第7話嘘つきの一掃

ハンスはこの結果に内心大満足でした。これぞハンスが嘘つきの杖に望んだ力なのです。嘘をつく事への抑止力になったのですから。

食事会をお開きにすると、皆がハンスを恐怖の目で見る中、心地良く寝室へ帰っていきました。

入浴するまでの間、立派なベッドに横たわり今日の事を考えています。これで嘘のない誠実な人々の国が出来上がっていくだろう。飾り気のなき天井はかえって美しく見えたのです。

翌日、ハンスの国では昨日の一件の話題で持ちきりでした。ハンスのもとにも密偵から国中の様子が入ってきました。

国王の乱心、許すまじと訴えている人々もいました。騎士団の中にも結構な人数の騎士が、ハンスには仕えられないと騎士を辞める事を願い出てきました。

ゲルムを牢に繋いだことは、国民には好評でしたが、彼と持ちつ持たれつだった貴族たちからは反感を買っていたようです。

そして予想通りの事ですが、これからは嘘をついた者は罰するとした布告により、次は自分が罰せられるのではと国民が怯え始めたのです。これらの反応を聞いてハンスはますます密偵の数を増やす事に決めたのでした。

それから三ヵ月の間でハンスは嘘つきを一掃するための体制を固めました。裁判所の裁判長に嘘つきの杖を貸したのです。密偵から容疑をかけられた者は、容疑者として連れて来られ裁判にかけられます。あの恐ろしき杖の前では、嘘をつく者などいなかったので、スムーズに嘘つきは裁かれていき、騙し騙されで苦しめられる人々は大いに減ったのでした。

ハンスはこれをとても喜ばしい事と思い、よく窓辺に立って外の景色を眺めていました。舞い上がった木の葉が幾度となく城の外壁にぶつかっては落ち、また舞い上がってはぶつかるを繰り返しています。行き場を失った木の葉が何とも印象的でありました。

まったくもってハンスの思い通りに事が運びます。ハンスは満足すると共に、それでも何故かまだ少しやり足りぬ思いでもありました。より綺麗な社会にするために必要な事は、もっと嘘つきを裁く事に違いありません。ハンスが密告者への褒賞金を制度にするまで、ほとんど時間は必要ではありませんでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る