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敷島と幸田が心配するので、榊は 朋樹と入れ替わることになった。

『ボティスと二人っていうのは、あんまりじゃないかな?』と、ヴィシュヌが気を使ったからだ。

『影人が出るより心配だよね』と言う ヘルメスに

ボティスは、ケッ と 眼を細めたが。


朋樹に連絡してみると、竜胆ちゃんを迎えに行った ルカたちは、もう学校に着いたようなので

車で 駅前に来てもらい、ボティスと敷島を乗せて

神社へ向かってもらうことにした。


オレはバスに、榊、ミカエルとヘルメス、幸田を乗せ、神社で 三人を降ろし、榊と学校へ向かう。


「お前の友は、なかなかに しっかりしておるのう」


駅前で買ったフライドチキンを食う 榊に言われて

「おう」と、少し 鼻が高くなった。

友 と言える程、しっかり話してこなかった事を

少し後悔する。


学校の近くの駐車場に 車を入れ

榊のチキンを買う時に買った バケツチキンを

両手に 5つ持つ。

後で 差し入れとかあるだろうけど

トールとロキ、高校生班だからな。食うだろ。


「泰河くん!」


リョウジだ。「よう」と バケツチキンを渡す。

みんな 校庭に居たが、「鍵とか警報装置は?」と

聞くと、トールが グミを持つロキを指差した。


ロキは 昼間とは違い、少年ロキの姿ではないので

同級生の 梶谷ロキ とは 思われていないようだが、

一度 河川敷のカフェでトールを見た 竜胆ちゃん以外の二人は、トールの でかさや神々しさに やられていた。


「朋樹くんが 行っちゃった... 」


肩を抱く ジェイドにもたれ、残念そうだった竜胆ちゃんは、榊を見て 明るい顔になっている。

その顔を見たリョウジも 明るい顔だ。

あぁ、いいよな。なんか もう遠いぜ、こういうの...


トールとロキに、バケツチキンを ひとつずつ渡していると、「泰河。高島と真田です」と

四郎に 友達を紹介された。


高島くんと 真田くんは、安全そうに見える ルカの

両隣に居て、遠慮がちに 会釈している。

ひとりが すげぇ男前だ。朋樹も あんな感じだったけど、男前の子は “スポーツする子” って雰囲気だった。もう 一人の子も すらっとしている。

それでも、四郎は ひとり、空気が違う。


“今日は、協力ありがとう” とかの挨拶は

ジェイドや トールがしたようなので

「四郎も リョウジも、お世話になって... 」と

よく分からん挨拶になる。

これも とっくに言ってるよな。


「チキン食ってから、それぞれ ふらふらするう?」

「そうだな。飲み物 買って来ようか?」


藤棚の下で食うことにしたが、四郎や リョウジは

高島くんや 真田くんに

「どういう知り合い? ルカくんは、氷咲先輩の兄ちゃんで、ルカくんと友達の人たち?」

「なんで リョウジも?」と、こそこそ聞かれ

「トールさんには、初めて会ったけど... 」と

リョウジは得意げだ。


「四郎、大人の知り合い 多いよな」


真田くんが 榊を気にしたようなので、榊が

「私も、朋樹や四郎と親戚だから」と 微笑った。

榊でも 大人のお姉さんなので、二人は

「あ... 」「そうなんですね... 」と 緊張している。


「お前等、影人のことで 何か聞いたことあるのか?」


昼間、何も聞いていなかった ロキが聞く。

イタズラ仕掛けるのに 必死だったみてぇだな。


「学校では、見たことがないです」

「外で騒いでるのは 見たことがあるけど

おれが見た時は、消えた後でした」


「うん、家でも 見たことないよ。

出たら怖いから、ロザリオ持ち歩いてるけど」


竜胆ちゃんは、実際に 影人も 重なった子も見てるもんな...

