1-7.


 ツーはまたねと言ったけど、本当にまた来るつもりなのだろうか? 別に来られる分には一向に構わないのだけれど、また埒の明かないへんてこな会話をさせられるのはごめんだ。それに俺は、正直なところこの状況にまだ頭が追いついていない。


 たった昨晩から今にかけてのことなのに、奇天烈も奇天烈な急展開に見舞われたせいで普通なら頭がパンクしているところだぜ。それでも俺がまだ正常に思考を働かせられていたのは、あいにくエネルギー供給源の方がパンクさせられるだけのパワーを持ち合わせてなかったからだと思われる。俺は興味がないことについては深く考えないようにしているのさ。そして俺は実はこの世のほとんどの事象に興味がない。何故かって聞かれたって昔からそうなのだから仕方ねえだろ? だから早い話が、俺は謎の美少女についても隣の変わったクラスメイトについても、驚いたり不思議がったりはしたもののそこまで気にしていなかったんだ。だからその後、まだ春休み中の妹の質問攻めという難所も慌てず乗り越えることに成功した俺は、昼寝から目が覚める頃にはこの日の出来事もほとんど忘れ、夕飯の時くらいには頭の中の世界平和を取り戻していた。


 でもまあ、そのまま時の流れに任せて何も考えずに眠ってしまったのは間違いだったかもしれない。他に何かできることがあったのかと言えば自信を持ってイエスと答えることはできないけど、せめて次の日のことをちょっと考えておいたり、この日に見てきたクラスの印象を元にこれから一年の高校生活の抱負的なものを思い浮かべておいたりするくらいはしておけば何かしら変わったかもしれないからな。


 具体的に言うならば、近所の席のクラスメイトとの付き合い方とか、隣に座っているクラスメイトとどう関わるかとか、右隣のクラスメイトは関わると面倒臭そうだからなるべく距離を置こうかとか、話しかけられても無視するとか、徹底的に拒否するとか、そんなことをだ。

 

 しかし何も考えていなかったが故に、俺は翌週、高校生活二週間目にして早々に、とんでもない間違えを犯してしまうことになる。俺はまさしく禁忌に触れてしまったんだ。タブーを犯してしまったんだ。それは、一人の男子高校生の少なくとも三年間の高校生活については誰にも思いもよらないモノへと紅蓮の炎があらゆる物を燃やし溶かすが如く変貌させてしまう災厄の詰まったパンドラの箱だった。

 


 荒川輪子のことを俺は、なめてかかるべきではなかった。

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