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両性具有なのかよ...


『下界の川じゃなくて、上界の山に居る時は

男型の姿になるらしいんだ。顔付きとか 胸とか。

でも その時も、戸口はある』


説明してるアコ 振り向いてみたら

四郎が 俯いてるのも見えた。節制かぁ。


アコは『綺麗だな』つってるけど

ジャタは 身体ん中... っていうか、下腹の中の色が

ゴールドらしく、内側から輝いてる。

きれいだけどさぁ...

なんかもう そーいうんじゃねーだろ、これ。


「一度も寝てないわ」


「うん、寝ないぜ?

何が産まれるか 分からないだろ?

天も禁じてるし

上界だって、異教神とは禁じてるだろ?」


「ミカエル... 」


ジャタは、赤い眼を自分の美乳に向けて 拗ねてるけど、ミカエルに会う度 誘ってそうだよな...


「だけど地上は、完成と終焉に向かっているわ。

分かってるでしょう? そういうかぜよ。

あなたなら、私と

救いの子達を産めるんじゃないかしら?」


神の会話って、トコロドコロ よく分からねー。


「俺は 御使みつかいなんだ。神じゃない。

ジャタとの結び付きには 適さないし、

妻にしたいひとがいる」


妻 って聞いて、ジャタは拗ねた顔 上げてるけど

蛇も上がりっぱなしなんだぜ。


「どこの神なの? 女神?」


「同じ御使い」


つまんなそーな顔になって

立てた膝に 肘ついて、頬杖ついてる。


「あなたは、美しいのに」


救いの子達 とか言ってたけど、この人 たぶん

ミカエルと寝てみてーだけ なんだろーな。

頬杖じゃない方の手の指で、さり気なく 戸口 開いてみせて、ミカエルが「ジャタ」って

つるぎ 持ってるアピールしてる。眩しいしさぁ。

尻目チックじゃね?


「ジャタが流した女を探してるんだ。

良くないものだから、天で眠らせる。

川は、上界にも下界にも繋がるのか?」


「どちらの可能性もあるのよ。

良くないものに相応しい方へ流れていくわ。

だけど、こんな風に 界が入れ替わってたら

他神界かもしれないわね。

下界の川は、この島の森が 一部分断してしまって。川は 森を囲むように 二手に分かれて、

また 一つになって 流れているけど」


下界の川には、そう 支障なさそうだよなぁ。

戸口開いてた指で、蛇 なぞり出してんのが 気になっちまうけどー。宇宙樹かぁ...


『つまり、ジャタにも “分からない” ってことか?』

『そう言ってるね。探し直しってことだろう』

『まぁ、奈落の森に 何が居たかは

これで 分かったけどさ』


ジャタの指は無視することにしたらしい 朋樹たちが、“じゃあもう ここは良くね?” って風に話してる。早く離れてーよなぁ。

四郎も居るし、正しい姿勢なんだけど

イカンセン オレは、距離 近過ぎるんだぜ。

何かしらの心傷トラウマに なりそーな気もするしよー。


「その寝台は、こちらが 引き取ろう」


シェムハザが言うと

「あなた達じゃ きっと、良くないものに取られるわよ?」って、白い美人顔を向ける。


「良くないものは、この寝台を 利用しているようだったから、私が取り上げたの。

私か メノイが護ってる限り、良くないものは

寝台を使えないし、寝台も 元の姿に戻れないわ」


メノイ って、アルピノワニか。

名前 呼ばれて、寝台の前に居るワニが

ジャタに 長い顔を上げたし。

ジャタかメノイが、寝台を押えている限り

キュベレは 寝台の天使が使えねーし、

地上や他界の入れ替わりも 起こらないっぽい。


「何故、良くないものや 寝台に触れられる?」


ボティスが聞いたら

「私は あなた達のように、対が必要なものではないからよ。“在るもの” なの。ここでは “ジャタ”。

どことでも繋がっているわ」って

また分からねー 答え。


『宇宙樹だもんな』

宇宙根源原理ブラフマンとか大日如来?』


「近いわね」


あれ? 朋樹と泰河に答えたんだぜ...


「見えるのか?」って ミカエルが聞いたら

「声は聞こえるわ。言葉と気息だもの。霊がある。何かが隠してるわね」って 返して

「あなた、私に興味があるの?」って

オレの方に 赤い眼を向けた。

やべ... さっき、凝視しちまってたし。


「いや、こいつは 俺が好きなんだ。

手も繋いでるだろ?」


「見えないわ。見られてる気がしただけ」


榊が オレの神隠し解いたし。

おう、ジャタと しっかり眼が合う。

余計なこと すんなよー...


「あら? コヨーテだと思ったのに」


たぶん、琉地のことだ。


「他の精にも 気に入られてるわね?

あなたが、他の個人我アートマンも 知っているからよ」


アートマン... 個人の意識だ。

他人の思念が わかるからかな?


「つまり それは、私を知っているのと

同じ事にもなるわ」


個であるアートマン... 霊と、宇宙根源のブラフマンは 同一

だとか いうもんなぁ。

仏教は、個って執着もないところの “無我” だけど。

これって、“同一” とも “空” とも近い気ぃする。


「あなた、男性型が好きなの?