「重なられた子が居ても、親しくないと分からないのが 困るよね」とも 言っている。


四郎や 友達のミサキちゃん、河川敷のカフェに来てもらった ケイタくんとは、学校や メッセージアプリで 影人の話をしているようだ。

噂程度に捉えている子もいれば、外で見た子もいる。見たがって “探しに行こう” って子もいるようで、オレらからすると 頭が痛い。

パニックになってないだけ マシだが、守護天使達が 守護に力を入れているせいもあるだろう。


近くのコンビニまで行って、飲み物買った ルカと ジェイドも戻り、だいぶ 打ち解けてきたので

そろそろ分かれることにする。


「講堂兼礼拝堂は、竜胆とジェイド。榊もだ」


決めるのは、ロキらしかった。


「あのっ、おれ 怖がりなんですけど!」


真田くんだ。


「お前は、俺等と グラウンド」


トールとロキか... 遊ぶんだろうな。

グラウンド と聞いて、真田くんは ホッとしている。グラウンドで怪異って あんまり聞かねぇもんな。


「泰河は リョウジと校舎。

ルカは、高島と四郎と 体育館だ。

油断して はぐれるなよ。何かあれば、すぐ連絡。

一時間ごとに おやつ休憩とする。

ここか グラウンドに集合」


おおっ」と、リョウジが 口を滑らせたが

「嬉しくて!」と 取り繕っている。

なかなか上手いな。


バラけて歩き出して すぐに、真田くんが

「あれ... ?」と 立ち止まった。

「何なに?!」と 竜胆ちゃんが、榊とジェイドの腕にしがみつくと

「何か 聞こえませんか... ?」と 顔を青くする。


ピアノの音だ。校舎から。試し弾きっぽいな。


突然 大音量になり、真田くんだけでなく

高島くんや 竜胆ちゃんも ビクっとしたが

「“運命”」

「バラキエルは、オーケストラだったよな。

歓喜の歌」と ルカと言うと、ロキが ムッとした。




********




「あいつ、絶対 仕掛けてるからよ、いろいろと」


リョウジは、上靴に履き替えていたが

オレは来客用スリッパを履き、ぺったぺった音を立てて、並んで廊下を歩く。


ボティスは、学校の七不思議やら 都市伝説やらで

きたが、ロキは 未知数だ。

昼間 仕掛け回ったに違いねぇんだよな...

ピアノだけで 高校生班が青くなったので

榊に 人避けをしてもらい、全体的に 電気を点けた。影人が出ても 見えやすいしな。

グラウンドの真田くんが『ええーっ?!』つってたけどさ。


「でも、校舎の中に居れば いいんですよね?」


リョウジが オレを見上げて言う。

「別に、歩かなくても」


「そうだよな... 」


学校内に 影人が出るか出ないか を 調べに来たんだった。

礼拝堂は出る確率は低いけど、他は どうだろう?ってことで 散らばっている。

わざわざ歩き回って ロキの仕込みに引っ掛かること ねぇんだよな。


「じゃあ、適当な教室に居ようぜ」と

開けた教室には、逆さに男が吊るされていて

「ギャアアーッ!!」「アアアーッ!!」と

二人で叫んじまった。

再び 大音量で響いた “運命” で冷静になると

腹の底から イラッ とする。


男は、だらりと両腕を下げている。

逆さの男の顔はロキだ。


「腹立つぜ、あいつ!」

「でも、やけに リアルじゃないですか... ?」


逆さ吊りのロキの頭は、オレの胸の下辺り。

顔は 床に向いている。 確かに、肌とか...


しゃがんで顔を見てやろうとしたら

床に向いていた顔が オレに向き

「ビビったか?」って 言いやがった。

また 二人で大悲鳴、また 運命大音量だ。


「おまえ! 何してんだよ?!」


腰 抜かしかけながら聞くと、リョウジが

「えっ? 本人?」と オレの背後から覗く。


ロキが、ぐっと 腹筋で起き上がり

足のロープを解くと、ロープは天井から消えた。


床に着地すると、嬉しそうに

「まさか、来ると思わなかっただろ?」と

グミの袋を リョウジに渡し

「はい!ビックリしました!」と リョウジが

うんうん頷くと、ロキは満足げに

「次は ルカかな」と 消える。


「真田、大丈夫かなぁ?」

「トールが居るから 大丈夫だと思うぜ。

その子 ビビらせたら、トールに怒られるから

オレらを 誂うことにしたんだろ」


息をついて、リョウジが開けた グミ摘みながら

「ここ、何の教室?」と聞くと

「多目的室です」らしく、用途は いろいろのところだ。他にも二つ こういう教室があるらしい。

机もなく、後ろの棚に折りたたみ椅子が たたんで

二列 立て掛けてあるが、ガランとしている。

前には、黒板もあるけど ホワイトボードもある。

遠くで ルカの悲鳴が聞こえた。


「まぁ、こういう教室の方が

影人が出ても 対処しやすいかな」


けど、休憩まで 一時間あるし

椅子出して 座ろうかと、二脚取って

一脚を リョウジに渡すと

「やっぱり、シャドウピープルって

本当に出るんですね... 」と リョウジが言った。


「海外でも出てるなんて。

でも、日本の見張りは強化されてるんですか?」


「いや、どこの国でも

悪魔や魔人たちが 頑張ってくれてるんだぜ」


オレの向かいに 椅子を開いて座った リョウジは

「学校でも、毎日 話は出るし

違う学校のヤツが重なられた とか、塾の帰りに見た とか聞くし、四郎にも 話は聞いてるけど

一度も見てないんで。いや、それでいいんですけど!」と 慌てて付け足している。

出られたら怖いもんな。


リョウジの父ちゃんが、“リリ” と言ったようなので、ご両親は安心だ。

リョウジも、父ちゃんか母ちゃんの手を取れば

重なられることはない。


ただ、ニナの時に出た影人については

はっきりしない。何か変容している恐れもある。


二体が 融合した影人... 重なれない人の手を取っても... つまり 霊の情報が増えても 重なれる となると、また厄介になる。

ドバイで見た 頭のない二人一体は、“重なれる人が

二人”。

ニナと朋樹の影人は、“重なれる人と重なれない人”... だとしたら

どんどん 対処出来ねぇようにされていっている。


「学校や教会が、夜も安全だって分かればいいですよね。特に学校なら、たくさんの人数でも 入れるし」


「そうだな。逃げ込める場所がある って考えるだけでも 少し安心出来るしな... おおっ?」


リョウジが 立ち上がり、いきなり 側転した。

その行動にも ビビったが、側転の美しさにも 目を見張る。


「何かが、足に!」と 折りたたみ椅子を指差す

リョウジは「足、床から離さなきゃと思って」と

言い訳のように添えているが、にしても トリッキーな動きするよな... 意外だぜ。


目の前の折りたたみ椅子の下から 白い手が出ていて、何かを掴もうとするように 握ったり 開いたりを繰り返す。


「ロキ! いいかげんにし」 ろよ と言いかけると

「なんだ?」と、ロキが隣に立ち

手は、ゆっくりと薄れて消えた。




********




「だから、手は 俺じゃないって言ってるだろ?」


「なら、霊が居るっていうのかよ?

この学校には、花子ちゃん以外 居ねぇんだぜ?

オレら、調べたことあるからな!」


休憩時間になって、ロキと 藤棚の下で揉めていると、四郎たちや ジェイドたちも戻って来て

リョウジから 白い手の話を聞き、高校生班が 震え上がる。

「おれ、トイレに行きたいんですけど... 」と

言った真田くんには、四郎が付き合った。


「トール、ロキ」


校門から ヴィシュヌと師匠が入って来た。

二人で 両手いっぱいに、スパイシーな匂いがする

袋を持っている。差し入れだ。

いつもみたいに 取り寄せ出来ねぇもんな。


礼を言って、藤棚のテーブルに包みを開くと

サテや ルンダン、マルタバ、ナシゴレンだった。

さっきのチキンが余分だった気はする。

トールとロキの前には、シェムハザからの レンガステーキ。榊の前には ベベッ ゴレン。


「どうかな?」と 聞かれて、ジェイドが

「今のところは どこにも出てないよ」と 答えたが

「ロキが イタズラするから、高校生たちが

怖がってんすよ!」

「手は 俺じゃないって!」と 言い合いになる。


シュー」と言いかけた 師匠を

「花子ちゃんが居るんすよ!」と、ルカが止めると、師匠が 多目的室を見に行った。


「オレらん時は、バスケットボールぶちまけやがったんだけど、拾ったら 生首になってさぁ!

なあ?」

ルカが 高島くんに振ると、サテを摘みながら

「心臓 止まりかけました。顔は ロキさんだったし」と 頷いている。

梶谷ロキと同じ名前でも、別に 怪しまねぇんだな。


「その後、ステージ下の物置の 引き戸の隙間が

音を立てて閉まったんです。内側から」


真田くんを連れて戻った 四郎が言う。

話を聞いた真田くんは、怯えた顔をしているが

真田くん自身は、トールから 北欧神話の話を聞いていたようだ。

「その 北欧神話の雷神と 同じ名前なんだって!」と、明るい顔になって言った。


「ステージの下も知らんぞ!」


レンガステーキを片手に、いばるロキに

ジェイドと榊が

「じゃあ、講堂の窓は どうなんだ?

一箇所だけ 開けては締め 開けては締め

音をさせて」

「ふむ。竜胆まで 驚かせるとは」と 抗議する。


「それも知らん! 俺は、講堂まで行ってない。

ルカたちの体育館の後は、グラウンドに戻って

真田に 詩を聞かせていたんだ! スノッリの!

講堂は、礼拝堂と 一緒になってるんだぞ?

俺は、加護を願ってるからな」


左手で 自分の腹 触ってるし、本当っぽいよな...


校舎の正面玄関から、師匠が戻って来て

「手に話を聞いたが」とか 言い出した。

手って、話すのか?


「元々は、近くのコンビニの前の歩道や駐車場、

空き地などを 彷徨いていたようだ」


外で 足掴んでたのか。迷惑なヤツだよな。


「学校の霊じゃないんだ」

「どうして 引っ越しを?」


「“足首を掴もうとした女が、地面に沈んで行った” と。それで 不安になり、学校に移動したらしい」


「地面に?」と、ヴィシュヌも聞き返すが

「コンビニの向かいの空き地で」と 師匠が頷く。


「黒い足跡は?」


あっ! トールの質問で、ケシュムの自宅で消えた 魔女を思い出す。


「手は 何も言っていなかったが... 」

「確認して来よう」と

ヴィシュヌと師匠が 校門から出て行った。

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