Fake6:スポーツ

あいつに


「今度のサッカーの夏大、見に来てくれよ」


と言われた。何そのセリフ。どこぞの少女漫画かよ。なんで私がこいつの試合なんか見に行かないといけないのか、と思っていたけど、どうやら水谷くんも出るそうなので行くことにした。

ちなみにこいつと水谷くんはサッカー部。

まだ1年生だけど、この2人は抜群にサッカーが上手いらしいので、先輩を出し抜いてレギュラーの座を勝ち取ったらしい。

運動神経皆無の私にとっては考えられないことだ。

ちなみに1人では何か嫌なので、澪と一緒に来ている。


「ねぇ、ちゃんと宮川くんのこと応援してあげなよ?」

「えぇ…」


私は水谷くんを、と言おうとしたけど澪には「彼の真剣な目を見て告白OKした」って言ってしまっているのでやめた。


「そうだね…私が応援することであいつ頑張るかもしれないし」

「でしょでしょ!恋のパワーってすごいんだから!」


試合が始まった。こちら側の選手の1人が水谷くんにパスする。それを華麗に受け取る水谷くん。あぁ、水谷くんカッコイイ…!

水谷くんがあいつにパスを回す。少しぎこちない感じであいつはそのパスを受け取る。

何緊張してんだ、あのバカ。

せっかくお前の大好きな彼女様(笑)が来てやってるのに。かっこ悪いぞ。


「香織…そこまで言わなくても…(笑)」

「えっ?私どこから声に出てた?」

「『あぁ…水谷くんカッコイイ…!』ってとこからだよ…ちゃんと素直に応援してあげなさいよ、香織ってばツンデレなんだから!」

「応援してるよぉ…あとツンデレじゃないし」


あいつじゃなくて水谷くんを、だけどね。

すると近くから


「俊くーん!!頑張って!ファイトぉ!」


…水谷くんの彼女だ。やっぱり来てたんだ。


「ねぇ香織、あの子…」

「知ってる、水谷くんの彼女でしょ」

「うん…たしかに可愛いけど…何か媚びてる感すごいな…」


私は苦手だな、と澪が呟く。

確かに、私も苦手なタイプ。何て思っていたら。


「あ、俊くんと同じ3組の櫻井さんと山口さんだよね?」


水谷くんの彼女様に声を掛けられた。


「あ、どうも…」

「初めまして……」

「あなたたちも俊くんの応援?まあ俊くんはカッコイイからねぇ〜…あ、櫻井さん」

「何?」


水谷くんの彼女様は私の耳に顔を寄せると、


「人の彼氏に色目使わないでくれる?あんた、私の俊くんのこと好きなんでしょ…やめてよねぇ」


と言って去っていった。聞いていた澪が心配してくれた。


「怖いね、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」


あいつと話すのに比べたら全然苦痛じゃない。

そんなことを考えていると前半の試合が終わったらしい。やば、何にも見てなかった。

つまり水谷くんの良い所も見逃しちゃったって訳だ。

後で知り合いのサッカー部のマネージャーさんに録画してあるビデオ借りようかな。


「おい、かお…お前!来てくれたんだな」


出た〜〜〜私の彼氏(笑)。


「あー…お疲れ」

「さんきゅ。どうだった?俺、水谷と同じぐらい上手かったろ?」

「ごめん他のこと考えててあんたのこと見てなかった」

「えっひどい!!俺頑張って水谷みたいになれるように努力したのに…」

「知らねぇよ」


お前が水谷くんみたいになるなんて100年早いわバーカ。

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