第8話 割れた蛍石

 宝石街では毎日必ず雨が降る。雨に混じって宝石も落ちる。

 今日の宝石は――、無い。一粒も、無い。

 僕は酷く落ち込んだ気分になって、体を乗り出していた窓から下がろうとした。運の悪い日もあるものだ。諦めよう。 

 そう思っていた時だ。コツン、という硬質な響きが耳に飛込んできた。

僕は慌てて外に飛び出した。あちらこちらを賢明に探す。隣人の家のドアの前、湿った石畳の隙間。

 石は、鋭い目をして僕をにらんでいる縞猫の側に落ちていた。

 バラバラに砕けちって。

 僕はガッカリした。まるごとの塊がほしかったのに、たった一粒、それも小さく砕けた青い石しかない。

 何て弱い、蛍石。

 大きなかけらを探してごそごそやっていた僕は、ふと気付いて、欠片の山を退けた。蛍石の山の中には、――小さな蛍。

 昼間にも関わらず、おしりの光を点滅させている。

「そうか」

 僕は羽を震わせて恐々と歩いている蛍を見て、呟いた。

「今日の空は君を街へ送り込んでくれたんだね」

 蛍は返事をするように光を点滅させ、ふわりと舞い上がった。

 街の外れの青い宝石の川に行くのだろう。そこには沢山の仲間がいるから。

 小さな蛍は、頼りなげに、高く、飛んで行った。

                              《了》

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