第9話 猫の脳みそ
鈴の音が聴こえてくる。ささやかな、愛らしい音。猫だろうか。音は一瞬近付き、また離れていく。
僕は石畳の上で大の字になって、いわし雲を見上げていた。石畳は冷たくて、しめっていて、カビ臭い。隙間を手で探ってみると、塊が指にぶつかった。手に取って見ると、黄みがかった緑のかんらん石だった。
立ち上がるのが億劫だ。何故ならば、僕の頭には傷があり、血は止まるどころかどんどん溢れて、めまいがするからだ。
ダレだっけ。僕の頭を殴ったのは。
ダレだっけ。僕は。
鈴の音が聴こえてくる。ちりちりと鳴りながら、近付いてくる。上から僕を見下ろす、猫。ふさふさの白い毛に覆われた猫は、満足そうに目を細めていた。
ごめんください。はいりますよ。
どうぞどうぞ。いらっしゃい。
そんな会話が僕の頭のなかで交される。誰の声だか、分からない。
猫は僕の傷口にすり寄った。体をぎゅうぎゅうと押し付けてくる。猫はどんどん僕の頭と融和していく。見えないところで起こっていることに、不安はなかった。痛くもなかった。猫は無事に僕の傷口から僕の頭の中に入ったようだ。
あら、いいところですね。すっきりと片付いて。
そうでしょう。だってここ、今は空っぽなのだもの。
頭のなかの会話が聞こえる。
ダレだっけ。僕は。名前ひとつ、思い出せない。このまま僕は、猫たちに住み着かれ、いつか猫でパンパンになってしまうのだろうか。
もっとお友達を呼びましょうよ。
良いですね。
頭のなかの猫たちは、楽しそうに言った。
《了》
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