第7話あの人の家
魔女の家を出るとやることがなくなってしまいました。時間をどうやって潰そうか。老人は何の気なしに森の方へと歩いて行きます。
ブナの木が高く生い茂って、少し真っ昼間でも暗いぐらいの森です。下手に深入りすると戻って来れないかもしれませんが、興味でしばらく進んで行きます。するとしばらくずっと黙っていたモグラが
「ここ見たことあります。僕、ここに来たことあるんです。」
と言うのです。
「いつですか。なんでこんなところに。」
「この辺りをくまなく探してみましょう。確か青い屋根の家があったはず。」
「だから、その家が何なんですか。」
老人が訊くのもお構いなしに
「いいから。」
とだけ言う有り様。結局それから一時間以上歩き回っても家なんてものは、見つかりもしませんでした。しばらく経って老人は時計を気にし始めます。
「モグラさん、そろそろ戻りませんか。時間もあまりないですし。」
するとモグラは老人の手の中から抜け出す様な仕草をしながら
「あの、すみませんが、僕を地面に下ろしてくれませんか。」
と言いました。
老人が言われるがまま、そうすると、モグラは鼻を地面に近づけながら匂いを嗅ぎました。そして草木の匂いも嗅ぎます。
「やっぱりだ。この近くなんです。彼女の家はこの近くなんです。」
「彼女の家ってもしかすると、前にモグラさんを助けてくれた人の家ですか。」
「ええ、そうなんです。僕はあの日地上へ出て来て、前足を怪我してしまったんです。その時、彼女は僕を優しく手で包んで、家まで連れて帰って、手当てしてくれたんです。」
老人は幸せそうに思い出を語る、モグラに少しうらやましい気持ちになりました。
「僕はその時、彼女の手の中で青い屋根の家を見たんです。家のまわりも少し歩きました。あの土の匂い、草木の匂いも微かに覚えています。」
モグラは興奮して早口になっていましたが、その様子は子供のようで可愛らしくもありました。
「お願いです、後もう少しだけ探してくれませんか。」
老人はもう何も言わず、森の中をじっくり探るように歩いて行きました。もうこの際、本当に家があるかどうかは気にせずモグラに出来るだけをしてあげようと思っていました。
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