もっと 私を知る気は?」


「おおう?!」


「ジャタ。こいつは人間だ。信徒だし、

上界だけでなく、天の法でも裁かれるぜ?

だいたい、俺の加護もあるし

ハティ... ハーゲンティの印章も付いてるだろ?」


「そうね。それだけの価値はあるし。おもしろそう。先に出会うべきだったのよ、私と。

ハーゲンティとも しばらく会ってないわ。

彼と会話を持つのは 楽しいのに」


「ジャタ、頻繁に 地上に降りてるのか?」


「全然」


話になってるようで、なってねー気もするし

オレ、このまま黙っとこー。


「ここで 他に、何か変わったことは?」


シェムハザに 視線を移したジェタは

「一度、ランダとバロンを見たわ。

私を見て ランダが逃げたから、バロンも 一緒に

すぐに消えちゃったけど」って 答えて

「あなた、ずいぶん美しいわね。

良くないものじゃなければ 良かったのに」って

残念そーにしてる。悪魔とは 寝れねーっぽいんだぜ。赤い眼は ボティスに動く。


「あなたは? セクシーだわ」


「バラキエルも人間。信徒。妻が居る。

しばらく、ここに居るのか?」


そろそろ話を締める雰囲気で ミカエルが聞くと

「ええ。寝台が気に入っているし

下界の川は 放っておけないわね。

地上に関しては、あなた達に任せるけれど」って

やっと胡座の体勢に戻った。ホッとしたぜー。


オレの視線 辿って「見たい?」って 聞くから

「んん?!... いや もう充分っす!」って 返して

拗ねた顔される。


「美しかった」「そうだ、世界を見た」って言う

シェムハザとボティスに続いて

「きれーでした!」つって 事なきを得たけど。

大変な人 多いよな、もう...


