遭遇


 教科書の配布が終わり、裕翔は帰り支度をしていた。

 すると、裕翔の肩を誰かが軽く叩いた。振り向くと、そこには朋也と葵がニヤニヤして立っていた。


「どうした?」

「せっかく昼で終わったんだから、飯行こうぜ!」

「あっ、そういうことか」

「なにその反応!楽しみじゃないわけ!せっかくあたしと朋也も部活無いのに!」

「いやいや、楽しみだよ」

「絶対楽しみじゃないでしょ!むかつく」

「はいはい、とりあえず3人で行くぞ」


 いつも通りの他愛のないやり取りを終え、裕翔達は学校を後にした。

 葵がラーメンに行きたいとうるさいので、中学時代からよく通っていたラーメン屋に行くことになった。


 ラーメン屋に到着し、中に入ると、始業式終わりの学生で席は埋め尽くされていた。

 みんな考える事は同じというわけだ。


「いらっしゃい!!何だお前らまた3人で来たのかー。変わりばえしねーな」

「源さん、こんにちは!てか、変わりばえしねーってなんだよ!」

「悪りぃ悪りぃ。とりあえず、もうじきテーブル席空くから待っといてくれや。お前らいつものでいいな?」

「もちろん!」


 源さんの問いかけに、3人とも首を縦に振った。


 テーブル席が空いて、裕翔達は席に着き、ラーメンが届くのを待っていた。待っている間、話の話題は今日の転入生の話になった。


「うちの転入生の子、スッゲー美人だよな。隣の席でマジで良かったわー」

「朋也、キモっ!まあ、確かに大人っぽくて美人だよね、あの子」

「ほんとな!葵には、そんな素質持ってないもんな」

「黙れ、朋也!」


 葵は朋也の肩にグーパンチを入れた。

 朋也は効いてないような余裕の表情を見せた。それにイラっとした葵が朋也に再びグーパンチを入れる。

 そんな夫婦漫才のようなやり取りを見て、裕翔はクスクスと笑いだした。


 すると、朋也がニヤニヤした表情で裕翔に話しかけてきた。


「裕翔は、あの転入生どう思う?」

「いや……まあ、美人だと思うよ」

「やっぱりそうだよな!さすが裕翔」


 朋也は、裕翔に握手を求めてきたので、裕翔は朋也と握手を交わした。

 そんな葵は、なぜか裕翔まで軽蔑したような目で見ていた。


 しかし、裕翔は、心の中で彼女の存在が気になっていた。

 それは恋愛という気持ちではない。

 ただ、自分とあの子には何らかの接点があるのかどうかという事だ。


 そうこうしてる内に、源さん特製の豚骨醤油ラーメンが運ばれてきた。空腹の3人は、運ばれるや否や ラーメンに箸をつけた。

 食べてる途中に、葵が裕翔のチャーシューを取ったり、朋也が嫌いなネギを裕翔に無理やり渡したりと災難はあったものの、和気藹々としながらラーメンを食べ終えた。


 アクリルカップの入った水を飲みながら、葵は裕翔と朋也にこれからの予定を尋ねてきた。


「俺は、女の子と遊ぶ予定あんだよね〜。駅前のカフェで待ち合わせってわけ」

「はいはい、万年発情男は分かったから。それで裕翔は?」

「俺、この後バイト」

「そっかー。じゃあ、今日は解散だね」


 残念だったのか口をとがらせる葵。

 その事が何を意味しているか分からないでいる裕翔。

 しかし、目の前の朋也はなぜかニヤニヤしている。

 きっと、今日のデートが楽しみなんだろうと思い、裕翔は、二人とともに席をたった。

 ラーメン屋から出ると、裕翔は朋也と葵と別れてバイト先へと向かった。


 バイト先は、裕翔の通う高校の近くにあり、駅の方向とは逆方向で、閑静な住宅街の中にひっそりと店構えをしている。

 いわゆる隠れ家的な店だ。


 バイト先へ向かってる途中、突然の雨が裕翔を襲う。傘を持ち合わせていなかった裕翔は、自分の鞄を傘代わりにしてバイト先まで走っていった。


 すると、バイト先に着く直前、見覚えのある女の子が裕翔の視界に映りこんだ。

 黒髪の綺麗な長い髪に清楚な顔立ちの女の子。


 それは、まぎれもなく、転入生の綾瀬 栞であった。


 どうやら栞は、裕翔のバイト先の建物の屋根で雨宿りをしているようだった。


 裕翔は、驚きのあまり走る足が止まる。

 そして、ゆっくりと栞の方へと足を進めた。


 栞との距離が近づいていくにつれ、胸の鼓動が徐々に高くなっていく。

 走ったせいで鼓動が高鳴っていると思い込みたい裕翔。


 誰かの存在に気づいたのか栞は、チラッと近く裕翔の方に視線を向けた。

 そして、今日で3度目の優しい微笑みを裕翔に向けたのだった。


 裕翔の胸の鼓動の高鳴りは、地面を叩く強い雨音と呼応していった。

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