26

 脱いで、と言われてまどかは着ていた服を脱いで、一瞬躊躇したが、片手しか使えない伊織を思って下着も全部脱いでから伊織いおりの上に跨った。

 下から煽る様に見ながら細い指先で胸をなぞられるだけで、覚えてしまった甘い期待を思い出す体を恥ずかしく思いながら、体重を掛けない様に膝を立てて堪えた。


 それを視姦する様に視線を向けられるだけで、背筋に震えが走る。


「和、俺も脱がして」


 上半身を起こして肌蹴た寝間着の袖を抜き、たどたどしく手を掛けた下半身を露わにすると、もう既に立派に反り返る伊織のものに手を触れた。


「何? してくれんの?」

「はい……」

「じゃあ、腰こっちに向けて」


 一月の終り、病室の昼下がり、カーテンに仕切られた薄暗い病室で情事に耽る男同士。

 しかも秘所を眼前に突きあわせて、舐め合う。

 和は熱いものでも咥えるかのようにゆっくりと確かめながら伊織のものを口に含んだ。


「こっちも疼いてる。今日の和は大胆だなぁ」


 そう言った伊織の舌が、和の秘所へと宛がわれ入口を濡らした後、中へと入り込んで来た。


「んあっ……そんな所、ダメですって……!」

「でも、綺麗にして来たんだろ? 見たらわかる」


 熱を持った伊織の舌が出入りする度に、僅かに届かないじれったさに身を捩った。

 別にこれを期待してた訳じゃ無い。

 ただ、和は伊織にしてあげようと思って、身体は家を出る前に綺麗にして来た。

 伊織の左手は和のものを優しく握り締めて、規則的に動き続け定期的に動きを止め、和は辛うじて口に含んだ伊織のものを愛撫しようと意識をそちらへと向けるのも虚しく、腰を突出し口が緩く開いてしまう。


「あっ……んんっ……!」

「もう、中が動いてる? 指入れて欲しい?」


 言葉にならずにコクコクと首を縦に振る。


 返事を聞く気があったのか定かじゃない伊織の指が、淫らに濡れた孔へと挿れられ、その冷たさに和はビクリと体を震わせた。

 穿り返される様な指の動きが和の快楽への期待を滾らせ、淫猥な音を漏らした。

 伊織の指が冷たく、自分の胎の中の方が熱いような気がして、その快楽に弱い体を恥じ入りながらも、強請る様に腰が揺れる。


「片手だとやっぱり不便だなぁ」


 そう零した伊織の言葉に、和は片手でもこんな風に乱れる自分が恨めしい。 

 それでも、懸命に伊織のものを口に含んで唇で挟み、下から吸い上げ扱く。


「和、一回指抜くぞ」


 そう言った伊織はベッドサイドに置いてあるキャスター付きのサイドテーブルに手を伸ばした。


「何……? 何か取りますか……?」

「大丈夫、取れた。ほら、続けて」


 和は伊織が何を手にしたのか分からないまま、もう一度伊織のものを両手で包んで口に含もうとしたその時、冷たい液体が双丘の割れ目を伝って仰け反った。


「冷たっ!」

「ちょっとだけ我慢な」

「何です……?」

「シェービングジェルだよ。久しぶりだし、俺も片手だし、痛くしたくない」


 粘度の高い水音を立てながら、今度は二本の指で押し広げられ、弱い所を擦り抜けてしまう指に悶えながら、もう咥えた伊織のものを口に留める事が出来なくなった和は、自分の手を噛んで声を堪える。


