第2話噂の国へ

そしてそれから普段、遊んでいる者もそうでない者も、城にいる全員にかの国へ向かう準備をさせました。準備が出来しだい大して意味もない悪魔の誇りについての講釈を聞かせてやり、ブロングスは彼らが出掛けて行くのを見送ったのです。

一段落してから思いました。さて、余も当然出掛けねばな。しかしこの格好のまま行くのでは能がない。変身してかの国に潜入し、実態をこの手で暴いてやろうぞ。

ブロングスは玉座に座り、足を組み、何に変身しようかと思案します。しかし良いアイデアが思い浮かびません。仕方なしに立ち上がり城中を歩き回って考えていたその時、ふと広間に掲げられた先代の王の肖像画が目に入りました。これだ! これならいけるぞ。ブロングスは踊る肖像画に変身して、かの国に潜入することを思いついたのでした。

「待たせたな、なるべくありのままの、かの国を見たい。急ぐとしよう。」

従者を連れて城を後にします。いつもの様に厚い黒雲が、ブロングスら悪魔の世界を覆っていました。ブロングスは道すがら、貧しくてなお幸せということに思いを巡らせていました。悪魔の世界ではそのような事はあり得ぬ事だ。富みは幸せそのものでもあり、それはその者の身分に与えられるものでもあったのです。

従者に連れられるまま人間の世界へとやって来て、その空気は肌に優し過ぎるとブロングスは感じていました。そしてとある数年前に戦争に敗れたばかりの国に到着します。死の臭いがいたるところでしていました。

だいたいどこでもそうでしたが、特に汚いかやぶき小屋へと従者は入って行きます。そこはテーブルとベッドだけの本当に最低限の家です。二人してずかずかと入り込み、覗けば老婆がそこに横になっています。

「この者、戦争に夫とまだ若い息子を取られたようで、彼らは二度と帰ってくる事は無かったようです。それ以来ベッドから動くのも辛いと言い、食事もままならないとか。最近は寝そべっては鏡ばかり見ているそうです。」

従者が告げるのを聞くに、敗残者とはこういう運命だと、ブロングスは思い、老婆が覗き込む鏡の中に、まるで村の様な国が写っているのを確認しました。

「行くぞ、遅れをとるな。」

鏡を覗き込んでいる老婆の横から、遠慮なしにブロングスは鏡の中へ飛び込んで行きます。ブロングスは期待外れにならなければ良いがと考えていました。

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