卒業

卒業したら「何か」が変わる


なんとなくそう思っていた



卒業証書を片手に校門を出る


卒業して


最初の一歩


でも


辺りの風景は


変わらない


馴染みの駄菓子屋も


地下駐車場で遊んだアパートも


目に痛いほどの青い空も


空を舞う白い鳥も


変わらない


いつもの風景



なぁんだ、と


卒業ってこんなに呆気なくて


こんなにも代わり映えしないのか、と


ちょっとだけ落胆して


ほんのちょっとだけ大人に近づく



帰り道の途中


洋服のお店のショーウィンドウ


反射して映った自分の姿


あまり伸びなかった背


大して変わってない顔立ち


最後まで似合わないままの制服



やっぱり何も変わってない、と


もう一度落胆して前に進む




前に前に前に進んだ



立ち止まって道を振り返る




校門前で落胆している自分


ショーウィンドウを見て落胆している自分


新しい生活に目を輝かせている自分


疲れきって諦めかけてる自分


全力でやりきっている自分


恋に溺れている自分


日常に飽き飽きしている自分


没頭して夢中になっている自分



違うね、変わったね、成長したね



変わってないはずの自分は


いつのまにか変わってて


立ち止まっていたはずの自分は


いつのまにか足を踏み出してて


子供だったはずの自分は


いつのまにか大人になってる


なんにも卒業していなかったはずの自分は


いつのまにか色んなことから卒業していた



こんなものなんだよね、きっと



なんとなく思い出した時に気づくんだよね



成長して卒業して、また成長していることに



だから



なんとなく思い出した時に告げようよ



過去の自分に告げようよ



「卒業おめでとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

徒然なるままに ルカカ @tyura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