第13話 推測――仮の答え――
そもそも、なぜあの部屋に金塊がないんだ?
なぜだ?
その理由は……俺にはわからん。
判断できる手持ちの材料がないからな。
フン、なら、ここはひとつ逆に考えてみるか。
本当に1億の金塊があったとしたら、どうだ?
本当にあるとして、それを俺に盗まれたら、組織はどうなるか?
それは簡単なことだろう。
当然、蜂の巣を突いたような大騒ぎになるはずだ。
ましてや近々の取引に使う予定のもんだ。
奪回が1番だが、代わりが用意できるかどうか、ということもある。
そりゃあ真夜中であろうとも、呑気に寝てる場合じゃねーな。
当然、依頼主の幹部にも連絡が入って、知ることになる。
そうすると、俺の依頼主様は自分の思い通りに計画が上手くいったかどうかってのを、自分の組織の連絡で確認できるわけだな。
俺との翌朝の打ち合わせを待つまでもなく、な。
盗まればもちろん、組織は大騒ぎ。
その一方で、依頼人は計画通りで満足する。
では逆に、俺が失敗して盗めなかったらどうなるだろうか?
組織としては侵入されようとも、賊から守れたならばオーケーだ。
緊急には、「警備を強化しよう」程度の話だな。
そして俺が失敗することで困るのは、今度は依頼人の幹部になる。
そして依頼人は俺に仕事をさせた以上、「12月27日のAM2時くらいまでに『お祭り騒ぎ』が起こるはずだ」ということを、知っている。
ならば、すでに失敗したことを依頼人は知っていることになる。
金塊は盗まれていないし、連絡もない。
そして時刻が既に4時30分を回った。
続けて考えよう。
俺が失敗していると予想できる(つまり騒ぎにならず、連絡がない)なら、依頼人はどう考えるだろう。
もし盗みに失敗して捕まっているなら、強引に口封じをすることを考えるだろう。
黒幕をゲロされちまったら、幹部の自分の身がヤバいからな。
失敗したが逃げおおせて、身柄を捕らえられていないとしたらどうだ?
それは……
そうだな、まず早急に連絡を取ろうとするはずだ。
その上で、高飛びさせるのか、危険とみて俺を処分するのか?
なんらかの対応が必要だろう。
それを判断するんじゃないか?
じゃあ、現時点でわかっている事実はなんだ?
・金塊は無かった。(他の部屋の可能性も?)
・女が逃げた
・お祭り騒ぎは起きた。
・俺に連絡を寄越す奴はいない
そこで話をややこしくするのが、茉莉花の存在だ。
もしはじめから茉莉花が狙いなら、女が逃げるというお祭り騒ぎが予定通りに起きたことになる。
そしてそれは、依頼人の幹部にも連絡がいくほどのことだ。
茉莉花が重要な存在なら、そうなるはずだろう。
身柄を
――本当に身代金目当てなのか?
仕事として請け負っての監禁……
その線も、あるといえば、ある。
……
…
確実なこと。
残念だが、それは依頼人の幹部である西に確認してからでないと、わからん。
だが、奴は騒ぎが起こることを知っているはずだ。
ならば逆に騒ぎが起きなければ、失敗したのか絶対に確認するはずだ。
けれど現実は、俺への連絡や接触といったことは何も起きていない。
ねずみ小屋においていった携帯を何度確認しても、何の連絡もなかったんだ。
事務所で待っている奴もいないし、駐車場に入れる前の確認でも、誰もいなかった。
コンビニへ1人で行ったが、そのときも何も起こらないし、誰の接触もない。
ということは、状況からして……
もしかすると、やはりそうかもしれない。
俺としては、非常に面白くない答え、ではある。
どうやら、「俺が一杯食わされた」ということになるか?
それは1億の金塊とは建前で、はじめから『女を盗め』ということだ。
――茉莉花が死んだ妻の毱花にそっくりなことを知っていやがったな、あの野郎は。
だから初めから俺が女に喰いつく事は、予想通りってわけか。
クソったれめが。
だが、連れ出したあとどうすればいい?
その指示が未だないと言う事は……
生きてそこから連れ出すことがメインの仕事ってわけだ。
俺は満月、つまり金塊を、『預かって保管しろ』とか『どこへ持って来い』とか、そういう次の指示は、はじめから受けていない。
じゃあ、生きて助け出せば、あとはどうでもいいのか?
俺から連絡をとってそれを確認……
クソッ! ムカつくぜ。
慌てて俺から連絡を入れて指示を求めるのは、まったくもって面白くない。
しばらく放っておいて、様子を見ようじゃないか。
フン、そういうことなら、本当に寝ちまってもいいな。
どうせ監視しなくとも、茉莉花は逃げはしない。
格好もそうだが、茉莉花には短期の明確な目標がない。
やらなきゃならんことがある人間は、助けてくれるかもしれない相手に、『私、どこに行ったらいいのかしらね……』なんて、ズレたアホなことを言わないだろう。
話に飛びついてくるだろうし、仮に警戒していたとしても、別の反応をするに違いない。
娘の凜々花に電話するにしても、時間が早すぎる。
暖房もあるし、仮に風邪をひいたって死ぬことはない。
急ぐ要素は、今のところない。
バカバカしくなってきた俺は、本当に寝ることにした。
そして翌朝……
俺は、素晴らしく不快な朝を迎えることになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます