第5話 少女

 透明な水が、時に空気を含みながら穏やかに流れていく。辺りは静かで、色鮮やかで、何もない。

 丸い石が転がっている。いくつもいくつも、灰色のざらついた石が広がっていて、河原は一目見るだけではとても寂しく感じられる。

 水がチャプチャプと石を濡らす。石は洗われ、灰色は黒に変わる。

 目を奪われる。水底の青い輝きに。三日月形に曲がった川に沿って落ちている、青い宝石の粒に。碧空を写し取ったかのような青色は、キラキラと殺風景な河原に色をそえる。

 誰もいない。ここには人一人いない。ここはいつまでたっても、誰かのものにならない。

 少女は息をつく。この青い宝石とせせらぎの中で。

 少女の耳には何も聞こえない。真っ黒でこしの強い睫毛が瞼に蓋をし、薔薇色の唇は小さく息づいている。

 白い花嫁衣装が細い体を包み、百合の花が少女の顔を取り巻いている。

 この繭はずっと、川の上に下がっている。枯れかけた木の、一番太い枝につり下がり、少女を包んでいる。

 白いリボンがグルグルと丸く巻き付き、その光沢が隙間に見える少女の額と色を分ける。

 青い川の上で、碧空の下で、少女は白いリボンの繭の中で待ち続けるのだ。いつまでも、『いつか』が訪れるまで。

 『いつか』はいつだろう?

                                  《了》

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