第19話 覚醒ッ!(脱衣)

 ひとまず、戦闘の基盤となる『仲間』カードにはステータスがついていて、『レベル』『経験値』『体力』『魔力』『攻撃力』『防御力』『スピード』『スキル』『装備品』の項目がある。リザのステータスを例に挙げてみよう



『名前:リザ』

『レベル:1/20』

『経験値:0』

『体力:30/30』

『魔力:20/20』

『攻撃力:40』

『防御力:20』

『スピード:50』

『スキル:炎パンチ』

『装備品:なし』



「リザ、魔法は使える?」

「使えない。それに心なしか身体が重い感じがある」

「あぁ、それさっき私も感じた」

「あくまでパンナトッティの用意した力で戦わなきゃいけないわけか……身体能力は、どうだろ、レベルが上がると動けるようになるのかな?」


 回しまくったガチャから出てきたハズレカードは、仕分けしてテーブルに並べて置いていた。その中から『Pキャンディ』というカードを取り出して掲げてみる。カードはポォンと例の煙幕を上げ、僕の中で飴玉に変化した。


「はいリザ、あ~ん」

「なに食わせる気だよ……あ~ん」


 一旦は嫌がったものの、意外と素直にリザは飴玉を食べてくれる。するとステータスに変化があった。リザの経験値が『0』から『10』に上がったのだ。やたらと出るからそれっぽいとは思っていたけど、やっぱり『Pキャンディ』はレベルアップ用のアイテムらしい。


「なんだコレ、飴かと思ったら中身がないな。噛み砕いたら消える。甘いけど」

「なら、いくらでも食えるか……ミニパンナ、戦闘でも経験値が入る?」

「はいりませんなー、キャンディはたまにおちてきますが」


 そう言えば、最初の説明でも『敵を倒して強化しよう』みたいな一文があったか。


 ひとまずステータスを見る限り、リザはバリバリの攻撃タイプ、アンナ嬢は体力が高いからタンク系? ダーシャには回復スキルがあり、ハーニャさんは流石の高レア、全てのステータスがまんべんなく高い、オールラウンダーなタイプか。


 そして僕自身も『仲間』として参加出来るらしい。最初にスマホ型手鏡を渡されたから、てっきりプレイヤー的な立ち位置だと思っていたけど、他のみんなと同じ扱いのようだ。ステータスは攻撃タイプっぽい。リザより攻撃力が高く、スピードが低い。パワーアタッカーに設定されているようだ。


「問題は体力のシステムだな……」


 アンナ嬢のステータスを見ると、体力は『2/50』まで回復していた。どうやら時間の経過とともに回復するようだが、これじゃ時間が掛かり過ぎる。うかうかしていると砂時計が落ちきってしまうだろう。


