第三章 告白(後編)

「はぁ、次からどうしようか。また、バイト探さないとな。しばらくコンビニは避けた方が良さそうかも」

「あんた、何やってるの?」

「え、あ、私?」

「あんたよ、あんた」

 ショッピングモールの前で途方に暮れていたとき、僕は一人の女性に声をかけられた。僕は、その女性の顔を見た。ヒールと元々の部分もあるが、背も高く、胸も大きく。迫力美人といった感じの女性だった。

「あんた、もしかして元男?」

「なんで、それが…」

「わかるわよ。同じような匂いがするもの」

「まだ、オペはしてませんが」

「ちょっとお茶しない?」

「はい」 

 僕は、その女性に誘われるまま、モールの一階にあるサンマルクカフェに入った。

彼女は、イタリアンカプチーノを、僕は、ほうじ茶ラテを頼んだ。これが、僕がこれから働くことになるショーパブ「ウェアバウト」のオーナーママ椎名玲子との初めての出会いだった。

「今、何やってんの?」

「無職です。少し前までコンビニで働いていたんですが、私が原因でお客様同士でトラブルが起こってしまって、辞めました」

「そうだったの。だったら、うちで働く気ない?うちさ、女の子が辞めちゃって。キャスト募集中なのよ」

「あ、あの、あなたは?」

「あ、自己紹介が遅くなったわね。私、こういう者です」

「ショーパブ『ウェアバウト』オーナー、椎名玲子」

 僕は、渡された名刺を見た。住所は新宿二丁目にある。

「うちの店、私がスカウトした子が多いのよ。キャスト募集の張り紙を見て、応募してくれた子もいるけどね」

「そうなんですか?」

「そうよ」

「働かせてください。そこって寮はありますか?」

「あるわよ。店から、歩いて10分ぐらいの所に。オペ代もバッチリ稼げるわよ」

 玲子さんは、僕を店で働かないかと誘ってくれた。僕は、二つ返事で了承した。

その日は、翌日にでも写真付きの履歴書を持って店に来て欲しいと話をし、別れた。

翌日、僕は、面接をすると、契約書を書いた。それから三日後、契約切れと同時に吉祥寺のアパートを出て。玲子さんのお店の寮に入ることにした。寮と言うには、綺麗すぎるマンションだった。

「奈々子ちゃーん、梨乃ちゃんのヘルプ入ってくれる?」

「はーい」

 玲子さんのお店で働き始めて、半年が経った。僕の源氏名は折原奈々子。今はまだ、顔を名前を覚えてもらうため、ヘルプとして先輩キャストさんの席に着くことが多いが、毎日がとても楽しい。女性として働けている。それがとても幸せだった。

「奈々子ちゃん、どこの化粧品使ってるの?」

「私ですか?えーっと、下地とお粉はチャコットを。ファンデーションはエスティのダブルウエアです」

「肌、超綺麗」

「ねえ、奈々ちゃんって、彼氏いるの?」

「え、あ、あの…」

「ちょっと、うちの新人、口説かないでよね」

「えー」

 ある日、別の人のヘルプに着いていたとき、女性のお客さんに聞かれた。僕は、素直に答えた。そうしたら、一緒に来ていた、男性のお客さんに声をかけられた。正直、コンビニでバイトしてたときのことが頭をかすめ、声が出なくなってしまった。席に着いてくれていた先輩がフォローしてくれた。僕は、ホッと安堵の息をついた。

「かれんさん、ありがとうございました」

「あたしもさ、ああやって固まっちゃった時あってさ、その時に、マリアさんや、ゆりかさんに助けてもらったから。気にしないで」

「ありがとうございます」

「オペ、いつするの?」

「うーん、年明けにはと思っています。28歳の誕生日にはオペしようかなって思ってます」

 閉店後、僕は、かれんさんにお礼を言った。かれんさんも同じ経験があったと

あっけらかんと話してくれた。

「胸はいつ入れたの?」

「胸ですか?胸はまだ」

「胸も下もだと大変よ。先に胸を入れて、それから下って順番の方がいいわよ」

「胸も同時だと大変なんですか?」

「うん、あたしさ、胸造ってから、間をおかずに、下の手術をしたんだけど。上も下も痛くてさ、大変だったんだ」

「そうだったんですか」

 かれんさんに豊胸手術と性別適合手術は別にした方がいいとアドバイスをもらい、

僕は寮に戻った。

「先生、豊胸手術を受けられるお医者さんを紹介してもらえませんか?」

 金曜日、ホルモン注射の日。このとき僕は、クリニックの先生に相談した。

「でしたら、性別適合手術は、山梨の大学病院に紹介状を書きますね。豊胸手術の方は、都内のクリニックに紹介状を書きますね」

「ありがとうございます」

「では、紹介状と診断書と意見書を用意しますので、一週間ほど、お時間いただけますか?」

「はい、分かりました」

 先生と話した後、処置室でホルモン注射を受け、診察室を出た。外来で次の予約を入れ、クリニックを後にした。一週間後、紹介状と診断書と意見書を受け取り、電話で予約を取った。形成外科の外来に、二週間後に来て欲しいとのことだった。二週間後、紹介状一式を持って、僕は、新幹線で一路、山梨の大学病院に行った。甲府駅からバスに乗り、病院前に着くと、そのまま病院に入り、初診受付で診療申込書に記入した後、紹介状を受付に預けた。手続きが終わり、形成外科の受付で紹介状と診断書を預けると、待合ソファに腰掛けた。一時間ほどして、呼ばれ、担当の先生と話をした。

「桂木京子さん」

「はい」

「性別適合手術をなさられたいと紹介状に書いてありますが」

「はい、戸籍変更をしたいと思い」

「分かりました、手術の方法としては。皮弁法と言われる、男性器を使う方法で行います。術後の回復も早いので」

 先生は、この病院では、皮弁法で手術を行う方が主流となっていること、そして、女性と同じような感覚を得られるとのことで。そちらで行うことにした。その為に、手術までの間、ホルモン注射を休止する必要があることを、先生は話してくれた。僕は、この病院で手術を受けることを決めた。

「では、次回の診察の時に手術の日取りなどを決めましょうか?」

「よろしくお願いいたします」

 病院を出てから、僕は、すぐに来たバスに乗り、甲府駅へと向かい、駅ビルの中にあるタリーズで軽く昼食を取り、新幹線で東京に戻った。

「豊胸手術をされたいと」

「はい」

 一週間後、僕は、精神科の先生に紹介された、美容外科クリニックの診察室にいた。入院は不要で。二、三日でお店に出られるとのことだった。僕は、先生と話をした。

「これだと、走っても横になっても自然ですよ」

「これ、良さそうですね」

 先生が勧めてくれている、シリコンインプラントを実際に触ってみたりして、良さそうな感じを覚えた。サイズとしては、Eカップぐらいにしたいと言う話をした。クリニックを出てからの足取りは軽かった。また、一つ女性に戻れる喜びをかみしめていた。が、それと同時に、目を背けていた問題にも直面をしていることを、僕は知らずにいた。

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