第7話悪魔のやり方
ブロングスが気にせず地べたに座り込むと、そこに円になるように皆座り込みます。一時間、二時間、さらに時間が経って頭の真上に太陽がやって来た頃、まだ動きがありません。誰も何も言わずブロングスの動向を伺っていました。
「おいでなすったようだな。」
ブロングスは立ち上がり、山頂の方を見つめます。素早く四人も立ち上がり、ブロングスを囲みました。やや遅れて三人が立って戦闘態勢を取った頃、地面に何かを擦り付ける音、さらに木に重い何かをぶつける音が聞こえてくるのです。
地面をする音が加速度的に大きくなって、何とも嫌な気配が確実に空気に混じっていく中、異様な姿が浮き彫りになっていきます。全長は十メートルをゆうに超えるほど大きく、真っ黒な体に白のまだら模様、赤い目が毒々しく睨みつけます。
大蛇はブロングスの三メートル前までやって来て、それに備えもう全員いつでも攻撃できる状態でした。しかしブロングスは左手でそれを制しています。グッといきなり鎌首をもたげ大蛇は言います。
「貴様ら、この俺の山に何の用だ。そんな臭う者まで連れて来やがって。」
三人をギロリと睨みました。
「俺たちはただの人間さ。お前に用があって来たんだ。」
ブロングスの言葉に全員が驚きますが表情には出しません。
「人間が何の用だ。」
「お前、あの国から生け贄を取っているな。」
その時、はっきりと大蛇が牙を見せました。
「だから何だ。もしかして、貴様らあの国から俺を狩るために送り込まれたんじゃないのか。それなら今直ぐに皆殺しだ!」
ブロングスは全くひるむことなく続けます。
「まあ落ち着け、それより、お前なぜ生け贄なんて取っている。なぜ直ぐにあの国を滅ぼさないんだ。簡単に出来るんだろう?」
「……。」
「分かっているぜ。あの国が滅んだらお前もまともに生きていけないのさ。だから生かさず殺さずでやっていくんだろう。」
大蛇は舌をチロチロと出して
「だったら何だ。今から貴様らが食われる事に変わりはない。」
「せっかく誉めてやるつもりだったのに。俺たちと気が合いそうなやり口だとな。」
ブロングスは素早く臭う三人のうちの一人の腕を掴み、大蛇の真ん前へと押し出しました。押し出された彼は
「陛下、お任せ下さい。ここは私がなんとかしてみせます。」
などと言います。
「ならん。武器は使うな。」
ブロングスの冷酷な言葉が響きわたりました。
「しかし、さすがに素手では。」
「二度言わすな。」
彼は素手で勇敢に戦おうとしましたが、笑いながら
「こいつから食っても良いのか?」
と言う大蛇に飲み込まれてしまったのでした。
ブロングスは二人目、三人目と同じように臭う者を大蛇に食わせていきます。
「どうしたそのまま全員、丸飲みにされるか。」
ブロングスは少しにやけながら大蛇の前に立ちました。
「世の中には人間によく似た外見の種族って奴もいてな。悪魔がそうだ。」
「にやつきやがって、だからどうした。」
「分からないのか、俺たち本当は悪魔なのさ。」
大蛇は本当に分からないといった感じで
「だからどうした!」
「悪魔と人間の外見上の最大の違いは何だと思う? 額の角だよ。悪魔以外には見えないがな。」
ブロングスは大蛇を哀れみの目で見始めました。わざとゆっくり言います。
「言っておくが悪魔の角はただの角なんかじゃないぜ。なぜだか分かるか? それ自体とてつもない猛毒を含んでいるからなのさ。」
ブロングス以外の四人も同様ににやついていました。
「直に分かる。その恐ろしさがな。」
大蛇には徐々に体の先から頭にかけて、体が硬直していくのが分かったようです。それを見るやブロングスはさも嬉しそうに
「あがいても良いんだぞ。どのみち全身が石となる。」
「ふざけるな。毒を吐き散らして貴様らも殺してやる。」
大蛇が精一杯毒を吐き散らそうとしている中、ブロングスはポケットから葉巻を取り出して、マッチで火をつけると煙を吹かしながら二、三度大蛇の体に蹴りを入れました。悪魔の猛毒の回りの恐ろしく早い事。それからものの十秒とかからず、大蛇は大きな石像へと姿を変えたのでした。
「かの国へと大蛇の石像を持って帰る。四人で落とさぬ様に持つが良い。」
重い大蛇の石像を四人が必死に持っているので、気まぐれな優しさからブロングスはゆっくりと歩いて帰りました。かの国で石像を置いたら、一端は悪魔の世界に帰る事になる。この世界の風景を楽しんだのです。
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