第005話:? in 彼女

「私いるしっ!?」


 私が私でなくなっていたっていう事実にもめげずに、学校にちゃんと遅刻せずに来たんだよ。えらいでしょ。ほめてよ。

 だっていうのに、教室に入ってみたら、いつも私が座っている私の席に、私がいた。私がいて、フツーに、リノと話してた。何ソレ。この私、本物の久留名美雨をさしおいて、何でニセモノがリノと話してんの。私より先に来てんの。ムカつくなー。


「ねえ、ちょっとアンタさあ」


 つかつかと私の席まで歩いていくと、ニセモノの二の腕を掴んでやる。ニセモノは驚いた様子もなく、余裕ぶっている。何こいつ。


 私がカナエの身体になってるってことは、元々カナエの身体にいたはずのカナエはどっか別のところに行っちゃってるんじゃないかと思う。だとすると、フツーに考えたら、私の身体にはカナエが入ってる――っていう表現が適切かどうかわかんないけど。まあ、暫定的にね――って思うのが妥当な線じゃないかな。

 でも、確信はない。っていうか、その可能性、減った。だって、私が私の身体を見て驚いたのと同じように、カナエだってカナエの身体を見たら驚くはずだもん。なのに、カナエは冷静にしてる。表情はむしろ、訝しんでるって様相だ。つまり、こいつはカナエじゃない、って考えといた方がいいんじゃないかな、って。


 そして、そのニセモノは、私の次のひと言で目を剥いた。


「誰なの?」

「っ!!」


 あれ? そんなに何かグッサリ刺さるようなひと言? 犯人はお前だーッ、的な感じで、勢い込んで言ったってわけでもないんだけど……。その反応に、こっちこそびっくりだよ。ニセモノなんだったら、もっとこう、泰然自若として堂々としてて、私が黒幕だよお前の身体を入れ替えてやったのさフハハハーッてなノリであった方が面白いんだけど。話的に。違うのか。黒幕じゃないのか。黒幕だったら、「誰?」って訊かれたくらいでそんなに驚くはずないもんね。

 カナエじゃないし黒幕でもない? じゃあ誰よ。きつく問い詰めてやりたい。


 ただ、この状況、リノから見たら、私のことがカナエとして見えてるわけで。カナエがミウに突如として掴みかかってる、っていうことになってるわけで。何か変に心配させちゃってヤだな。


「昼休み。話があるから。いいよね」

「……うん」


 とりあえず、それだけ言い残すと、真面目に授業を受けることにした。……そういや、これ、筆跡とかどうすんの。筆跡鑑定みたいなの受けさせられたらヤバイんじゃね? そんな状況になることなさそうだけど。友だちにノート貸すのもやめといた方がいいかなー。うちの学校でノート貸してってあんまないから心配しなくてもいいか。

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