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「まず、神隠しと蔓で 分けるだろ?

月夜見キミ班と、榊・朋樹班だな」


フルーツ食いながら、班分けなんだぜ。


世界樹ユグドラシル案内が、トールと ロキ」


「術は?」


「とりあえず、祓魔と 魔術を分ける。

祓魔は、ミカエルと四郎班

ジェイドとボティス班。

魔術は、ハティとシェムハザ班

ベルゼとベリアル班」


「泰河と四郎の守護に ミカエルは外せんだろう?」

「オージンが隠しているものを、ルカが感知したとしても、ルカの筆で出したものは、泰河が触れんと 意味がない場合が多い」


うん、オレは泰河と 1セットなんだよなぁ。

オレは 単体じゃ、対して役に立たねーんだぜ。


「術が通用しない場合は?」


胡座かいて、四郎とマンゴスチン食ってる ロキが

「いや、偵察に行くんだろ?

“術が通用しない” って、何に?

必要なのは、神隠しと蔓のみ なのに

話の方向が やり合う前提になってないか?」って

警戒してる。

やり合う っていうか、場所が 世界樹ユグドラシルだから

最終戦争ラグナロクの警戒なんだよな。


「万が一 の いろいろを考慮だね」


ヴィシュヌが肩を竦めて

「食事のことを考えると、俺とシェムハザは

分かれた方が いいかな?」とも 言ってて

「“万が一” って?」って聞く ロキには

「アジ=ダハーカを発見して 騒いだ場合」って

師匠が答えてるし。


「だが、実際に発見した場合

その場で騒ぐのか?」

「無断で入り込んでおいて、それも無いだろう」


「アジ=ダハーカが 騒ぐんじゃないのか?」

「俺等の神隠しが解けりゃあな」


「アジ=ダハーカを神隠しに入れて、キュベレごと

拐ってしまえば?」


ジェイドの意見に

「出来れば、それが 一番ラクだ」って

ボティスが答えて

「だが、アジ=ダハーカも抵抗する。

オージンにバレて 追われた場合、

狂戦士ベルセルク戦死者霊エインヘリアルも 相手にする事となる。

そうなりゃ、アース神族も出てくるだろ」って

ピアスはじかれちまったし。


「その場でいさかいを起こすより

事実をさらす方がいい」


ミカエルが言うと、ベルゼも

「オージンの目的は、あくまで 最終戦争ラグナロクの予言を

くつがえすことだ。

アジ=ダハーカの事で、アフラ=マズダーや

アンラ=マンユが

キュベレの事では 天や、下手すれば 地界まで出て来るのは、目に見えている。

どちらも相手にすれば、アースガルズは壊滅する」と、パッションフルーツ食ってる。

フルーツとか食うんだ。南国のやつなのに。


「うん。アジ=ダハーカを見つけたら、俺が

アースガルズに出向いて、

“ゾロアスターの神々が、アジ=ダハーカを探している” と、オージンに言いに行こう」と

ヴィシュヌが まとめ出す。


「それから、アジ=ダハーカが居る場所で 待機していれば、オージンが やって来るだろう。

そこで ロキの神隠しを解く。

ロキには、あらゆる術避けをしておくんだ。

ロキは ミカエルを呼び、ミカエルの神隠しも解いて、証人とする」


「いきなり、ロキが洞窟を出たことを

バラすのか?」


ロキより、トールの方が ビビってるんだぜ。

シギュンも 不安そうに見てるけど

「“気付いたら出ていた” と、入れ替わりの異変のせいにすれば良い。実際 そうなんだし。

“その時にキュベレを見たから ミカエルを呼んだ” と。

これで ロキとシギュンの事に、ミカエルが介入出来る」って 簡単に言うヴィシュヌに

ロキが頷いて

「俺が “世界樹ユグドラシルを出る” と言えば

“俺とヘイムッダルが相討ちになる” という

最終戦争ラグナロクの予言が、一つ外れる。

ミカエルが その証人になってくれたら

オージンは 反対しないはずだ」って言う。

ミカエルも頷くのを見て、明るい顔になった。


「アジ=ダハーカの事で、ミカエルが俺を呼び

俺とガルダの神隠しも解く。

俺等が アジ=ダハーカを預かり、

キュベレ 及び、ロキとシギュンの身柄は

ミカエルが預かる。

これ等の全ての証人には、無関係の異教神が望ましい。ベルゼブブとヘルメスを呼ぶ」


「おお、すげぇ!」

「穴がない」


朋樹とジェイドが感心してて

四郎も、ヴィシュヌに 羨望の眼差し向けてるし。

ハティやベリアルも納得して 頷いてる。


「うん、上手くいけばね」と

パパイヤ食ったヴィシュヌに、トールが

「もし、オージンが抵抗したら?」って 聞くと

「押さえるよ。ミカエルも居るんだし」って

指輪型にしてるチャクラムを見せた。武力かぁ。

優しい笑顔なんだけどさぁ。


「トールは 神隠しのまま、アジ=ダハーカの方を頼む」


ミカエルが添えると、トールは ほっとした顔で

「分かった」って 笑った。


「しかし、二手に分かれて 捜索致しまして

どちらかが見つけた場合、それを どのようにして

互いに報せましょう?

どちらも神隠ししておるので、呼び声などは

伝わらぬのです」


四郎の質問で、あ... ってなった。

ヴィシュヌすら「そうなの?」って 言ってるし。


「うん? 神隠しされてても

たぶん 俺は、移動出来るよ」


ヘルメスなんだけどー。


「えっ」「なんでなんすか?」


「ケリュケイオンがあるから。

“伝令” の杖だからね。情報を運ぶ。

そのために 天界から冥界まで行き来出来るし、

他神界にも入れる。

無断で入ったら 罰せられるから入らないけど。

結界内から呼ばれても、大体 入れるよ」


月夜見キミサマの隣に来たヘルメスが

腰に提げたケリュケイオンを 片手に持って

月夜見キミ、神隠ししてみて。

榊も、月夜見キミとは別に 神隠ししてから

俺を呼んで」って、月夜見キミサマと二人で消えた。


「ふむ、では... 」って、榊も消える。


どっちも神隠しを解くと、ヘルメスは 榊と現れた。月夜見と榊の方が 驚いてるんだぜ。


「えっ、じゃあさ

探さなくても、アジ=ダハーカのところに

入れるんじゃねぇの?」


泰河が言って、オレも「ええっ?!」つったけど

「アジ=ダハーカは、ヘルメスを呼ばん」って

ボティスに言われちまった。


「うん、電話だと思ってくれたら分かりやすいかも。かけたり 受けたり出来るけど、

番号を知らなかったり、かけても 拒否されると

ダメなんだよね」って 肩を竦めた。


結界で外界と遮断されている場合でも

中からヘルメスを呼べば、ヘルメスが結界を感知出来なくても、入れちまうらしい。


「それでは、今の神隠しの場合ですと

榊がアジ=ダハーカを発見し、ヘルメスを呼べば

榊側の神隠しに ヘルメスは入れますが、

月夜見尊と居られて、アジ=ダハーカを発見された場合は... 」


呼ばれなければ、榊側に どう伝えるか... かぁ。


ん?


