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「見とくぜ?」って 言ったミカエルに任せて

ジェイドと ヴィラに戻る。


庭園からの通路を歩く間は、黙ってたのに

部屋ん中 入る前に

「ああやって、悲しんでる顔を見るよりは

かわいい顔を見る方が、まだ つらくないね」とか

言うから、もう さぁ... って 半ば呆れて

「バカじゃね?」だけ 返してやったんだけどー。

こいつ、ほんきで言ってるしぃ。


ヴィラのリビングでは、朋樹と四郎、シェムハザが、天空霊に持たせた青蛇卵を 透過スクリーンで見ながら

“きよくなれ” してみたり、大祓詞 読んでみたり

指 鳴らして、何か 術を掛けてみたりして

青から黒に... ターゲット指定していない状態に

戻そうとしてた。


榊は ソファーで、朱里ちゃんと くっついて座って

しょんぼりしたまま バロンクッキー 食ってて、

ボティスと泰河は、ベッドに胡座で 花札しながら

アジ=ダハーカと キュベレの話。

泰河が、スマホのメモに 文字入力して

ジェイドの話をしてる。


榊に話してないから ってことも あるんだろうけど

誰も ジェイドには、“大丈夫か?” とかって

聞かなかった。

ジェイドも、触れられたくねーっぽい。


二人で テラスんとこで、プールに向いて

レモンフレーバーのビール飲む。すげー 星空。

何も言わねーし、オレも黙ってるんだけどー。


「戻ったぞ」


ミカエルより先に、アコが戻ってきた。


「どうだ?」って ボティスが聞くと

白魔術ホワイトマジックを使う呪術医バリアン 見つけて、話はしたけど

“解けるかどうか 見てみないと分からない” って。

どっちにしろ、今日は もう遅いから

明日の朝になる」って、カウンターの冷蔵庫から

ビールを取った。


「ニナは まだ?」


「ミカエルが送って来る」


ボティスが答えると、アコは また

「見てくる」って ビール持ったまま消える。


「... 黒蛇に戻らねぇな。

バリアンが解除しねぇと 無理みたいだ」


朋樹が、テーブルのバロンクッキーを摘んで

「卵の中のナーガは、報酬の 卵の中身を食ってるからな。使命は全うするようになってる」って

ため息をついた。


「たぶん、バリアンが契約した蛇神の配下... っていうか、子供みてぇなもんだな。

ターゲットに術を運ぶ っていう 単純な動作しかしない。

使命を果たせば解放されて、蛇神の元に戻る」


「じゃあ、その蛇 どうするんだよ?

天空霊が解放したら、バリアンと居る女の人を

また噛むんだろ?」


山札から 札 取りながら、泰河が朋樹に聞くと

「天空霊が このまま消滅させることは出来る」と

シェムハザが答えた。


「そんなことして、大丈夫なのか?

親の蛇神が探しに来る とかさ」


心配そうに 泰河が聞くと

「蛇神が行くなら、呪術医ジゴロの所だろ」って

ボティスが 札を場に出して、山札を取る。

その札を 別の場の札に重ねて置くと

泰河が「あっ」つった。

たぶん、ボティスの役が揃ったか

欲しい札 取られたんだろーけど

泰河、ハッタリなってねーじゃん。


「ガルダでも、蛇は飲めるだろうが... 」って

シェムハザが言ってるけど

アジ=ダハーカのことや、入れ替わりの場所のことで 忙しい時に『蛇卵 飲んで欲しいんすけど』って

師匠を喚び出すのは、悪い気するよなぁ。

今、ヴィシュヌと 一緒に、アフラ=マズダー のとこに行ってもらってるし。

師匠に頼むのは、蛇神と揉めたりした時だな。


「いや。子蛇が戻らなくても

親の蛇神は、干渉して来ねぇと思うぜ」


前に 朋樹が、青蛇を式鬼で両断してからも

バリアンは 普通に蛇を使ってるし

オレらのとこにも 蛇神は来てねーもんなぁ。


「この蛇を解放した場合 を 考えると

呪術医ジゴロと居る女に 再び向かう、ということになるが... 」


シェムハザが言うと、何か言いかけた四郎が

口をつぐんだ。


白魔術ホワイトマジックのバリアンが ニナに掛かった術を解けなかった場合、ニナには、あのジゴロバリアンに

また術を掛けさせることになる... って

今、全員 考えてると思う。


「やってみりゃいいだろ?」


ボティスが軽く言ってるし。


「二重に術が掛かったら どうなるのかも分かる。

ヤバけりゃ 呪術医本人が術を解くだろ。

解き方も見れるしな」


「危なくないか?」


おっ、ジェイドだ。


「あの女の人も 被害者だろう?」って

リビングの方に向いて言うと、榊も

「一度の呪詛で、あのように 盲目的な情を抱く。

再び など... 」って 心配そうに言ってる。

どうしたらいいか分からない朱里ちゃんは

もそもそ バロンクッキー食ってるけど。


「だが、あの女に 二重に掛かれば

呪詛医ジゴロが 術を解く可能性が出てくるが

このままだと、騙され続けるだろ?」


泰河に取られた札に、つり上がった眉をしかめる

ボティスが、ジェイドと榊に返して

「かと言って、あの呪術医バリアンが ジゴロでなくなる訳ではないだろうが、あの女性は財産を失わずに済み、ニナの術を解く 手がかりにも繋がる」って

シェムハザも言うし。


「いつやる?」


朋樹なんだぜ。


「朝になりゃ、食事に出てくるだろ?」

「アコが 白魔術ホワイトマジック呪術医バリアンを連れて来てからの方が いいだろうな」


話が決まっちまった所で、ミカエルとアコが戻ってきて

「ニナは、全然 動かなかったから

もう 俺が登場したぞ」って、アコがソファー、

ミカエルが、オレらのところに来た。


ニナは 泣き止んでも、蓮池の畔から動かず

何も考えられない って顔で、蓮に眼を向けてたらしい。実際は、蓮も見てなかったんだろうけど。


ミカエルとアコは、“ここに居たって良くない” と

判断して、目眩めくらましを解いたアコが 登場。


『ニナじゃないか。遊びに来たのか?

