第9話これだけは言いたいこと

そしてそこで話が一端切れたので、老人は訊きました。

「あの、こんな事訊いて良いのか分からないのですけど、隣の部屋から時折、うめき声が聞こえてくるんです。とっても苦しそうな。どなたかいるんですか。」

女性は窓なんか無いのに、外の景色を見つめているような表情をして

「私の父なんです。三年前に病気で倒れて、それ以来私が看病しています。私の家は代々、薬師の家柄なので、私も森や草原へ出て行って材料を集めて薬を作っては、街で売って生活しています。貧しいですけど私、この仕事が大好きなんですよ。」

モグラはテーブルに乗っけられた、女性の手の上に自分の前足を置くと

「僕、これだけは言いたかったんです。あの日のお礼ももちろんそうですけど、あなたと友達になりたいって。僕とお嫁さんとあなたとそれからもっともっとたくさんの人も入れて、友達になって行きたいってそう思うんです。第一歩として僕と友達になってくれませんか。」

女性はその時、初めて年相応の顔をして

「もちろん、喜んで。嬉しいです。」

と言ったのでした。良かったなと老人は思ったのですが、何の気なしに腕時計を見ると、もう一時四十分を過ぎていました。まずい、三時までには現実の世界に帰らなくては。

「あの、モグラさん、大変名残惜しいのですが、そろそろ魔女の家に戻りましょう。私もお力をお貸しできる時間はあと少しです。」

こうして老人たちは女性にお礼を言うと、なんだか慌ただしく帰って行ったのでした。

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