「なーんで、声抑えてんの?」

「だって……外に漏れたらっ……んっふっ!」

「別に良いよ。明日には退院だし……リハビリの担当医は病棟の医者とは違うし」

「僕はっ……嫌ですっ……」

「聞かれちゃうかもしれないって我慢して我慢して、限界突破した時の和は、超萌える」

「何の……はな、し……あぁ……!」


 胎の中を、今、と言うタイミングで伊織は指先で擂り上げる。

 突然の悦に腰が引けて背中は弓なりに仰け反った。

 眸から生理的な涙が濡れて、全身に甘い痺れが迸る。


「逃げるな、和……」

「あっ……やぁ……」


 伊織の動かない右手を返事の代わりに握る。

 冷たいその手を、和は声を抑える為に自分の口元に宛がい、唇を押し付けた。


「可愛い事ばっかしやがって……」


 こっち向いて、と指を抜いた伊織の顔は、熱があるかのように頬が高揚し眸も虚ろに見えた。


「伊織さん……? 熱、ある……?」

「ばぁか。お前に溶けそうなだけだ」

「な……何ですか……それ……」

「乗って。早くお前に入りたい」


 左手で自分のものを立てた伊織に、和は素直に頷いてその上に腰を落とした。


「んあっ……はぁ――――……」


 久しぶりのそれは食い込んで来るかのような息苦しさで、和は長い息を吐く。

 全部入った伊織のものを確かめる様に、胎に手を当てた和は、名を呼ばれて顔を上げた。

 迫って来る伊織の唇に自分の唇を重ねて肘を立てて起き上がろうとした伊織をそのまま押し倒す。


「楽にしてて下さい……」


 覆い被さる様に手を付いた和は腰を上げて抽挿を繰り返し、力が抜けそうになりながらも、自分の良い所に執拗に硬く猛々しい男の楔を擦り付けた。

 紅く腫れた和の怒張からは絶えず白い蜜が零れていて、伊織は息苦しそうに腰を動かす和の前髪を左手でそっと避けた。


「あっ……やばぃ……」

「お前はそこが好きだよな」


 硬く滾った怒張を擦り付けながら甘く唇を噛んだ和は、自分のペースで動いている分声も押えが効いていたのに、伊織の手が幹の付け根を指圧する様に抑えただけで、嬌声が漏れる。


「あっあっ……それ何っ……」

「外からでも結構善いだろう?」


 中は伊織のもので、外は伊織の指で挟み込む様に刺激された一番弱い所は、ついていた両腕から力が抜ける程度には刺激が強くて、伊織の胸に倒れ込んだ。


「和、後ろに手ついて」

「……?」


 息絶え絶えで怠い身体を起こした和は、言われるまま自分の上半身より後ろに手をついた。


 突然グラインドされた伊織の腰の動きに、最奥まで刺激が走って伊織の左手で握られた甘くベタついた和のものは、まるで唇で啄まれる様な短い水音を繰り返しながら昂ぶって行く。


「あっ、やっ……もうっ……あっ……」

「そんな足広げて、可愛い声で鳴いて、俺のせいでそんななってると思ったら、堪らない」

「い……おり……さんっ!」

「こっち来て、和」


 和は上体を預ける様にして、突き出された伊織の舌に自分の胸元を持って行った。

 半分伏した様な伊織の眸と、朱く濡れた舌に一瞬見惚れて、舌先で捏ねる様に愛撫される熟れた突起の快感に秘所の熱が一気に上がる。


「はぁ……あぁ! もっ……むりっ……」

「俺も……」


 和のものを握った伊織の左手の動きが忙しなくなった途端に、あっと言う間に和は果てて、中で滲み出ている伊織の白い甘露を内壁が嚥下する様に動いている。


 あぁ、幸せ過ぎて眩暈がしそうだ――――。


 伊織の胸に抱かれて、繋がったまま爆ぜる熱を注がれて、急く様な心音にそんな事を思う。


「伊織さん、疲れたでしょう……?」

「いや、大丈夫だが……少し眠りたい……」

「はい。夕飯まで少し、眠ったら良いですよ」


 伊織の体を綺麗に拭いてやる間に、伊織は疲れて眠ってしまった。

 和は服を着て帰り支度をすると、伊織の寝顔を見下してその長い髪にそっと触れた。


「伊織さん……好きです。大好き……ずっと、貴方だけが好きです」






 





 だから、さようならです――――。


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