第2話ショメルの決断
今日も窓の側に椅子を持って来て座り、夜空にショメルは語りかけます。
「ねぇ。夜空のお星さま。僕の居場所は夢の世界なのでしょうか。」
夜空のお星さまはショメルのことなど見ていないかのように、ただ静かに瞬き続けます。お星さまは何も答えてはくれませんでした。
やはり一人で決断するしかないのです。ショメルは考えます。夢の世界にはたくさんの友人がいます。彼らはショメルと心底楽しそうに遊んでくれます。誰もショメルをのけ者にはしません。
父親がどうの、母親がどうのなんて言われる事もないのです。そして何より何をしても自由です。絵を描いても、かくれんぼしても、歌を歌っても、好きなようにして楽しく過ごせます。どうせここでは誰もショメルを必要とはしません。悩むことなんてないじゃないか。ショメルは夢の世界の住人になることを決めたのでした。
紙とペンを持ってきて一応書き置きはすることにします。僕は僕の世界へ旅立ちます。それだけ書いてショメルは鬱蒼とした深い森の、もう使われていない小屋で眠りにつきました。
ショメルは気付くと夢の世界の草原にいました。ミスターJやその他の友達と遊ぶのは、決まってこの場所です。遠くの小高い丘にはとても立派なお屋敷が見えますが、一度も行った事はありませんでした。
ショメルがお屋敷の方に目をやっていると、トコトコと聞き慣れた足音が聞こえます。
「やあ、ミスターJ。」
ショメルは振り返りざまに言いました。ミスターJは何かもぐもぐとやっていた物を飲み込んで
「ショメル、ずいぶん早かったじゃないか。急だったから食事を切り上げてやってきたよ。」
と笑いました。
「あの、昨日の話なんだけど、僕やっぱりこの世界の住人になろうかな。」
分かっていたよとばかりに二、三度頷いたミスターJは
「それは素晴らしい決断をしたね。」
とショメルを褒め称えたのでした。
「それじゃあ、さっそく皆を呼ぼうか。」
ミスターJは笛を取りだし思いっきり吹きました。間近で聞いたそれは耳をつんざくようでしたが、それ以上にミスターJの嬉しそうな表情が印象に残りました。それから一分と経ちません。あっという間にプラスチックで出来た大きなスケールのミニカーがやって来ました。スピーディーRです。
「よう、ショメル。いよいよ決断ってわけだ。追いかけっこじゃいつも俺の勝ちだが、これからはもっと色んな勝負していこうな。」
気さくなスピーディーRは、ショメルが腹を割って話せると思う友人の一人です。
「あいつも来るから少し待ってやってくれ。」
誰の事かは分かっています。それから十分も待ってからようやくそいつはやって来ました。熊のぬいぐるみのビゲストZです。二メートルもある巨体ですが、優しい顔でちっとも怖くありません。性格も顔と同じく優しいビゲストZは
「ご家族の事、大丈夫かい。君に辛い決断をさせてしまったね。その分楽しく過ごそうね。」
と頭を撫でてくれます。彼の心遣いはいつだってショメルの励みでした。
「他の皆は?」
「ショメル、皆は用事があって来れないんだ。それでね、夢の世界の住人になるには、やらなきゃいけない事がある。ここからでも見えるよな。まずあのお城に行かなきゃならないんだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます