青春なんてものはこの世に存在しない。
sorairo
未加入希望。帰宅部
春。別れの季節だ、出会いの季節だと世間は言うけれど俺には別れる奴も出会う奴もいない。だから、俺にとって春は4つの季節のうちの1つですぎない。むしろ、気の合う奴を見つけては群れだして小さな
と、入学式当日に心の中でぼやき、何もせずにいたらあっという間に
「今日が部活動入部届提出の締め切り日です。ここは部活動加入が校則なので、未提出は許しません。きっかけは何でもいいので3年間やりたいと思える部活動に入部してくださいねー」
担任の何だっけ? ……担任の先生が朝のSHRの最後に言った。いや、無いよ。やりたいと思う部活。ない場合はどうしたらいいんですかね、先生? まぁ、いいや。なんでもいいから書いてやれ。
『帰宅部』とありもしない部活名を勝手に書いて俺は提出した。
時間は淡々と過ぎ、帰りのSHRももう終わる。あとは帰るだけだ。
「明日の連絡事項はこれくらいかな。じゃあ、挨拶をしましょう。あ、
「起立、礼」
挨拶をした後俺は前に出た。
あ、やっぱりばれますよね。だって、帰宅部なんてないもん。でも、他の4人は何なんだ?
「この5人の共通点は何でしょう?」
先生が急にクイズを出してきた。
え? 共通点? あるの? まだ会って2週間なのに発見したの?
「もしかして、5人とも入部届を白紙で出したんですか?」
「正確には違うけど、大体正解」
先生は人差し指をピンと立てた。
先生、若くてかわいいから許されるけど、このポーズ、5年後やってたら痛いですよ……。
「大体ってことは誰かは何か書いていたんですか?」
「そう。ここにいる誰かがありもしない部活を書いて提出しました」
と言いながら先生はガッツリ俺を見てきた。それに気づいた他の4人も俺を見始めた。
いや、そんなに見ないで、恥ずかしいから。
「お気づきだと思いますが、この久坂部くんが『帰宅部』と書いて提出しました」
気づかせたの先生ですよね……
「でも、偶然にも帰宅部入部希望者が他にも4人もいました」
「私、帰宅部なんて書いてませんけど」
「ぼ、僕も、白紙で出しました……」
「
「俺も」
「書いてないってことは、いわゆる『帰宅部』ってものに入部したいってことでいいんでしょ?」
先生はよく分からないでたらめな論理を披露していた。
「そもそも、帰宅部は許されないのでは? だから、何かの部活に入部させようと説得するために私たちを残したのではないんですか?」
長い黒髪の女子生徒が全くの正論を言った。
「本当ならそうするところなんだけどね。たまたま5人もそろったし、本当に『帰宅部』を作ることになったの。その部員があなたたちです」
急に言われてみんなぽかんとした表情だった。
いや、そりゃそうでしょ。
「帰宅部って帰るだけですよね? いいんですか? そんな部活作っても……」
マッシュルームヘアの男子生徒が少し困り顔で聞いた。
ってか、かわいい顔してるなこの子。本当に男子?
「それについては安心してください! 校長先生からの了承はもう得ています」
「
「本当ですよ。だから、今日からあなたたちが『帰宅部』の部員で私が顧問です! よろしくお願いします」
「よろしくって……俺、まだ入るって言ってませんよ」
「じゃあ、新島くんは何か他の部活に入るの? バスケ部とか」
「バスケはもうやらねーよ!」
急にその新島って奴は声を荒げた。何か気に障ったのであろうか。
「確かに、今から考え直してちゃんと部活に入ることをお勧めします。でも、2週間も考える時間があって入ろうとしなかったあなたたちはこの『帰宅部』に入ることを選びますよね? 特に、久坂部くんは」
やっぱ俺に振られますよね……。
「まぁ、どの部活にも入らず帰宅部を許してくれるのなら」
「ほかの4人は、どうする?」
「……僕も、入ります」
「じゃあ、萌百菜も」
「いいよ、俺もそれで」
「陣内さんは?」
黒髪の女子はずっと黙っていた。
「私は……」
それからまた何も言わなくなった。
「この5人は同じクラスだし結構人選的にもいいと思うけど」
それでもしばらく黙ってやっと小さく口を開いた。
「私も……入ります」
「よし! 決まりだね! 部長は『帰宅部』って書いた久坂部くんね」
「え、俺ですか? 嫌です」
「あら、わざわざあなたの希望通りの部活を作ってあげたのに?」
先生の目は「やりなさい!」と言わんばかりに鋭かった。
「やります! やりますよ」
この先生、普段みんなに接する時より怖い……。
「副部長は……陣内さん、やってみない?」
「私ですか」
「陣内さんは冷静だし、部長があれだから支えてほしいんだよね」
あの、俺に部長をさせたの先生ですよね?
そして、ちらっとその黒髪の女子は俺を見てため息をついた。
「仕方ないですね。やります」
え、ひどくない? ほぼ初対面だよね? 俺たち。
「ちなみに、みんなお互いの名前知ってる?」
すると俺を含めてほとんどの人が不安な顔をした。しかし、一人だけ表情を変えなかった。
「私は全員言えます」
「陣内さんだけ? 同じクラスなんだから覚えてよねー。じゃあ、一応自己紹介して。部長から」
自己紹介とか恥ずかしいからやりたくないんだけど……。でも、仕方ないのですることにした。
「
先生は「え、もう終わり?」みたいな顔で俺を見ているけど、終わりですよ。
みんなも次があるのかと待っていたが、ないと悟って次の人にいった。
「
あ、俺も「部長を務めます」って言えばよかったのかな?
