3-4.

 ◆

 

 ここで余談というわけでもないけれど、ここ最近で俺が気になっていたことがひとつある。入学式の日から毎日のように俺の帰り道に現れていた謎の美少女ツーのことだ。


 彼女が実は、確か荒川の校内自転車移動騒動の初日辺りにいつもと同じようにやって来ては最後に意味ありげな表情をして消えたきり姿を見せなくなっていたんだ。


 海峡に跨るオーロラブリッジに向こう側の街の景色、そして鮮やかな夕空を眺めながら彼女と歩みを共にするというのがすっかり俺の帰途の通常風景となっていたため、ひとりで歩く道はどこか、幻想的だった景色が色褪せてしまったかのようなもの寂しさが漂っているようだった。そう、幸せな夢から覚めた時に絶望的なまでに一気に現実感に打ちのめされるようなあの感覚に似ていなくもない……。

 

 別に俺はツーに会いたかったなんて思ってたわけじゃあない。ただ何となく、ひとりでこの景色の中にいればそんな感傷的な気分をちょこっと味わってみたくもなるってもんさ。


 でも実際のところ、ツーのことを荒川に話すか話さないかというのは俺の頭の中にふてぶてしく居座る悩みの種のひとつでもあった。話したら話したでまた事態が混乱することになりそうだし、かと言ってここまで事態が進んでしまった以上うやむやなままにしておくというのも何だか気が進まず、でもまだ話すべき時じゃないような気もする。うん、つまりは俺はこのふたりによって無駄な困惑及び葛藤の時間を与えられているわけであって、それは何とも腹立たしい限りだったがだからと言ってやけになって全て投げ出してしまうほど俺も人生に対して憂いているわけじゃないっていうか何て言うか。


 所変わってツーの代わりと言っちゃあなんだけどこの頃から魔の触手のように俺に絡みを増してきた少女がいて、それはつまり俺の妹だ。


 中学時代にはあり得なかったほどに学校でクラスメイトたちと関わり、それも特に特定の女子と、しかも病的な自転車愛好者というステータスを持つ人間との関係を深めてしまったせいか妹の俺に対する当たりは日に日に強くなっていた。


 それも俺はいつも通りはぐらかすことで難を逃れていたのだけれど――まあこの調子で行けば、兄の抑止というバリアも破って妹が物語の表舞台に飛び出してくることもないとは言い切れない――けどもそれはあくまで可能性の話であって今は関係ない話だ。まだ気にしなくていいことは気にしないでおくに越したことはない。というわけで……。


 

 閑話休題。



 前日の悪い予感は、見事に的中した。

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