第4話門出のラベンダー

ショメルがふと足元に目をやると、一本の小さなラベンダーが咲いていました。それは儚げな紫色の何て事はない花でしたが、何故だか心に焼き付いったのでした。

そのまま歩き続けるとぽつぽつと雨が降り始め、やがて本降りになって水溜まりがあちらこちらで出来て行きました。雨雲は暖かな日の光を隠しまいます。ショメルはせっかくの自分の新しい門出が祝福されていないようで、何とも寂しい気持ちになったのでした。

結局、どれぐらい歩いたのか分かりませんでしたが、一行はなんとかお屋敷の門のところまでやって来ました。

開け放たれていたそれをくぐり、整備された道を進みました。それは改めて見ると、とても大きなお屋敷でした。ショメルは何だか自分には場違いな気がして少しの間その場で眺めていました。そうこうしているうちに、奥から青い制服を着た近衛兵が来ました。近衛兵はショメル以外には頭を下げると

「ご苦労様でした。」

と言いました。そして

「そこの者、着いて来い。」

とだけ短く言うとお屋敷の中へ入って行ってしまうのでした。玄関ホールを抜けて三階まで続く階段を昇り、その先の長い廊下を何も言わず歩いて行きました。廊下の突き当たりに木の重く厚そうなドアがありました。金のプレートには執務室と書かれています。近衛兵は

「ここで待て。」

とショメルに言うと、その部屋にノックして入って行きます。ショメルは執務室の前に置かれた椅子に座りました。雨はまだ降り続いています。あの三人がどうしているのか、それだけが気になりました。

数分して近衛兵が部屋から出てくると

「入れ。」

と言われました。



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