「琉地」って喚ぶと、白い煙が凝って

琉地が現れた。「むっ」って、榊が緊張する。

少し遅れて、バロンとアンバーも顕れた。


「琉地は、神隠し効かねーんだぜ。

バロンもだけどー。勝手に 神隠しん中も出入りするし。チャナン持って来たみたいに、メモとかも運べるし」


「えっ?」「マジか?!」


誰も気付いてなかったしー。

「やはり犬は、そのようであるのだ... 」って

榊が ぶつぶつ言ってるけど、そうじゃないと思うんだぜ。

「アンバーは?」って ジェイドに聞かれて

アンバーが しょんぼりしてる。

「いいんだよ」って 慰めてるけどさぁ。


「バリ島のバロンと、コヨーテとインプ?」

「白いインプなんか いるんだな」


ロキやトール、ヘルメスが 遊び出してるけど

「それなら 琉地やバロンに頼めるね」って

ヴィシュヌが班を分ける。


「月夜見班が、トール、ミカエル、四郎、泰河、ルカ、ハーゲンティ、シェムハザ、ガルダ。

伝令に 琉地かバロン。

榊班が、ボティス、ロキ、朋樹、ジェイド、ベルゼブブ、ベリアル、ヘルメス、俺。 いい?」


みんな 異存ねーし、やっと決まって

「じゃあ、仕事着ある? 水着の子達も着替えよう」と ヴィシュヌが立つと

「シギュンは?」って、ロキが聞く。


「ここで待ってもいいけど、落ち着かないわね。

屋根だけじゃなくて、壁もあった方がいいわ」


ジャタ、優しいんじゃん。

壁...  普通の家ん中ってことかな?

ずっと海見てたら、寂しくなりそーだもんなぁ。


「城で待っているといい」


シェムハザが言うと、ミカエルが ゾイを喚んだ。

昼下りで、沙耶さんの店は 夕方の仕込みの時間だし、すぐに顕れたゾイは

「こんにちは... 」って 挨拶すると

まず ジャタを紹介されて、次に ロキとシギュンも

紹介された。


ミカエルが 紹介順を間違えなかったから

ジャタが 機嫌良く、ロキとシギュンの説明をして

「シギュンには、仕事が済むまで

シェムハザの城で ロキを待って欲しいんだ」って

ミカエルが言うと

「じゃあ、私と行きましょう」って

ゾイが シギュンを誘ってる。

ハティの顔が 優しいんだぜ。


戸惑ってる シギュンは、ロキが

「シェムハザと 一緒に帰る」と、約束すると

ロキの頬にキスをして、ジャタの頬にもキスをする。またジャタが 抱き締めてるけどー。


「ミカエルが、オージンに

“二人の身柄を預かる” と 言い渡す時は?」


ベリアルが気付いて聞くと、朋樹が

「もう 一体、人形ヒトガタを作ればいい」と

形代を出して、シギュンに血を付けてもらった。


アンバーが、ジェイドの腕から へろへろ飛んで

シギュンの胸に落ち着いた。

「“一緒に行く” って」と ジェイドが教えると

シギュンが笑って、ロキも嬉しそうだし。


なんかいいな って顔で、二人を見てるミカエルに

ほっぺた赤くした 緊張気味のゾイが

「あの、ミカエル...

