15
あの、
十六歳の時に憧れた、あの覇気のない作家と、男同士でラブホに来ている。
何だ、この状況……。
現実に思考が追い付いてない様な不明瞭さに、足元がふらついている様に感じられる。
「このホテル、
「……知ってます」
「あ、そう……」
「あ、いや……」
拙かったか……。
特定を作らずに遊んでいた自分を美化する事なんて出来ないし、
「
「え? はい……?」
「何、緊張してるとか?」
「あ、いや……」
緊張……してるな。
まるで、高校の時に初めてした時の様な、どうしていいか分からない様な感覚が全身を覆っている。
二十四にもなって、何人も寝て来たのに、何でこんなに緊張しているのか、和は自分で自分の事が良く分からなくなって、シャワーを浴びて来ますと浴室に逃げ込んだ。
「あ、おいっ!」
後ろで
昨日の夕方伊織の家に食事を作りに行って、
Yシャツの釦に手を掛けて脱ぎ始めると、扉をノックする音にビクッと肩が跳ねた。
「和、入るぞ」
「な……何ですか?」
入るぞと言いながらもう扉を開けて入って来る伊織に、脱ぎかけたYシャツをもう一度羽織る。
優しく引き寄せられて和は伊織の胸に顔を埋める様に腕の中に囚われた。
「分かる? 俺も緊張してんの」
抱き留められた胸に自然に当てた手が、伊織の心臓の音を感じている。
急く様な駆け足のそれは、和の中に僅かな喜悦を齎した。
同じ様に思っていてくれると言う事が、たったそれだけの事が嬉しいなんて、子供じみた事を思った自分が恥ずかしくなって俯いた。
「お前が本当に嫌な事はしないから」
「はい……」
伊織は待ってるから、と頭を撫でて脱衣所を出て行く。
不思議と落ち着いて来て、念入りにシャワーを浴びた後、バスローブで出ようか服をもう一度着ようか悩んで、バスローブを羽織った。
意識し過ぎているのが恥ずかしい様な気になって、子供じゃあるまいし……と、和は立ち戻って来ている十六歳の自分に言い捨てる。
シャワールームを出ると、大きなベッドの上で横になっている伊織が寝ている様に見えた。
「……寝てる?」
長い髪をそっと指で払って、和はその寝顔に見入った。
綺麗な瞼には長い睫毛が伏していて、その寝顔を見ていてもまだこれが現実だと思えない。
「何? ジッと見て……声も掛けないで」
「……起きてたんですか?」
「寝るわけないでしょ? これからエッチな事出来るってのに」
「言い方……」
「何、蜜月に耽る……とか? 睦言を交わすとか言えば良いの?」
「余計に嫌です」
無駄に小説家の能力を使おうとする伊織に、本気で呆れて真顔で返した。
「じゃあ、めくるめく官能の世界を味わうとしましょうか」
「安っぽいですね……」
「悪態つけないくらい溶かしてやるよ」
そう言って上体を起こした伊織に耳朶を甘噛みされてベッドへと引き寄せられ、あっという間に馬乗りになった伊織に両手を押えつけられて驚いた。
手慣れている、と言えば良いだろうか。
鼓膜に響く少し抑えられた声と、引き寄せられた腕の強さに胸が鳴る。
男を抱いた事があると言っていたけど、宇部との関係は和の思い違いだったわけで、知り合ってからの伊織は女性の影も無く、そう言う事とは無縁だと思っていた。
落ち着いていた鼓動がまた、騒ぎ出す。
ここまで来て、逃げ出したい衝動が湧いて来る辺り、自分のへタレ具合が恨めしくなってくる。
「そんなに驚いて、どうした?」
「あ……いや……」
「格好良過ぎて見惚れた?」
「自分で言ってたら世話無いですね」
「否定しないんだ?」
「……しません」
素直でよろしい、と口付けられて目を瞑る。
和は辛うじて悪態をつきながらも、恥ずかし過ぎて目を開けてられなかった。
伊織の唇が触れる所が、過剰に反応してビクビクと震えてしまう。
押えつけられた両腕はそれを拒む様に体の自由を許してはくれない。その内、和の両手を片手で抑えた伊織はバスローブの胸元を剥いで、右手を滑り込ませた。
「うっあ……」
和の胸を撫でる伊織の手の感触に体を捩る。
「綺麗な肌してんな……真白だ」
「んっ……」
さわさわと優し過ぎる伊織の手は、和の羞恥を長引かせるように指先を立てて弄り続ける。
触れられるだけで、その声で囁かれるだけで、理性を保つ自分を必死に捕まえていないと見失ってしまいそうになって、和は膝を閉じて無駄な抵抗をしてしまう。
「和、口開けて。舌出して」
浅く短くなって行く呼吸に、自然と口が緩んでしまう和は言われるがまま舌を突出した。
その舌をしゃぶる様に唇で食んだ伊織は、焦らし続けた指先で胸元に綻んだ小さな蕾を捏ね始める。
「んんっ!」
和は自分の舌をまるで幹を
「はっ……はぁ……あぁっ!」
舌を解放されて息を吐いた途端に、伊織の舌先は指先の愛撫にじんわりと熱を孕んだ蕾を愛でる。
その瞬間、チリとした刺激に声が漏れた。
口元を抑えたくても両手を押えつけられていて、歯の根を噛み合わせて堪えるしかない。
「声、殺すなよ」
「だって……萎えるって……言ってた……」
「ばーか。弟の声とお前の声じゃ、次元が違うっつんだ」
「んっ……あぁ――――……」
甘噛みされて、咀嚼する様に吸われただけで、いとも簡単に堪えきれなくなる。
これまで演技していた自分が嘘みたいに、余裕が無い。
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