第9話突然の知らせ

ショメルはトイレから出て、掃除の手は止めてしばらく考えていました。ボーッと眺めていると、振り子時計のように一定のリズムで動き続ける、工場の作業は心をどこかに置いてきたようです。ただ無機質に繰り返すライン作業に追われる人の顔は皆辛そうです。

こんな事になったのも、僕が現実から逃げて来たからだ。でも結局それで良い事はなかった。やっぱり帰ろう、現実の世界へ。そこで家族とやり直してみるんだ。しかし心から笑うと言うことはショメルには難しい事でした。だからどうするべきか分からないのです。

その時、凄いスピードでショメルの元にやって来る者がいました。手を止めていた分、誰かが注意しに来たのかなとショメルは思いました。しかしそれは違うとすぐに分かりました。やって来たのはスピーディーRです。

「やあ、ショメル、久しぶりだな。お前に今日、良いニュースを持って来てやったんだ。知りたいか?」

スピーディーRは爽やかな笑顔で言います。考え事をしているのを邪魔されるのが少し嫌だったので

「なんだい、スピーディーR。今忙しいから手短かに頼むよ。」

と言いました。

「まあ、聞けって。現実の世界でなお前がいなくなってから、お前の両親に子供ができたって話だ。かわいい男の子らしいぜ。何でも両親は猫っかわいがりらしいじゃないか。お前の時とは大違いだな。」

もう、その話を聞くとショメルはいても立ってもいられませんでした。ショメルは一気に駆け出して行きます。後ろでスピーディーRが

「どこ行くんだ。勝手に持ち場離れるとむちで百叩きの刑にされるぜ。」

と言っていましたが気にもしませんでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る