「うん。じゃあ 俺等は、良くないものを探しに行くけど、もし 何かあったら... 」


「あなたが聞きに来るといいわ。定期的に」


うーん... って、困った風のミカエルは

「俺も来るけど、良くないものが見つかるまでは

忙しいんだ」って 言って

「協力して貰えれば、早く済むかもしれんが... 」

「その折には、良いワインを持たせよう」って

ボティスとシェムハザも ソフトに頼んでる。

“ここでは ジャタ” つってたし、大物っぽいもんなー。


「それなら、何かあったら

メノイに 伝言させるわ。

ああ、だけど ランダは きっと、良くないものに

惹かれているわよ。

ランダだけとも 限らないけど」


「バロンから逃げているだけではない と?」


「そうね。探して移動すると、察知したバロンが追って来るのね。気にした方がいいわ」


“気にした方が... ” って、ミカエル見つめながら

また 膝立て出したし

「うん、わかった」「助かったっす!」って

奈落の森と下界の川を 後にした。




********




「疲れたよな... 」


「だいぶな... 」


無人島のテントで着替えると、待っててもらった船で、トゥアルの 真っ白い砂浜に戻って

軽く ジャタショックを癒やしてから

セスナ機で 真っ直ぐバリ島に戻った。

今は、ヴィラに戻るバンの中。もう夜だし。

あちこちに供えてあったチャナンを、掃除の人が片付けてる。


「腹 減ってるだろ? どこかに寄って食う?」


運転しながら、アコが聞いてくれる。

うーん、もう ゆっくりしたいよなぁ... って

思ってたけど、榊と四郎の腹が鳴った。


「もう、ウブド地区には入ってる。

適当に寄るか」


モンキーフォレスト、野生猿保護区にある寺院の近く。ならもう、ヴィラにも遠くないし

駐車場があるカフェレストランに寄った。


「おっ、庭園あるじゃん」


ベージュタイルの壁と床に、オールドローズの色の部分もある。小綺麗な店内。

天井は細い木を組んであって、壁 一面が無く

そのまま庭園。たくさんの植物と小さい川。


二人用のテーブル席もあれば、団体用の席もあるし、庭園に降りた通路の先には、東屋の座敷席もある。


「座敷席は、空いて無かった」


アコが 残念そうに言うけど

「庭園の近く、空いてるぜ」

「そこにしようぜ。団体席だしさぁ」って 座って

榊に 人避けしてもらった。

目眩まししなければ、ミカエルとアコ、シェムハザは認識されるけど、オレら 認識されねーし

三人で 団体席取ってるように見えちまうし。


「ナシ チャンプルって?」

「ご飯と 一緒に、欲しいオカズを何品か 皿に持ってもらえる」

「おっ、それ いいじゃねぇか」


「ピッツァもある。観光客向けだね」

「じゃあ、ナシ チャンプルと ピッツァ。

後は 適当に取ろう」


で、注文も アコ任せになるんだけど

「オカズ、他には?」って、イヤな顔せず

一人分ずつ聞いて 頼んでくれるんだぜ。


「アコ、有難う御座います」

「ふむ。アコは 大変に気が利くのよ。

里や六山でも、皆 頼りにしておる」


アコも嬉しそうだけど、ボティスも誉める顔してるし。オレらも ワイン係くらい、頑張らねーとだよなぁ。


レモンフレーバーのビール飲んで、ふう って

息をつく。

先にきた サテ摘んでたら、あんまり空いてねーって思ってたのに、空腹感 出てきたし。


「ジャタが居たこととか、ランダのことは

ハティや師匠たちに 話さなくていいのか?」


ジェイドが聞くと、ボティスとシェムハザが

「そうだな」「話しておくか」って

ハティとヴィシュヌ、師匠を喚んでみてる。

二人とも 平気そうだったけど、やっぱ ジャタで

疲れてたっぽい。


ハティは すぐに顕れて、朋樹 退かして

四郎の隣に座ったけど、ヴィシュヌは来ずに

師匠が「何だ? まだランダを追っている」って

珍しく不機嫌に顕れた。

ヴィシュヌは、今も 一人で追っているらしい。


アコが ビール取って来て

泰河が持って来た椅子に 座った師匠に

「奈落の森に 下界の川も流れ、ジャタがいた。

キュベレを “川に流した” と」って

シェムハザが 手短に話したら、二人とも無言に

なっちまってるし。


運ばれてきた ナシ チャンプルの飯に

スパイシーな 豚の炒めもの載せて食ってみてる

ミカエルに、「大丈夫だったのか?」って

師匠が聞く。


「うん。断った」


ミカエル狙いは有名なのか... って 思ってたら

別に、ジャタに限った話じゃないらしく

あっちこっちから狙われてるみたいだ。


皇帝ルシファー並みだ」って ハティまで言う。


「うん。天の軍みてるから。

だいたいの奴は、それを知ってるし」


ミカエルは、自分の立ち位置の問題 だと思ってるけど、違うと思うんだぜ。キュートだもんなぁ。


「ゾイが 逆恨みでもされると困る」

「分かっているな?」


何故か 師匠にまで詰められて

「おお? はい... 」って 言っといたけど

誤魔化すのは、地上女子だけじゃねーってこと?


ううーん... って なってる内に

オレの ナシ チャンプルもきて、美味いんだけど

辛いオカズ多いし、ロントンも食う。


「寝台になった天使は、ジャタが押えているんだな?」

「ランダは、キュベレを感知して移動しているのか? それなら、自分が落ち着ける先まで 移動し続けていることになる」


「ランダは、何故 キュベレを?」


「引っ張られておるのだろ。

善悪のバランスの為におるのだ。

自ら、騒ぎを起こそうとは考えんからな」


「他の魔の者等の動きも、監視することとなるな」


「その方が早いんじゃないか?

そいつ等が移動する どこかに、キュベレは居る」


「しかし、“監視する者等” にも

注意が 必要となる」

「アバドンや上級天使が使われていたくらいだからな」


ミイラ取りがミイラに... 的なやつかぁ。

天使も悪魔も って、厄介だよなぁ。


「異教神であれば、まだ... 」

「ジャタは、キュベレに触れて 流せた」


視線は、師匠に集まってるけど

「俺ひとりでは、何とも言えん。

北欧やギリシャ、エジプトやケルトの神々などには、どう話をする? ルシファー無しだぞ?

ましてや アステカなど... 」って サテ食ってる。


「俺も全部は無理だぜ。“ミカエルが来た” って

天に 噂も届くし。サンダルフォンが知るところになるからな。ギリシャやエジプトなら

ベルゼが話せるんじゃないのか?」


「ヴィシュヌは?」


「ミカエルや聖子と同様に考えるが良い」


存在、でかいと大変だよなぁ。


「各神話の預言者などに 伝えるのは

如何でしょう?」


おっ、四郎じゃん。


「例えば、バリ ヒンドゥーであれば

バリアンの方に、幻視などで

キュベレの存在を お伝え致します。

不穏なものを感じられたら、御自身の神に祈られるのではないでしょうか?

そうしますと、各神話の神々とも

相談しやすくなるのでは ないでしょうか?」


「そうだな... 」


「だが、皇帝の耳に入ると困る。

魔神等には 伝えられんが、他神界の門を叩く前に

注視すべきものとして、人間に キュベレの事を伝えるか... 」


話が纏まってきて

「今夜より、幻視や夢で 不安を与える」って

ことになって、師匠は

「それは、そちら側で頼む。

ヒンドゥー側には、こちらで話しておくが

まず、ヴィシュヌに話さねば。

シロウ、サングラスは今、ヴィシュヌが掛けている」って 慌ただしく消えた。


「ベルゼや ベリアルに話すか... 」


ハティ、疲れてるよなぁ。


「ヴィラに喚んで話すのは どうだ?」

「入れ替わり場所に、監視は付けているのだろう?」


「報告を含め、交代させているが

一向に キュベレの話は聞かん」


幻惑されてる状態のウエイターが、空いた皿 下げてくれて、他のウエイターが デザートとコーヒーを運んでくれた。


「おお、クロポンです」「ふむ。乙な味よ」って

四郎と榊に勧められて、ハティも食ってみてる。


師匠が座ってた椅子を、隣のテーブルに戻そうと

泰河が立って「あれ?」って言った。

視線の方向には、スーツケースを引く ニナがいた。

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