第002話:? in 彼女

 何が起きたかちょっとよくわかんない。


「あれー? えーと。うーん?」


 朝起きたら私は私じゃなくなったっぽい。声が私の声じゃなかった。見下ろした胸のサイズが、私のじゃなかった。パジャマの隙間から、谷間が見える。うおお、何だコレ。マニキュアだって、こんなラメったのしたことないし。そもそも、こんな部屋、来たことないし。布団も違うし、パジャマも違うし。携帯とか、私の使ってるのじゃないし。というかこれ、カナエの携帯じゃない? このツメも、カナエのじゃない?


「え、うそ、カナエ?」


 携帯を開けると、カナエの自撮りが目に飛び込んできた。よくもまあ、こんな、自信満々に写れるものだと呆れちゃうわー。まあ、間違いなく、カナエの携帯だった。


 カナエとは、別に特別仲が良い友だちってわけでもない。昼休みに、お互い、それぞれのグループがあんまり集まってなかったら、たまに一緒にお弁当食べるくらいの仲だ。放課後に遊びに行ったりすることもまずない。だから、家に来たことないし、呼んだこともないし、だからここがカナエの部屋で、私が呼ばれてお泊まりしてたってことはないと思う。たぶん。


 何かよくテレビとかで、お酒にのまれてわけがわからなくなっちゃって記憶なくしちゃった、とか、そんなの見ることあるけど、私お酒なんか飲んだことないからそんなこと起こるわけないと思う。たぶん。


 携帯で自撮りしてみたところ、写ったのはカナエの顔だった。つまり私は、今、私じゃなくなってて、カナエになってる。っぽい。


「いやー。わけわかんねーし……」


 参ったなー。私。どうした。何があったんだろう。ほっぺた抓ってみても、痛いだけで、夢から覚めるとかそんなことにはならない。夢じゃないっぽい。

 ゆうべは何してたっけ。悪いモンでも食ったっけ。カップラーメンのスープにポテトチップスひたして食べたりしたっけ。いや、してない。夏休み明けてそんなに時間経ってないから、夏のバカ食いを反省してダイエッターになってるんだった。あれ、お腹の肉、何か減ってるし。あ、そうだ、私のからだじゃなくなってるんだ。カナエめ、細いぞおい。


 何かもうほんとわけわかんないけど、携帯見ると、朝7時過ぎてるし、トイレ行きたいし、とにかく学校には行っとかないといけないんじゃないかなーと思って、制服に着替え始めることにした。


 っつーか、胸でかっ。邪魔っ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る