「これ、何時間時計……いや? 何日?」


 暖炉の上を陣取る巨大な砂時計は樽ほどの大きさがあり、数分、数十分程度では砂を消費しきらないだろと見えた。


「三日時計かな……前に見たことあるよ」


 首を捻る僕に、ハーニャさんが返してくれる。ミニパンナに目を落とすと、彼女も大きく首を縦に振った。


「三日って……」

「計算が合わないわね。今年のお祭が始まったのは一ヶ月前なんでしょ?」

「六大魔女は異世界にすら旅行出来ると聞いたことがある。時間を歪めるくらいやってのけるだろうね」


 ダーシャとアンナ嬢が、ベッドでだらけつつ言葉を交わす。


「そう言えば、一ヶ月も国境上にこんなお城が建ってるなんて話聞かなかったわね。 普通なら飛ぶように知らせが入るのに……安全には配慮してるのかしら」

「この窓からの景色もパンナトッティが作ったものかもしれないってことか」


 ダーシャが窓から外を眺めながら呟く。どう見ても偽物には見えないが、アンナ嬢の言うこともしかりだ。


「魔女コインをつかえば体力と魔力がぜんぶ回復しますので、時間の節約にオススメですが?」


 ミニパンナがまた恐ろしいことをいう。


「どうあっても金を搾り取るつもりか……」

「あぁ、こうやって先に呼ばれた貴族は破産していったのね……納得」


 アンナ嬢が溜め息を吐き、その頭を撫でながら ハーニャさんが首をかしげた。


「そんなにお金を集めてなにに使うんだろ?」

「知らないわよ。帝国にケンカでも売りたいんじゃない?」

「アンナ嬢、恐ろしいこと言わんでください」

「分かりやすい悪行なんじゃないかな? パンナトッティは『いかにも』に拘るし」

「どうでもいいけど飯はないのか」

「ごはんは魔女コインでかえまーす!」


 ぽつりと漏らしたリザに、すかさずミニパンナが反応する。金の亡者だな……。


 僕は溜め息を吐き、『Pキャンディ』をまとめたカードに触れた。その瞬間にポポーンと大きな煙幕が上がって、テーブルの上に飴玉の山が積み上がる。


「ひとまず、何があるか分からないから、序盤は僕が戦います。行ける所まで行って、勝てないようになったらそれから考えましょうか」

「取り敢えず任せるわ……立ち直ったら協力するから、がんばれぇ……」


 アンナ嬢はハーニャさんの膝枕に甘えるまま、パタリと伏せ込んでしまった。


「……それでは、お言葉に甘えて、いただきます」


 手を合わせてから飴玉を鷲掴みにして、口の中へと放り込む。リザも言った通り、甘い風味はあるけれど、軽く噛むと粉々に砕けて溶け、食べている感じはしない。これならいくらでもいけそうだ。全員から冷ややかな視線を浴びながらも、僕はもりもりと飴玉を食べていった。


「……痛ッ」


 ある程度食べ進めると、噛み砕けない飴玉に当たる。首をかしげつつ吐き出して、別の飴玉を口にくわえた。これも噛み砕けない。


「レベルまっくすですのでー、『覚醒』してくださいな」

「『覚醒』?」


 ミニパンナに促され、手鏡で自分のステータスを確認した。レベルは『20//20』を表示している。その隣に『覚醒!』というアイコンが増えていて、タッチすると別の画面が表示された。



『トータ:第二段階覚醒素材』

『革ベルト』『ナイフ』『プロテイン』



「覚醒のための素材は、戦闘とかガチャでてにはいります! でもガチャの方が早いかなー」

「どうあっても金をむしり取るつもりか!」


 だが残念だったな……既にアホほど回したから覚醒素材は揃っている!


 僕は迷うことなく『覚醒』をタッチした。


「……お?」


 ポォン、と音を立てて、僕の体に変化が起こる。具体的には、来ていたジャケットがどこかに消えて、上半身がシャツ一枚になった。ステータスを確認すると、レベルの表記が『20/30』になっている。


「……だいじょうぶ?」


 ハーニャさんが心配そうに声をかけてくれた。


「えぇ、問題ありません。さて、食うか」

「まだ食うのかよ」

「今あるだけ全部ね」


 僕は再びキャンディを食べまくった。またしばらく食べ進めるとまた飴が固くなったので、再び覚醒した。


 ポォン、と音を立てて、シャツが消える。


 上裸であった。


「きゃぁッ!」「なに脱いでんの?」「このヘンタイ!」「ほう、いい体だな」


 ハーニャさんは手で顔を覆いながらも指先の間から覗くように、アンナ嬢は呆れたように、リザは僕の頭を手で叩き、ダーシャは感心したように頷いた。


「……覚醒するたびに脱げていくシステム?」

「おいろけのごほーびー」


 ステータスを確認すると、数字自体は上昇を続けているので強くなっているのだろう。しかし、これ次はどこが脱げるんだ……そして他のみんなを『覚醒』させたいという強い欲求に駆られてしまった。


「チクショウ! どこまで金を搾り取る気だ!」


 全員を最後まで覚醒しようとしたら、国家予算でも足りないんじゃないか?

 悔し涙と共に僕は飴玉をもりもり食べ進めた。感覚的には、二回覚醒した後の方が多く食べたつもりだけど、結局のところ、レベルは『38/40』で止まってしまった。キャンディはそれで打ち止めだ。これ以上お金を使いたくないし、取り敢えず、これで進めるところまで進むしかないだろう。


「ひとまずは、これで行くか……でも流石に上裸は恥ずかしいな」


 装備品のカードを集めた山を探り、『☆タンクトップ』があったのでそれを着る。ちなみに、『☆☆☆☆☆ ものすごい水着』はハーニャさん専用の装備品らしい……正にものすごい誘惑に駆られたが、ぐっと堪えてカード山へ戻した。


「よし、それじゃ、行ってきます。皆さんはくつろいでいて下さい」

「ホントにいいのか? ケンカなんだろ? オレも手伝うぞ?」


 ダイアル付きの扉へ向かう僕に、リザが駆け寄ってくれる。


「大丈夫、多分、このゲームが僕の知ってるジャンルと同じなら、こうするのが一番効率がいいから。服のカードも沢山あったから、試しながら待っててくれ」

「…………おう」


 リザは宝石箱でも見るように、カードの山を振り返って呟いた。

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