第7話お誘いの理由

ショメルは一番簡単だからという理由で四番目のコンベアーの一番前で仕事をすることになりました。渡された部品を流れてくる物の穴に差し込むだけです。これぐらいならなんとかなるだろうと、ショメルは思っていました。

一個、二個、三個と順調に出来ます。それからどのくらい時間が経ったかは分かりませんが、ショメルが百個ぐらいやった時の事です。急にベルトコンベアーの速度が上がりました。流れてくる物と物との間隔も狭まりました。そうなると、もうお手上げです。ショメルが失敗する度にいちいちベルトコンベアーを止めなくてはなりません。最初は他の人も

「初めてだから仕方がないよ。」

と言ってくれました。しかしショメルはいつまで経っても上手く出来ずにいました。

ある日、白い帽子を被ったブリキの人形がやって来ました。バッジ付きの夢の世界の住人です。

「ショメル、お前は使えない奴だ。もっともっと練習しろ。これからはお前は食事の時間は無しだ。そもそも夢の世界の住人に食事は要らない。食べる楽しみが欲しいというから与えてやってるだけだ。分かったな。」

ここで働くようになってすぐ分かったことですが、夢の住人は眠りませんので、休憩時間は食事の時間だけでした。それすら奪われてしまうと、本当に働くだけの毎日になってしまいます。

ショメルはそうして皆の食事時間も練習しましたが、やっぱりついていけませんでした。すると今度は白いキツネのぬいぐるみがやって来ました。やはりバッジ付きの夢の世界の住人です。

「ショメル、お前には笑っちまうね。チャンスを与えてやったのに結局使えない。一番簡単な仕事なのに。もうこれ以上は無理だ。箒とちり取りで床の掃除でもしてろ。」

ショメルはこうしてライン作業から外されてしまいました。それからショメルはずっと箒とちり取りを手に工場の通路だの、小さい体を生かしてベルトコンベアーの下だのを掃除していました。ここで今、自分が出来る事はこれしかない。せめて与えられたことはしっかりやろう、ショメルはそう思い精一杯掃き掃除をしていました。

しかしショメルは不器用なのでしょう。掃除中に作業をしている人とぶつかって、それで作業を中断させてしまったり、ちり取りを持っていて転んで、商品にちりをかけてしまうこともありました。その都度、怒られてはいましたがある日、見知った顔がやって来ました。

「やい、ショメル。お前は本当に何をやっても駄目な奴だな。」

ミスターJでした。

あきれ顔のミスターJの胸元には、立派なバッジがつけられていました。

「ミスターJ。話が違うじゃないか。僕は今まで通り夢の世界で楽しく遊んで暮らせると思っていたのに。」

ため息をつきながらミスターJは

「そのうえ馬鹿とくるんだからやりきれない。いいか、ショメル。皆が遊んでばかりいて成り立つ世界なんてあると思うか。そんなの無理に決まってるだろ。」

それでもショメルは

「僕がこの世界に来ていた時は遊んでばかりだった。」

と少し怒りながら言います。

ミスターJはポンポンとショメルの肩を叩いて

「それはお前がお客様だったからだよ。皆、お前の遊びに付き合っていたんだ。忙しいのにな。お前にこの世界を気に入ってもらって、あわよくば住人になってもらおうってわけさ。勧誘に成功すればボーナスがもらえるしな。」

ショメルは友達だと思っていたミスターJからこんな事を言われてやりきれない思いでした。

「でもな。」

一呼吸置いてからさらに

「お前が使えないおかげで、こっちはボーナスどころじゃない。お偉方から散々嫌味を言われる毎日だぜ。」

と大きな声で言いました。ショメルがうつむいてしまうとミスターJは少し腹ただし気に

「それでな、ショメル。お前は今からはずっとトイレ掃除だ。今度こそきちんとやれよ。」

ミスターJは最後にもう一度肩を叩いてから去って行きました。ミスターJが置いて行ったのは、トイレブラシと洗剤、それにクリーナーでした。



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