エッグタルト作っておきますね... 」とか 言って

「うん!」と、満面の笑みにした。


ゾイとシギュン、アンバーが消えて

ヴィシュヌと師匠、水着だった泰河たちも

仕事着に着替えてくると

いよいよ、洞窟から 世界樹ユグドラシルへ向かう。


「時感覚は変えた方が良かろうの」


師匠が言って、空気が揺れた気がしたけど

何かは よく分かんねーし。


奈落の森の寝台の上には、白ワニのメノイが居て

「おりこうだったわ」と ジャタが撫でると

赤い眼を細めた。


「私は ここに居るけど... 」


ジャタも寝台に座ると、寝台の隣には

バロンが座った。


「俺等が戻るまで、ジャタと俺等との間の

伝令役をやるようだ」


師匠が教えると、ジャタは バロンのゴールド混じりの白く長い体毛に、両腕を差し入れて 頬ずりしまくってる。愛情表現すげー。


下界の川を越えると、ロキの顔に不安が映った。

ヘルメスが「怖い?」って聞いて、ロキの肩に

自分の腕を掛けると、トールの隣に連れて行く。


「久しぶりだな」


トールが「お前と歩くのも」と 言うと

ロキは落ち着いてきたっぽい。

世界樹ユグドラシル内を、どっちが どう回るか... って話をしてる。


妙な色の果実がなる 下界の森を進んで

ワニやヘビがいる 大樹のウロの場所に着いた。

樹皮がボコボコしてて、この木にだけ 実がない。

大きく広げてる枝には、黄色や黄緑、緑、深緑の

小さな葉がついてる。


「スマホは通じないけど、時間は見れるね」

「何も無くても、一時間毎に経過報告だな」


何かあったら、こっちからは ヘルメスを呼ぶし、

向こうからは 琉地を呼んでもらう。


「さて、榊とは 別個に神隠しを掛けるが... 」


洞窟の中までは 一緒だけど、そこからは

案内役のトールとロキが 別々になる。

ロキとは、ヘルメスや ボティスと榊も 一緒だし

大丈夫だとは思うけど。


月夜見と榊が それぞれ神隠しをかけると

同じ班のメンバーしか 認識出来なくなった。

同じ場所に居るのにさぁ。


『先に、榊班が 木のウロに入ってるみたいだな』


『なんで分かんだよ?』って 聞いたら

琉地が、こっちを向いて座ってる姿を指差す。

しばらくすると、琉地が立って 木のウロに向き

“ついて来い” みたいに、オレらを振り向いた。

なかなか出来るじゃん。


『トール、ウロ 通れるのかよ?』


先に通ったミカエルが、ウロの向こうから聞くと

トールは、ミョルニルを 木に投げ付ける。

ウロの穴の上を粉砕して、大きさを倍にした。


『危ないだろ?!』


『トール... 』

『派手にやらん方がいい。これからは術でやる』


ミカエルに怒られて、シェムハザとハティに たしなめられてるけどさぁ。


『しかし、優しくもあられ

偉丈夫な御仁ですね』


えー...  今、優しかったか... ?


『うむ。あれは、心根も良い男よ』


師匠も褒めてるけど、泰河は

『イジョーブ?』って 言ってるんだぜ。

オレも分かんねーけどー。


木のウロを通ると、でかい岩の上に縛り付けられた 人形ヒトガタのロキが居て、大蛇の毒腺から滴る毒を

人形ヒトガタのシギュンが 器で受けてる。


人形のロキの足元には、ジャタの蛇が居た。

もう 一匹は、洞窟の入口近くに居て

外を見張ってた。


ハティが、毒蛇に息を吹くと

閉じられている毒蛇の口が無くなった。

眼と、切られた毒腺だけがある。怖ぇし。

口が無くなったことに気付いた毒蛇が藻掻くと

また 息 吹いて、毒蛇を天井と一体化させてる。

 

『これは、ナリの腸だろう?』と

毒蛇に巻かれた鎖を外して、一度ヘルメスを呼ぶと、『ロキに』って 鎖を渡した。


『より 完璧にしておくか』


シェムハザが指を鳴らすと、毒蛇は 二秒くらい

停止した。

『“ロキとシギュンが洞窟を出た” という記憶と

口を失った記憶を削除した』らしい。

重ねて怖ぇしぃ。


人形ヒトガタのシギュンが、器の毒を捨てに行くと

人形ヒトガタのロキに 毒が滴る。

その恐怖に 虹色の眼を閉じて、顔を背けても

毒は 額や頬に落ちて、ロキが絶叫した。

毒が落ちたところから 煙が上り、ひどい痛みに

鎖の下で 身を捩る。


最終戦争ラグナロクまで、ずっとこの罰を受け続けるはずだった。精神も消耗し切るよな...

急いで戻ってきた 人形ヒトガタのシギュンが

人形ヒトガタのロキの顔の上で、器を持った。


『バルドルを死なせちまったりしてるけどさ

出れて良かったよな。

シギュンは、悪いことしてねぇんだし... 』


泰河と話しながら 洞窟を出ると

入口が 見晴らしのいい場所にあるのを知って

ちょっとビビった。荒野だ。

ぽつぽつと木は生えてるし、多少 草も生えてる。

でかい岩も多いけど、洞窟から出ても 隠れる場所がない。


入口の左側の地面に、黒ずんだ跡があって

湿ってるように見える。

シギュンが 蛇毒を捨てる場所だろう。

近くに生えている木には 葉がついてない。

オーディンの鴉が 枝に止まったところを想像したりする。


榊班から呼ばれたらしく、琉地が消える。

すぐに戻ると、“一時間後に”ってメモを咥えてた。

うん、連絡は 上手く着きそうだ。


『よし。ロキ達は、小人国スヴァルトアールヴヘイム近くから回るが

俺等は、巨人世界ヨトゥンヘイムの近くから回る』


トールが言うと、期待で “おお... ”ってなる。

山みてーなトールと 琉地を先頭にして

オレらも歩き出した。


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