俺を喚べば、迎えに行ったのに。

でも みんな、仕事で出てる。

しばらくヴィラには戻って来ないんだ。

泰河が 仕事道具を忘れたから、取りに来た』


上手いよなぁ。

こう言っとけば、ニナは 自分が見られたって思わねーし、ヴィラのカフェにも来やすいし。


アコの顔を見て 気が抜けたのか

ニナは、また泣いちまった っていう。


『どうした?』って 聞いても

何も答えられねーし、見えないミカエルが

ニナの背中に手を当てて 癒やす。


落ち着いてきた ニナに

『今日は もう遅い。明日の朝、飯を食おう。

迎えに行く』って、ホテルの部屋まで送って

『それまで部屋を出ないこと』と めいじて

ミカエルと戻って来た。


「今夜は、そう 痛まないと思うぜ?」


朋樹が渡しに来たレモンフレーバーのビールを受け取って、飲みながら ミカエルが言う。

ミカエルが癒やして来てるんだもんなぁ。

ジェイドが 少し安心したように頷いてる。


けど ミカエルは、ジェイドも心配してるっぽい。

プールの方 見てるジェイドを、癒やそうか どうしようか迷って

何故か「ファシエル」って、ゾイを喚んだ。


「こんばんは... 」


いつもと同じに、はにかみながら

薄いピンクの地にミカエルの絵画プリントのシャツ、膝丈のチャコールグレーのパンツに、

赤のビーチサンダルのゾイが テラスに立つ。

でかいクーラーボックスを 肩から斜めに提げてるし。

鎖骨に届く黒髪は、毛先が緩くカールしてて

沙耶さんの仕業らしかった。


「ゾイ!」「ゾイちゃーん」って

榊や朱里ちゃんが ソファーを立って歓迎して

四郎も「唐揚げが嬉しかったのです」って

笑顔で お礼言ってる。


「うん、また作って 差し入れするね」って 返事したゾイは、オレらの「よう」「久しぶり」にも

「うん、久しぶりだね」って 返して

ミカエルに「九龍球クーロンキュウを持って来ました... 」って

報告すると、更に笑顔になったミカエルと

カウンターへ 九龍球を注ぎ分けに行った。


「朝、アコが 呪術医バリアンを連れて来たら... 」


シェムハザも手伝いに行って、さっき話してた

青蛇に 二重に術を掛けさせる話しをしてる。


ミカエルは、やっぱり「大丈夫なのかよ?」って

心配してるけど、被害者の女の人が 強請たかられることと、ニナのことを考えて

「... うーん、生命に危険は無さそうな呪詛だけど

被害者のイシャーの呪詛を 呪術医バリアンが解くまでは

俺等も監視するぜ?」って、渋々 了承した。


「はい、ルカ。ジェイド」


ゾイに渡された、透明のまん丸ゼリーに 一口大のフルーツが入った 九龍球入りグラスは

オレンジのクラッシュアイスに 炭酸が注いであって、赤いストローと ロングスプーン付き。

「ありがとう」って 受け取ったけど

アルコールの匂いする。


「今日は、オレンジジュースの氷と

シャンパンだよ」


「えっ、大人のやつじゃん」


「うん。本当は、グレープフルーツジュースを

持って来てたんだけど、シャンパンは 今

シェムハザが 取り寄せてくれて。

グレープフルーツジュースは、朝 飲んでね」


ゾイは、そう言った後に

「恋した って、聞いて」と、小声で言った。

ジェイドが グラスから顔を上げると

「あの、ジェイド。後で 私と、散歩をするのって

どうかな?」って、遠慮がちに誘ってみてる。


「その... 今の状況も 聞いたけど

“ジェイドが 誰かを”... って 思うと、嬉しくて... 」


自分とゾイの 九龍球入りカクテルを持って来た

ミカエルに、ジェイドが 薄いブラウンの眼を移すと、「いいぜ」って 言ってる。

「手とか 繋いだりしないなら」って 付け加えて

キウイのゼリー 食ってるけど。


「うん。僕は、“そういうことがあったら

君に 打ち明ける”... って 話したね」


ゾイに微笑うジェイドは、なんていうか

少し ラクになったように見えた。

たまに 二人で、聖書の話とかしてるもんなぁ。


「うん」って、ゾイも嬉しそうに微笑うと

ミカエルが、“あっ” って 顔する。


けど ミカエルは、自分で ゾイ喚んで

たぶん、“ジェイドと ニナのこと話す?” とかって

勧めてるハズなんだよなぁ。

そうじゃなかったら、ゾイは ミカエルの前で

自分から ジェイドを誘ったりしねーし。

まぁ、かわいーんだけどさぁ。


困っちまって、「あの、ミカエル... 」って

何か言おうとした ゾイは

「ゾイ、バロンクッキーなど」

「いっぱい買ったよー」って、榊と朱里ちゃんに呼ばれて、ジェイドが ちょっと笑っちまいながら

「すぐに戻るよ」って ミカエルに気ぃ使う。


「うん。お前等は、ファシエルと友だから

ゆっくり話したって いいけど... 」って

自分の発言に葛藤しながら 頷いたミカエルは、

「もう少し飲んで、ハナフダする!」って

カウンターに シャンパン注ぎに行って

「泰河、俺も バラキエルとハナフダするから

代われよ!」って、泰河をベッドから下ろした。







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