第5話悔いなき嘘

ハンスは黙ってしばらく目を閉じています。そしてゆっくり目を開けると、キリッとした表情で周りを睨みつけ

「黙れ。よく聞け。嘘つきには罰を下すと布告を出しておいたはずだ。ギルウッドは私に嘘をついた。その罰が見ての通りだ。さあ、次はゴーグの番だ。そこの席につけ。」

ゴーグ元騎士団長は皆がパニックになっている中、一人だけ椅子に座り微動だにせず、前だけをじっと見つめていました。

ゴーグ元騎士団長はもうずいぶん年をとっていますが、ハンスの父である先代の王の時代から騎士団を率いており、幾度の戦いにおけるその勇敢な戦いぶりと冷静な戦術は高く評価されていました。基本的に寡黙な男で何も語りませんが、先王の指示のもと様々な汚れ仕事さえゴーグの騎士団は請け負ったと言われてもいます。

ゆっくりと立ち上がったこの歴戦の騎士は、言われた席に座り

「情けない事ですね。」

とだけ言ったのでした。

「ゴーグ、私はお主の騎士としての功績は大変評価している。だが一つ訊いておかねばならない事があるのだ。」

「……。」

ゴーグ元騎士団長はただ黙ってハンスを見つめていました。その静かな瞳は見つめられたハンスの方が目をそらしてしまうものでした。

「まだ父の代、隣国と戦争があった頃、お主は騎士団長としてこの国のために素晴らしい活躍をしてくれたと聞いている。だがお主の部隊が制圧した地域から多数の民間人が消えたともいうではないか。」

「確かにそんな事もありましたね。」

「あの冷酷な父の事、多額の戦費を埋めるため、それらの人々を別の国々へ売っていたのではと噂になっている。お主は命令を受けて彼らを売っていたのか。」

ゴーグ元騎士団長は一瞬だけ自分の手を見つめました。そしてそれから少しゆっくりと話します。

「もう昔の事なので忘れましたとお答えいたしたいところですが、そうもいきませんね。はっきり申し上げておきます、先代の国王様からはそのような命令は受けておりません。」

声は決して大きくないものの、とても力強さを感じさせる言い方でした。ハンスは嘘つきの杖を握ると

「その答えで良いんだな。」

と訊きます。ゴーグ元騎士団長は黙って頷きました。

ハンスが杖を振り下ろした時、やはり一匹のカエルが床にいたのがやりきれない思いにさせました。でもこれは国のためには仕方がない事なのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る