第2話
現在高校2年生の私は吹奏楽部の副部長を務めている。
部長が不在で、顧問の教師も忙しい、とのことだったので、その日、私は目下に迫ったコンクールに向けた、自分の楽器パートの最後の調整もそこそこに、とりあえず場の指揮を執り、ひたすらに指揮棒を振り続けた。
降って沸いた盛夏のような暑い日だった。
移行したばかりの薄い生地の制服でも、ひたすらに、汗が滴り落ちていく。
絶えず肌を這う汗によって身体に布が密着する、あのあまり気持ちがいいとは言えない感覚を、よく覚えている。
そろそろコンクールの時期も近い7月の中旬を少し過ぎた頃。
夏が似合う叔父さんは、夏を迎える少し前に、ひとりで、自殺していたそうだった。
私の母はお喋りで、まさしくステレオタイプとしての女性の典型のようなひとだ。
叔父さんの訃報を私が知ったのは、部活帰りのその日、棒のようになった足を引きずったまま、帰宅の挨拶もそこそこに家に入った時だった。
やや前傾姿勢で、食い気味に話す彼女の癖が、容易に想像できる、彼女のけたたましい音量の声が、ただ脳裏で反芻されていたのを思い出す。
『__まだ若いのに...__どちらで亡くなったの...__独り身でしょ...__失礼な言い方だけど...__ちゃんとした大人としての話...__女性にだらしなかったんじゃないかしら...__どうするのよ...__なんか「そういう」ところあったじゃない...__いやなにも私もね...__』
母の声に、死んだ人間を悼むという色はあまり感じ取れなかった。
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