ねえ、起きて。
カーテンの隙間から差し込む日の光が煩わしくなって、目を覚ました。しばらくベッドで横になったまま寝ぼけた頭を回転させるフリをしていたが、不意に、そういえば今日は朝から出かける予定があったのだと思いだし、身をよじらせた。枕元の時計には8時と表示されている。
体を起こす。かかっていたタオルケットがずり落ちると、何も着けていない裸の自分の身体が目に入った。そういえば昨日はあのまま寝たのだと思いだす。そして隣を見ると、まだ寝たままの男がそこにいた。彼のことだ、寝起きが悪いのでどうせ起こしても起きやしないだろうと半ば諦めながら、
「ねえ、起きて」
と彼の肩を掴み身体を揺らした。案の定、彼はピクリとも動かない。溜息を一つ吐く。これは暫く起きないだろうと思い、起きて部屋を出る。浴室に行き、シャワーを浴びた。
キッチンに立ち、朝食をつくろうと冷蔵庫を開ける。中には、卵が3つ、4枚入りのハムが1つ、キムチと昨日の残りの野菜炒め、そしてバターやチーズや調味料がいくつか入っている。何をつくろうか考えていると、確か先日買った食パンがあることを思い出した。トースターに食パンを2枚、入れようとして、彼はまだ食べないだろうと思って、1枚に減らす。焼いているうちに、スクランブルエッグを作ろうと卵を取り出す。ボウルに割って入れ、塩で味をつける。熱しておいたフライパンに流し入れて、固まってきたところをかき混ぜるように菜箸を動かす。簡単なものだが、朝にはこのくらいでいい。皿に適当に盛り付ける。丁度、トースターが音を立てた。こんがりと焼けた食パンが顔をのぞかせている。バターを冷蔵庫から出してパンに塗る。両面塗ると手に持った時にバターが手についてしまうので、いつも片面だけに塗っている。バターを塗り広げると、パンの熱によって白から透明へと変わる。それをくわえながらスクランブルエッグの皿を持ってテーブルに向かった。
テレビをつける。チャンネルを適当に回すが、この時間ではどこもニュースばかりやっている。普段ならニュースをボーっと眺めながら朝食を食べていただろうが、ここ最近はどうも有名人が不倫したそうで、連日そのニュースばかりやっていて流石にうんざりしてしまった。仕方がないのでテレビを消す。たまには静かに朝食をとるのも悪くはないと思った。空が晴れ渡って気持ちがいいからだろうか、どうにも気分がよく感じた。彼は未だに起きてこない。外から聞こえる雀の鳴き声や、隣人の出かける音をBGMにして、パンを頬張る。ふと思いついて、パンの上にスクランブルエッグを乗せてみた。一口齧ると、案外美味しかった。
食べ終わり、食器を片付け寝室へ向かう。彼は未だベッドに横になったままだ。カーテンを開ける。窓から差し込む光が彼を照らす。彼は起きない。溜息を吐き、クローゼットを開ける。先日買った新しい服を取り出して、着替える。姿見で確認すると、若草色がいい具合に爽やかで今日という日にはあっていると感じた。ベッドの方を見やる。彼はまだピクリとも動かない。彼には首から上がなかった。シーツが赤黒く汚れている。今日3度目の溜息を吐きながら、ベッドに近づく。
「ねえ、起きて」
肩を掴んでそう言った。
カモノハシのおもちゃ箱 芹沢カモノハシ @snow_rabbit
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