悪魔の王様ブロングス

@lionwlofman

第1話突然の発見

悪魔の世界は歴然とした身分制の社会です。下位の身分の者たちがせっせと働くのを見るに、王族や上位の身分の者どもは、今日も道楽以外の事などしようとさえしませんでした。

ただ身分制があるのは人間の世界でもそうであり、悪魔の世界ほど極端ではありませんが、その点は似たようなものです。

姿にしたって同じです。悪魔の姿はと言うと、人々が想像するのとは違い人間と大した違いはありません。背中から生える二枚の黒き翼もありませんし、垂れ下がった細い尻尾もありませんでした。ただ悪魔どうしにだけ見える、小さな角が額の真ん中にあるだけなのです。

そんな悪魔の世界の王様であるブロングスは、今日も側近の部下どもを追い払って、城もほとんど無人にし、気だるげに、わずか一本で小さな家が買えるほど高価な秘密入りの葉巻を吹かしていました。

居城の隅々まで暗く、ほんの僅かなキャンドルが薄く照らす炎の揺らめきに、頭のてっぺんまで赤く着色されそうなほど怒ってみたい衝動に駆られ、ブロングスはただ我慢するように目を閉じていました。

どこかには貧しくてもまるで困らない国があるという。それは人の心がとても豊かだからだという。しかもまるで身分に当たるものがないらしい。悪魔のつけ入る隙がない国。

ブロングスは謎の霧に包まれていると言う、その国についての噂などまるで信じていませんでしたが、今日は何だか胸騒ぎがして、家来の報告をじっと待っていたのです。

ブロングスがただじっと葉巻をふかしていると、いつもの様に城から追い出していたはずの側近の悪魔が、何故だか大慌てでやって来ました。ブロングスはただ事ではないその足音に、誰かがやって来た事にすぐさま気が付きましたが、葉巻を口にくわえたまま、あごに手を当てた姿勢で目をつむり無視を決め込んでいました。

大慌てでやって来た側近の悪魔は、いくらか息を整えてから言います。

「陛下に取り急ぎご報告いたします。以前から噂になっておりました、悪魔のつけ入れぬ国が発見されました。」

その報告に一瞬ブロングスはむせそうになりました。しかし相変わらず平静を装って、無視を続けます。

「先遣隊の者たちが調査に向かっておりますが、これは近年稀に見る、悪魔の領土を広げるチャンスかと思います。」

そこまで聞いてようやくブロングスは一言言います。

「霧は晴れたのだな?」

「はい、それゆえはっきりと存在が確認出来ました。国中の者がだれ一人誘惑に乗らず、脅しにも屈しない。そして幸せそうに暮らしているようです。」

ブロングスは沸き上がる苛立ちを隠しながら

「それはどこにあった?」

「鏡の中でございます。」

「鏡の中? どういう意味だ。」

「言葉通りの意味でございます。不幸にして死にかけている善良な者の覗く鏡の中でございます。」

悪魔はもうすでに不幸で死にかけている者など相手にしません。相手にする意味もないのです。

「なるほど、だから発見が遅れたわけか。」

ブロングスは軽く自らの両頬を叩くと、立ち上がり

「余も調査に向かう。支度をさせよ。」

と言いました。

「調査はどのくらいの日数が必要だ?」

「はい、最大でも一週間ほどで済むかと思います。」

薄く笑みを浮かべるとブロングスは、玉座から立ち上がり、声高に言いました。

「一週間でその国を完全に制覇せよ。かの国の者どもに悪魔の脅威を充分に見せつけてやれ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る