第4話伯爵の噂
そして食事会の日はあっという間にやって来ました。結局ターゲットとして呼ばれたのは、ギルウッド伯爵とゴーグ元騎士団長、それからこの国では大商人のゲルムでした。
料理人たちが朝から準備に追われるのを横目に、ハンスはこっそりこしらえさせた虫かごをじっと見つめていました。
そして夜になり来賓客が訪れ、いよいよ食事会が始まります。例の三人の他に数人だけ招いた、とても小規模なものになりました。食卓に着いたハンスは皆の者に言います。
「今日は忙しい中、よく集まってくれた。嬉しく思うぞ。食事も出来る限りのものを用意させた。さあ、歓談も存分にしようぞ。」
全員を席に着かせ、ハンスの左前の席だけは空けておきます。食堂の入り口には兵士を四人つけておきました。城のまわりにも同じく兵士に囲ませています。
笑顔の一同にハンスも同様で、ゆったりとした時間が流れます。懐に入れた杖を何度もいじりながら、ハンスは半ば適当に相槌を打っていました。
食事もあらかた終わり、来賓客たちが歓談に花を咲かせている頃、ようやくハンスは計画に向けて動き出しました。まずはギルウッドか。
ギルウッド伯爵は南部地域を治める貴族で領地において牧羊を行っており、常時人は足りないようですが、羊の毛を刈る時期になると猫の手でも借りたくなるほど忙しくなるとのことでした。そしてその上質な大量のウールは彼の財政の基盤でもあります。ハンスはギルウッド伯爵に語りかけます。
「ちょっとよいか? そこの空いている席に座られよ。」
隣の来賓客と歓談していたギルウッド伯爵は席を立って言われた席に座ります。
「なんでございましょう、陛下。私とお話して頂けるのですかな。」
五十代後半の少し白髪が混じった、とても細身な伯爵は爽やかな笑顔で言いました。
「ああ、もちろんそうだとも。どうだ最近は変わったことはないか。」
「そうですね、体力が少しずつ衰えて来ているのを感じます。冬には寒さが身にこたえることも多いですな。」
ハンスはそこで一呼吸置いて
「お主のことで少し気になった事があったのだ。」
「はて、何でございましょうか。」
「お主の領地では羊をたくさん飼っていたな。」
「さようでございます。ウールを売っておりますので。それが何か。」
ハンスはなごやかな表情で
「ところでお主は学校が好きか。」
「はぁ、家庭教師に全て習ったゆえ通ったことはございませんが、活気があって楽しい所なのでしょうな。」
「この国では一定年齢までは、一部の例外を除いて皆、通っておる。だが最近聞いた噂によると、教師に出席したことにさせ、裏では子どもたちを仕事にかりだしとる者がいるらしい。」
低い声になって
「まさか、お主はそのような事してはいまいな。」
ギルウッド伯爵はなにを馬鹿らしい事をといった表情をして
「そのような事はございません。私の領地ではきちんと子どもたちを学校に通わせておりますので。」
と言ったのでした。ハンスはニコッと笑って
「そうか、すまなかったな。」
と言いながら、懐に手を入れます。
嘘つきの杖を手に持って、真っ直ぐにギルウッド伯爵の目の前に振り下ろします。するとボンッと何か軽く煙でも出そうな音がして、ギルウッド伯爵の座っていた椅子に服だけが残っていました。しかしあのカエル特有の泣き声はします。
床を見ると確かにギルウッド伯爵はカエルになっていました。ハンスはそれを逃げられない様にして捕まえると、用意していた虫カゴに入れました。そこまでの様子を見るやいなや、一同パニックです。真っ先に食堂のドアへ駆けつけて、兵士に押さえつけられる者、ハンスに詰め寄る者など様々です。
「どういう事ですか。陛下。」
「一体何があったのです。説明を求めます。」
「ギルウッド伯爵はどうしたんです。」
「魔法ですな。魔法を伯爵に使われたんですな。」
皆が一気に口を開いて、質問を次々浴びせかけるため、何が何だか分からなくなりそうな状況でした。
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