腐敗

クーラーが効いた教室とは一転、

生温い空気が流れる廊下には、まだ生徒の姿は見えなかった。

ほかの教室より少し早く試験が終わっていたようだ。

そんな生温い空気が、

僕の額に流れ落ちる冷や汗を冷たく撫でた。

「昨日出してもらった志望校の、、、」

肩から床に向かって、

全身の筋肉と神経が剥がれ落ちて行く感覚。

頭の中の使えない言い訳の嵐が一気に晴れ、

なんとも言えない静寂が脳に訪れた。

昨日の放課後、

副担任でもある木村先生に提出した

志望校についての書類。

提出期限を昨日と忘れ、

とりあえず適当に思いあたる大学の名前を書き殴って提出していた。

「もう一度担任の荻窪先生と相談して検討し直すように。」

木村先生はテキトウに書いた事を見透かしたような言い方で、職員室へと歩き去って行った。


「なんてタイミングだ」完璧にバレたと思った。


生温い風が今度は異様に生々しく感じた。

どっと疲れた脳と、試験と透視で疲れた目の疲労を感じながら教室へと引き返した。

「あー疲れた。」

そう言いながら席に戻り、机にうつ伏せていると、石田と結城が談笑している声が耳に入ってきた。

「ヤベェよ、日本史今回70点どころじゃねー」

石田が嘆く。一瞬耳を疑っていた僕に結城が話しかけてきた。

「お前もどうせ70点いってないべ」

図星だが、余計なお世話だ。

「昨日の夜、まさかのいとこのガキ共がウチに来てさ、ゲームやらされて勉強どころじゃなかったぜ」

石田に託した僕の運命は崩れ落ちた。

結局、答案用紙には石田の間違った回答を写し、間違っている回答を透視するのに目を疲労し、木村先生には心臓をもてあそばれるし。最悪だ。

何よりもカンニングをしたという事実が、

僕のプライドを蝕んだ。



鈍く光る鈍に塩水が滴り、

酸化という腐敗が進行し始めたのはおそらくこの頃であった。

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錆びついた刃物 大鷹 @taka-sun

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