらいます! 現在1位は合唱部、その後ろに吹奏楽部、帰宅部が並んでおります。残り半周――おっと! ここで帰宅部が吹奏楽部を抜かしました!」
「燎太! 頑張れー!」
「行け!」
桧倉と新島の声が聞こえてゴールテープも見えてきた。すぐ後ろにはさっき抜かした吹奏楽部のアンカーがついている。
「1位は合唱部です!」
1位でゴールした合唱部がゴール付近で盛り上がっている。その後ろの方で走り終えたみんなが待っていた。もうゴールは目の前だ。
「そして、2位は今年発足したばかりの帰宅部です!」
「燎太! お疲れ!」
「お疲れ」
「燎太、すごかったよ」
「久坂部くん、お疲れ」
「お疲れさま。ちゃんと1人抜かせたわね」
「おう」
プレッシャーかけられましたからね。抜かさないと怒るじゃん。
「運動部、文化部それぞれ上位2位に入った、陸上部、バスケ部、合唱部、帰宅部の皆さん、決勝進出おめでとうございます。決勝戦も頑張ってください」
「え、待って、また走るの!?」
「夕姫先生、ルール忘れてたんですか?」
「もう走れないよ、私」
「僕も、もう体力が……」
「あと半周だから、がんばろーぜ」
「あなたはあと1周よ」
「わかってるよ」
***
部活動対抗リレーの決勝戦が行われる少し前、入場門で準備をしているとある男子生徒が2人近づいてきた。
「よ! 晟斗」
「お前、なんでバスケ辞めたんだよ。まだあれだけ走れるならできるだろ」
新島はその2人を無視していた。
「なに無視してんだよ」
「まぁ、できるわけねーよな。
「バスケではもう目立てないからってこんな落ちこぼれと一緒にいて目立とうとするとか、お前、悪い性格だな」
「はぁ?」
「晟斗、落ち着いて」
すかさず、加西が止めに入った。しかし、その顔はとても怯えた表情だった。最初は俺も聞き流していたが次第に状況が悪化し見て見ぬふりができない状況になってしまった。ここは、仲裁をした方がいい。
「お前らと新島との関係はよく知らないけど、部活動対抗リレーにそんなに勝ちたいなら心配しなくても帰宅部には勝てるぞ」
「そういう問題じゃねーよ」
「つーか、誰?」
あぁ、そういう問題じゃないんだ。それに、俺の方が誰って聞きたいんですけど? あなたたち誰?
「そうか。てっきり、リレーに勝ちたいのかと思ってた。まぁ、そもそも俺はお前たちの問題とやらに興味はない。じゃあ、話は終わりだな」
「なに勝手に終わらせてんだよ」
「なにをしているの?」
そこに腕を組みながら陣内がやって来た。その隣には桧倉もいた。
「良かったな。落ちこぼれ仲間が来てくれたよ」
「バスケで目立てない分たくさんここで目立つといいな」
2人がその場を去ろうとしたが、陣内は呼び止めた。
「待ちなさい」
「なんだよ」
「あなたたち、まだ認められないの? バスケ部が昨年の大会で負けたのはあなたたちが弱かったからよ。それなのに未だに新島くんがバスケを辞めたことを理由にしようだなんて図々しいわね」
「俺たちはあんな奴のせいになんかしてねーよ!」
「そう。ならいいのだけれど。……それと、そんなに目立ちたかったのなら安心しなさい。今、あなたたち十分に悪目立ちしているわ」
気づけばあたりには多くの人が集まっていた。あの2人も事態が大きくなっていることに気付きすぐに去って行った。
***
このあとにすぐ、部活動対抗リレーの決勝戦があったが案の定帰宅部は4位となった。そのあとは何事もなく運動会は進み、幕を閉じた。
運動会が終わり、片づけをしていると、新島がさっきのことを謝りだした。
「ごめん……」
「あなたが謝ることではないわ」
「別に、気にしてねーよ」
「晟斗、あの2人と何かあったの? 別に、話したくないならいいんだけどね」
しばらく晟斗は黙ったままだった。しかし、晟斗は話し出した。
「中学の時、バスケの試合中にチームメイトとぶつかったんだ。その時、あっち側の当たり所が悪くてもうバスケができなくなってしまった。俺のせいだった。自分がゴールに入れようと必死で周りが見えてなかった。チームの輪を乱して、仲間まで傷つけた俺にバスケやる資格なんてないって思って辞めたんだ。でも、そう思うとどの部活にも入るのが怖くなった。また、俺のせいでだれかが犠牲になるんじゃないかと思って。だから、あのとき入部届を空白で出したんだ」
「じゃあ、今は予定と違うね」
「え?」
「だって、誰かさんのせいで『帰宅部』に入部させられたじゃん」
桧倉さん。お願いだからそんなに俺を見ないで。そんなに根を持っているんですか?
「そうだな。ホント、予定外だわ」
そう言いながらも新島は笑っていた。
「ありがとう。なんか、スッキリした」
ちょうどここの片づけも終わり、新島は俺の横を通り過ぎる時に肩を軽くたたいてクラスのいつものメンバーのところに戻った。
いや、それだけじゃ、何も伝わらないんですけど……。
でも、6月の蒸し暑さとは別の温かさを一瞬感じた。と思ったらすぐに蒸し暑さが勝った。あぁ、暑いな……。早く帰りたい。
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