呼び出し相手は……

 

 放課後。

 夕暮れの空は、綺麗なオレンジ色に染まっていた。

 グラウンドからは、スポーツ系の部活の様々な掛け声。

 放課後の教室からは、パート練習を行っている吹奏楽部の管楽器や打楽器の煌びやかかつ重厚な美しい音色が学校全体に響き渡る。


 裕翔は、グラウンドと校舎から聞こえる音の共鳴を耳にしながら、校舎裏へと向かっていた。

 普段から耳にする音。でも、今日は美しいハーモニーを奏でているように聞こえる。


 裕翔は、今までに味わったことのないワクワク感とハラハラ感を感じていた。


 朝、引き出しに入っていた呼び出しの手紙。

 何とか気持ちを落ち着かせようと、自分の太ももをつねったり、シャーペンで手の甲を突いたものの、心が沈静化することは無かった。

 むしろ、落ち着かせようと思うあまり、逆に放課後の事をより強く意識してしまうようになっていた。


 昼休みも、朋也と葵の話には上の空で、誰が俺を呼び出したのだろうかと頭の中を巡らすばかりであった。


 クラスの女子?他のクラスの女子?

 俺、女友達、葵ぐらいしかいないし……

 いや、待て。

 たぶん、俺の事陰で見ててくれた純粋な女の子なんだろう。

 きっとそうだ!

 でも、もしイタズラだったりしたら……もしかして、男からだったり!

 いや、それは無いか……


 そんなこんなで、運命の放課後を迎えたのだ。

 

 校舎の入り口を出て右に進み、突き当たりを再び右に曲がる。

 そこから、少し進んで行くと、左手に赤レンガで作られた花壇がずらりと並んでいる。

 花壇には、赤青黄白紫ピンク、色とりどりの形の違う美しい花々が咲いていた。


 裕翔は、花壇を横目で見ながら、種々の花々が、これから起こる事がとても幸せなものになると予言しているように感じていた。


 再び前を向くと、花壇の列の最後に女の子らしき人影が見えた。

 校舎が影になっていてはっきりとは分からなかったが、その子は花壇に座り、夕暮れの空を眺めているようだった。


 裕翔は、目を細めながら、その子の元へと近づいていく。

 徐々にその姿ははっきりとなっていき、その子の目の前に来た瞬間、裕翔の視界には意外な人物が現れた。


 それまで細めていた目が、大きく見開かれる。


 透明感のある白い肌に、綺麗な黒髪。

 目鼻立ちがくっきりとした、端整な顔立ちの清楚な女の子。


「綾瀬さん……」


 裕翔は、弱々しい声で栞に声をかけた。


 すると、栞は、裕翔の方にゆっくりと顔を向け、ニッコリと微笑む。

 他人行儀なあの微笑みとは違う、本心から滲み出ているような華やかな微笑みであった。


「待ってましたよ、白坂さん」


 栞が裕翔に答える。


 春の匂いを含んだ爽やかな風が、見つめ合う2人の間を吹き抜けていった。 

 

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