第3話ブロングスの疑念

鏡の中の世界へはあっという間です。ブロングスが鏡の前で見た様に、それは国とは呼べるほどのものではない、大きな村といった程度のところでした。まあ所詮噂などこの程度のものだろう。

その国の入り口には門があり、また石を積んだ壁が、国全体を囲っているようでした。貧しいといってもこの程度の防衛は出来ているのか。ブロングスは思っていたのとは少し違うなと感じていました。

国への入り口に調査隊の悪魔たちが集まっています。ブロングスが姿を見せると、全員が片膝をついて不動のまま言葉を待ちました。

「ごくろう。どうなっている。」

ブロングスが端的に尋ねるに

「はい、まずは身分の低い悪魔から調査に入っております。悪魔らしくここを制圧するに、我々といたしましては武力は出来るだけ用いず、この国の連中の内乱、殺し合い、猜疑心、憎しみ、悪魔の誘惑といった方法によって達成いたしましょうと話しておりました。」

ブロングスはそこにいる調査隊の中の者たちに対して

「一週間での制圧を厳命する。」

と言いつけ彼らがそれを聞いて、表情一つ変えないのを満足しながら眺めました。

「そして余はお前たちとは別行動をとる。」

とだけ告げ何一つ躊躇せず国の中へ入って行ったのです。

門を一歩くぐりその国の中へブロングスが入ると、そこには木造のだいぶ痛んだ長屋の様な集合住宅がたくさんある区画と、石壁に沿って畑がある区画が広がっていました。

作物は何が植えられているのでしょうか。畑作などしたこともないブロングスには分かるはずもありませんでしたが、地中から地上へと何ともやる気なしにひょっこり出てきているそれらを見るに、この国の者がたいした物を食べていないのであろう事が容易に想像出来たのです。

枯れかけの濁った井戸を横目にブロングスは、この国は貧しいというより死にかけているのではないかと思いました。この国のどこが幸せなのだろう。人の数は異様に少ないし、老人が目立ち若者、子供たちの数は特に少ない。

ポケットに片手を突っ込みながら、葉巻をくわえて火を付けるでもなく立ち尽くします。もしかすると、この国の連中は幸福という事が分かっていないのではないのか。もしそうだとしますと、もはや制圧などという事は意味がないのですが、とりあえずここまで来たのです。予定通り調査は行う事にしました。


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