なんて思っていると次の人に進んだ。
「
マッシュルームの男子、名前までかわいいじゃん。ホント、女の子みたい。
「
うわ、こいつとてもチャラいな。金髪だし。怖いから関わらないようにしよう。
「
背高いしモテそうだな……。
「じゃあ、最後に、担任だから覚えていると思うけど覚えていない人のために一応私も自己紹介するね。みんなの担任であり、顧問でもある
俺のこと言ってんのかな……。覚えます、覚えますから。三宅先生ね。
「じゃあ、早速、帰宅部の皆さん。お仕事です!」
「帰宅部って、帰るだけじゃないの!?」
桧倉は帰ろうとしていた足を止めて三宅先生に詰め寄った。
「ただ帰ってたら部活に入った意味ないでしょ。そんなの学校が認めるわけないじゃん。下校時間の18:00までは学校の役に立つことをやってから帰る。それが帰宅部の活動内容です!」
いや、そんなの聞いてないですよ。
他の4人も三宅先生の言うことにあっけにとられていた。
「ボランティア活動ってことですか?」
「まぁ、簡単に言うとそうなるかな」
「だったら初めからボランティア部にすればよかったのでは」
「帰宅部って名前の方がみんなも食いつくかなって」
「まんまと三宅先生に騙されたな」
「えー! そんなのずるいよ、夕姫先生!」
「説明不足ってやつかな? まぁ、とりあえず、仕事やるよー」
「ちょっと、説明不足で片づけないでよ!」
そう言いながらも桧倉は三宅先生の後をついて行った。そして、加西も新島もそのあとに続いた。
「部長さん。あなたも行くわよ」
副部長の陣内もそう言うと歩き出した。
文句言いながらみんなついていくのね……。これはもう逃げられないな。あぁ、変な部活に入ってしまった。
***
家に帰ると妹の
「お兄ちゃん、“くすのきさやか”さんって覚えてる?」
「は、誰?」
「覚えてないの? お兄ちゃんサイテー」
「お兄ちゃんに向かってサイテーってなんだよ」
リビングに着くと3人掛けのソファーに紘夏が座った。そして、その隣をポンポンとたたいた。ここに座れってことね。紘夏の指示したところより少し離れたところに腰を下ろした。
「今日ね、
「ふーん」
「最初は私も気づかなかったんだけど、図書委員の仕事をしてたら紳が本を借りに来てその時に紳から話しかけてくれてそれで分かったの!転校生が来てたのは知ってたんだけど、まさか紳だったなんてね~」
「よかったな」
「もう! ここまでヒントを上げてるのにわかんないの? 紳のお姉ちゃんが“くすのきさやか”さんで、お兄ちゃんの同級生だよ!」
「そんな奴いたか?」
「あぁーもう! お兄ちゃん、1年間しか一緒にいなかったから覚えてないんだよ。小学校の入学式の集合写真持ってきて。まだ残ってるでしょ」
「えー面倒くさい」
と言いながらも入学式の写真を取りに行った。俺って結局妹に甘い。
「はいよ」
「うわぁー! お兄ちゃんがまだかわいい時だ! なのに、9年後にはこうなるなんて……」
「いいから、その、くすのき? さんって人誰だよ」
「この人」
紘夏がそう言いながら指さした人は俺の隣に座っている女の子だった。出席番号隣だったんだ。
「……あ、思い出した。確か入学式の時蝶ネクタイが曲がってるとかなんか言ってきた奴だ」
「やっと思い出した。まぁ、お兄ちゃんたちは仲良くなかったもんねー」
「で、その
「そうそう。紳から聞いたんだけど、さやかさんとお兄ちゃん同じ高校みたいなんだけど、もう会った?」
「9年も経てば顔が変わってわかんねーだろ」
「あ! ちなみに名字が変わってて“じんない”になってたよ」
「ふーん……」
ん、じんない? ってことはじんないさやか? 俺はその名前を最近聞いた気がした。
「まぁ、高校はたくさん人いるし、どうせまたお兄ちゃんは誰とも話さず孤立してるだろうから会うチャンスもないだろうけど」
「いや、会ったぞ。陣内沙彩花。クラスも部活も一緒だ」
「はっ!? お兄ちゃん同じクラスのくせに分かんなかったの!? って、お兄ちゃん部活入らないんじゃなかったの?
「俺も入る気はなかったんだけど、いろいろあって入れさせられたんだよ」
「何部?」
言っても分かんないだろうと思いながらも一応言ってみた。
「帰宅部」
ほら、ぽかんとしてんじゃん。まぁ、普通そうなるよな。
「お兄ちゃん。何言ってるの」
やめて、そんな冷めた目で見ないで!
「噓だと思うならその陣内の弟に聞いてみろよ」
「じゃあ、明日聞いてみる」
紘夏は気が済んだのか自分の部屋に戻って行った。
後日、紘夏は陣内の弟から帰宅部のことを聞いてきたらしい。
「なんだかよく分かんないけど、お兄ちゃん頑張ってね」
俺が学校から帰って来た時、一言そう言ってきた。なんだかんだ言ってかわいい妹だ。
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