第015話:朋代 in 朋代
「むっかー! もういい! 知らん! 季節限定キャラメルソースのスペシャルサンデー頼んでやる!」
って叫んだ美雨ちゃんにしたがって、それを2つ頼んでみたところ。
「いや、え? 何、朋代、お前も食べんの、それ?」
「何? 食べちゃいけないの? っていうか下の名前呼び捨てなの、ちょっと気になるなあ」
「あ、いや、そう言われても……、高野さん、とか今さら言う方がむしろ恥ずかしいんだが……」
と、顔を赤くして照れだした。元々の久留名美雨さんがなかなかの美少女っぷりだから、照れてる姿は可愛い。私はもはや三十路のお姉さんだからねえ、十代の女の子なんて、見ていてものほほんとしてノスタルジーを覚えちゃうわけですよ。ただ、今は、我が身もソレなのですが。感性までは急には戻らないね、うん。
……でも、そういやさっき、八坂は感性が変わってるって言ってたか。女性のそれになってるっぽいようなことを。何だろ? まあ、そりゃ、女性の脳になってなければ女性の肉体は動かせないんじゃないかと思うけれど。パーツからして違うわけだからね、男性とは。いやー、そもそもが自分である私と、性別ごと違う存在になってしまった八坂とでは、色々と相違点がありそうだ。気になる。しかしそれ以上に、今、気になるのは……
「ねえ、私と八坂って、結婚したって言ってたよね」
「ああ。俺の認識していた2017年の世界においてはな」
「いつ結婚したんだっけ?」
「2016年11月22日。俺の主観からすると、去年だ。入籍と同日に結婚式をした。大変だったんだからな、火曜日に挙式なんてまずやらない日取りだぞ」
そう言われましても。……ただ、まあ、確かに、いい夫婦の日に式やりたい! とか、私なら言いそうだ。いや、言うな、うん。
「ねえ、私たちってどこで出会ったの?」
「それは……」
「あ、それ、気になるー」
「……」
横から口を挟んできた美雨ちゃんの存在を改めて思い出したか、喋りかけた口を閉じてしまった。こいつ、かなりの照れ屋さんだなー。生年月日的には、年下なんだっけか。私、年下趣味はそんなにないと思うんだけど、好きになっちゃったら別腹ってことなのかな。いやいや別腹って。我ながら何とも下品な表現を。
「まあ、恥ずかしいならいいけれど」
「えー」
「そうか……、助かる」
「どっちから告白して付き合うことになったん?」
「ってお前なぁ!」
「おおー、気になるー。八坂? 八坂からアタックかけた?」
「違う! 朋代からだ!」
うっそ、マジで? 私が告ったの? え、うそ?
「うっそ、マジで? 私が告ったの? え、うそ?」
思いっきり思ったことを口にしてしまった。恥ずい。三十にもなってこんなことでキョドるな、私。いや、脳が若返ってるせいか? そのせいか? そうなのか? よし、そういうことにしておこう。
「ああ、そうだよ。ちょっと気まずくなりそうだから言わないでおいてやった俺の気遣いを無駄にしやがって」
「え、ちょ、私のせい? 美雨ちゃんが突っ込んでいったからじゃなくて?」
「質問の第二波を押し寄せさせてきたのはお前だろうが」
「まあ、それはそうかもだけど、だけど、だけどちょっと待って、私から告白したことが気まずくなりそうってどういうこと?」
ちょっと甘酸っぱい感あるけど、別に気まずい感じはしないと思うけど。何かよっぽどのシチュエーションだったんだろうか? 何だ? 何をやらかしてくれた、未来の私。
っていうか気になって訊いちゃったこの質問がまた藪蛇になってなきゃいいんだけど……。
「……仕事の関係でな、御社と一緒にプロジェクトがたちあがって」
「はぁ……」
「……“高野さん”が御社の担当者でな」
「はぁ……」
「俺と直接のやり取りをずっとしていたんだが」
「……待って、読めてきた。プロジェクトの完遂に打ち上げを私から誘った?」
「ああ」
「……もしかして、結構、飲んだ?」
「俺が勧めたわけじゃなくて、“高野さん”が自主的に飲んだ、っていうか、酒に呑まれたんだ。俺はむしろ止めた方だ」
「……」
うう、思わずテーブルに肘をついて額を抱えてしまった。私、酒癖がちょい悪だから、あんまり飲まないようにしてるんだけど、大きな仕事が終わった時くらいはパーッといってキリをよくしようって思ってるんだよなー……。で、大抵、心を許した相手とじゃないと一緒に外で飲んだりはせず、おうちで一人飲みなんだけど……。何か、よっぽど、八坂……、八坂君――今後、呼び捨てはやめよう……――に、気を許すエピソードがあったのだろうか。いや、訊くまい。気になるけど、さすがに訊かない。墓穴掘りまくる未来が視えた。
「ほぇぇ……、その勢いで、付き合って、って言ったの? 朋代ちゃんが、八坂に?」
オトナの男女が付き合うことになるきっかけなんて、大抵、勢いとノリみたいなもんだろう、と思ってはいるものの、クラスの誰誰が~とか部活の先輩が~とかそんな夢見る十代女子には――しかもここは女子校だ――まるで別世界の出来事だろう。口をぽかんと開け、目を丸くしている美雨ちゃん。うーん、可愛い。
「付き合って、っていうか……、あー……」
「いや、いい、それ以上言うな、言ったら切腹する、私が」
幸いにしてここはファミレス、ナイフはテーブルに常備してある。冗談半分で、食器置きの容器に手を伸ばすと、案の定、マジに受け取った美雨ちゃんが止めに入ってくれる。
「わーっ!? だめだよっ!? 聞かない、聞かないから! 八坂も言わなくていいから!」
「言わん。言うつもりはない」
ちょっと理屈っぽくてぶっきらぼうな感じだけれど、基本は優しいんだろうな、八坂君という人は。……まあ、酔った勢いがあったとはいえ、そもそも一緒に飲もうと誘ったあたりから、私の人を見る目は間違っていなかったんでしょうよ。で、そうなると、次に気になるのは、だ。そして、私が反撃を受ける可能性の少なそうな質問は、だ。
「ねえねえ。プロポーズのことばって、何だった?」
これでしょ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます