第2話とびっきりの道具
うっそうとした森林で昼でも物悲しさを感じるような、そんな寂れた小さな丸太小屋にアンソニーじいさんは一人で住んでいました。
ある朝、おしゃべりな風見鶏が国王の使者がやって来るとにわかに騒ぎだします。アンソニーじいさんは踊るティーポットが勝手にカップに紅茶を注ぐのを眺めながら、だらしなく椅子に腰かけて、つまらない訪問者を待っていました。
まだ昼にもならない時間、三人組の兵士が丸太小屋を訪れました。コンコンとノックして間を空けず再度ノックし、今度はいきなり叩きつけるように強くノックをしながら返事も待たずに扉を開けました。
「我々はハンス国王様の使者だ。お前がアンソニーか。陛下がお前をお呼びだ。支度をしてさっさとついて来い。」
アンソニーは聞こえていないふりをしながら、笑う絵画を眺めていました。すると兵士たちは家にズカズカと上がり込むと、壁にかけてあった絵画を床に叩きつけ
「私たちはお前ほど暇ではないのだ。すぐに着いて来い。」
と言うのでした。アンソニーはわざとゆっくり椅子から立ち上がると、リュックサックにたくさん道具を詰め込みました。
「城に行っても良いが、お前さんがたとじゃ息が詰まりそうじゃ。わしは一人で行く。」
そう言うと空を駆ける靴を履いて、さっさと飛んで行ってしまいました。
壁面につたの張る古びた小さな古城に、あっという間にアンソニーはたどり着きました。やれやれ、何でわしがこんな所に。ぶつぶつと文句を言いながら、城門の前にいる兵士に要件を告げて城の中に入ります。
謁見の間に通された時にリュックサックを足元へ下ろし、ようやく一息つきました。そしてしばらくリュックサックの中身を確認していると、何人かの兵士を引き連れて、ハンスがやってきました。ハンスの険しさの中にどことなく陰がありそうなその表情を見て、何だか危うそうな人物だなとアンソニーは思っていました。
「お主がアンソニーか。」
「はい、御使いの者から、陛下が私を呼んでいらっしゃるとお聞きしまして参上いたしました。」
心の中を覗き込もうとするかのような目つきに、アンソニーは内心イライラしていました。
「お主を呼んだのは他でもない。今、この国には悪が氾濫しておる。特に嘘をついて他人を傷つけ利益を得る者の多いことよ。そこで嘘つきをあぶり出す道具が必要なのだ。何かそのような物はないか。」
アンソニーはこの王様に道具を渡して良いものか迷いましたが、断っても面倒なので渡す事にしました。
「陛下、それでしたら嘘つきの杖という道具があります。この小さな杖を嘘をついた者に振りかざすとたちまち、その者をカエルに変えてしまうことができるのです。嘘つきをあぶり出す道具ではございませんが、嘘に対する抑止力になりましょう。国民に広くこの杖の力を示せば良いのです。」
アンソニーはそこまで言って、一瞬、良くない事になりそうだなと思いましたが、結局気にしないことにしました。そしてリュックサックから嘘つきの杖を取り出すとハンスに渡したのでした。
「なるほど、それは良い方法だ。素晴らしいぞ。この杖はきっとこの国を良き方向に導くだろう。」
ハンスはしげしげと杖を眺めて言いました。
「お主に褒美を取らせる。何が良い。」
答えなんか決まっていました。
「それでしたら、二度と私をお呼びにならないで頂きたいと思います。」
アンソニーはそれだけで充分満足なのでした。
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