笑えショメル
@lionwlofman
第1話居場所のない男の子
ショメルの人生は悲しみだらけでした。父親はめったに家に帰らず帰ったとしても酒浸り、母親にいたってはショメルに小銭を渡して家から追い払うと、部屋で知らない男と楽しそうにしている有り様でした。誰もいない部屋の中で時々、ショメルは星を見ながら泣いていました。
「ねぇ、お星様。僕は生まれてきちゃいけなかったのかな。誰も僕を愛してくれないよ。」
ショメルの嘆きは誰のもとへも届きませんでした。せめて友達との遊びに興じれば、心持ちも違ったのかもしれませんが、それさえも許されません。同年代の子供たちの親たちはショメルの家庭を汚らわしいと言って、遊ばせてくれなかったのです。
ショメルは必然的に、夢を見ることが多くなったのでした。夢はどこまでも続く安住の地です。優しい時がいつまでも止まっているかのようです。夢の世界で出会う人々はいつだってショメルに冷たくしませんでした。
だからある日もまた、ショメルは昼間から眠っていたのです。一メートルほどあるジャックの絵柄のトランプに、ブリキの手足がついたミスターJは夢の世界での親友です。ショメルはそんな彼と追いかけっこをしていました。ミスターJは言いました。
「ショメル、お前さんはあっちの世界じゃ、随分苦労をしているらしいじゃないか。」
「苦労というより、僕は居場所がないんだ。誰も僕を求めちゃいないから。」
ミスターJはそこで大笑いして
「ならさ、ショメル。あっちの世界なんて捨てちゃえば良いよ。お前さんも知っての通り、この世界は楽しいことばかりだぜ。」
ショメルは少し目を背けながら
「本当は、僕だってそうしたいのさ。でも僕は現実を生きているから、完全にこっちの世界の住人にはなれないよ。」
ミスターJは声を大きくして言います。
「ショメル、大切な事が分かっていないようだね。よく思い出してごらん。夢を見る時、お前さんは死んでいるのかい。いいや、違う。眠っていても、お前さんは現実には生きているだろ。それで良いんだよ。楽しい事だらけのこの世界。さあ、すぐにおいでったら。」
ショメルは迷ってしまいました。それでも言います。
「僕には家族がいるんだ。やっぱり無理だよ。」
ミスターJはショメルの肩を叩くと、人差し指を鼻の前で立てて、チッチッチッと指を振りました。
「ショメル、お前さんが言ったんじゃないか。向こうの世界には居場所が無いんだろ。だったら家族なんて、いてもいなくても一緒さ。お前さんの方からそいつらを捨ててやるんだ。」
ショメルは
「一晩考えさせて。」
と言って、現実の世界に戻ったのです。
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