第4話 レエスのリボン
ミルクの香りが鼻の穴をくぐって、私の舌を濡らします。私はピンクのベッドのなかで、枕を抱いて、目を閉じて、夢心地でいるのでした。
意識が覚めるにつれて固いひだのある夢は形となりレエスのリボンに変わって、私の髪に結ばれ枕に巻き付き床に垂れたそれは窓を通り、うす紫色の空と黒い絹地の地面が続く外へとずうっと続いています。
レエスのリボンは薄暗い外の世界の道しるべとなりながら青色の犬さんの青色の首輪に繋がっています。
つるつるとサテンのように光る犬さんの青色の毛は、青色のレエスによく似合っています。
私はやっと目を開けて起き上がり、早速レエスのリボンをほどきます。その間、ミルクの香りは強くなり、ますます私の舌を濡らします。
ほどくと青色のレエスリボンは大きなピンクのベッドを埋めつくし、一番端っこが私の前に姿を見せます。
私は細い金のかぎ針を真四角な皮のかばんの中から取り出します。かぎ針はチカチカと光って、青色のレエスに映えています。そしてレエスを編み編みするのです。編み編みすると、不思議な機械のような私の指と針によって、レエスのリボンには糸でできた花や記号が魔法のように現れます。
編み編みすればするほど、レエスは窓の外で伸びていくのです。レエスの先にいる青色の犬さんは、ゆっくり少しずつ歩いていけます。私は犬さんのためにレエスを編み編みします。
歩いて行く犬さんは藍色の瞳を見開いて、そこに見えるものを私に伝えてくれるのです。
青色のレエスは電線です。チリチリと音を立てながら、金のかぎ針でレエスを編み編みする私の手から頭へと、ザアザアと降る真珠の雨の様子を伝えてくれるのです。
今犬さんのいる街には、毎日真珠の雨が降っています。石の地面に落ちた真珠は細かく砕け、中からミルクの香りが弾け出て来ます。これからもうちょっとレエスを編みこめば、きっと真珠の海が見えるでしょう。
ザアザアと波打つ真珠の海を頭に思い浮かべレエスに丸い真珠の模様を編みこみ、私は歌を歌うのです。愉快な歌を歌いながら窓の外に目をこらします。紫色の空の向こうには、白と赤と緑と黒のレエスが電線を張って、ひらりひらりと風に舞っているのが見えます。
私以外の皆の犬さんは、どこを歩いているのかしら。そこには雨は降るかしら。
《了》
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