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「ニナ!」


赤地に花柄ドレスの榊が、きらきらした顔で

ボティスの隣を 立って呼んだ。

ニナは、キョロキョロ そわそわしてるけど

榊の方は見ねーし。


「むう... 」「あれ... ?」

「いや、海の洞窟から、ゴア ガシャに出たんじゃない。飛行機に乗って来たんだ」


... それさぁ


泰河や朋樹と 眼が合う。

あのバリアンと、話すため ってことかよ?


「アコとシェムハザは、気付かれてねーの?」


「今、目眩めくらましした」

「ニナは、知られたくなさそうじゃないか?」


「ミカエルは?」


ん? って、ツラしたミカエルを見て

榊が 神隠しを掛けた。


「なんでだよ? 普通に話し掛けたらいいだろ?

俺等が バリに居るって、知ってて来てるのに」


「だが、誰にも 連絡は来てないんだろ?」


ボティスが言って、スマホチェックする。

トゥアルに入ってからは、通信 繋がってなかったし。


「... 無いな」って ジェイドが言うし

オレにも 入って無い。


朋樹には、シイナから メッセージが入ってた。

“ニナ、店 休んでるんだよね” って。

こっちから 連絡してみても、シイナが仕事中で

返事が無かった。


カフェのメニューは、英語でも書いてあったし

ニナは 遠慮がちに、メニューを指差して

何か注文してる。


「遺跡の洞窟から、一度 連れて来たんだが... 」


ボティスが、ハティに説明してる。


「... 呪術医バリアン? ヴィシュヌ等は?」


「話してみたが、黒魔術ブラックマジックとも言い切れんようだ。

その呪術医バリアンに解かせるのが良いようだが

呪術医バリアン本人に、掛けた意識が無い」


コーヒーカップを持ったまま 消えたハティが

ニナの向かいに 出現する。

いや 赤肌で目立つし、目眩まししてるけどさぁ。


ハティに観察されてる ニナは、スマホで何か調べてる。はぁ... って、ぽけっとした顔で ため息ついてるし。どう見ても コイしてる顔。


「術なのかもしれないけど、かわいいね」


アイスコーヒー 飲みながら、ジェイドが言うのを

無視してやったら

「うん、そうだな」って ミカエルが答えてる。


るなよなー... って、隣 見たら

なんか 感情掴めねー ツラしてて

やたら、男っぽい気はした。


「しかし、偽であろう? 嘘っぱちよ」


榊は、ふんふんしてるし

「心を操るなど、感心出来た事では御座いませんね。ニナさんは 狙われた訳でなく、事故に遭われた様なものですし」って、四郎も 厳しい顔してる。


「でも、勘違いから始まる恋もあるだろう?

本当に 術だけで、こんなに積極的になるかな?

あのバリアンに、奥さんが居ることは

ニナは 分かってる。もし、あのバリアンの方も

金銭目当てじゃなく、ニナを かわいいと思ったら... 」


「姦淫の相手を勧めるとは、神父の言葉でも無いが」


「そうだな。いいんじゃねぇの?

別に、ツレのオレらには 関係ねぇし。

けどオレ、ニナが 聞いて欲しがっても

あのバリアンの話は聞かんぜ」


シェムハザが やんわり言った後に、朋樹が

ジェイドに向けて、“もう喋んな” って 感じで言う。


「オレは良くねぇけど。ジェイドは、何でさ

ニナが ジゴロの術に掛けられたのに

応援する... みたくなるんだよ?

勘違いじゃなくて、騙されてんだろ。

しかも、狙われてもねぇんだぜ。

あのバリアンが、マジでジゴロなら

ニナは 相手にしねぇよ。

高々 ボンデージバーの店員だ。

他の金ある女 騙すのに、邪魔になるじゃねぇか。

一夫多妻の国でも、第二夫人なんか持たねぇよ。

多分、第一夫人もいない。

ライバル心 いだかせて、必死にさせてぇだけだ」


泰河が言ったら、ジェイドは

「そこまで考えて言った訳じゃないんだ。

ただ、かわいかったから... 」って 答えてるけど

「ならさぁ、バリアンが ニナの存在を知れば

術 解くんじゃねーの?

自分が掛けた術くらい分かるだろうしさぁ」って

言ってみる。


「預金などをムシられた後じゃなきゃあいいがな」

「振り向いてもらう為に、必死になっちまう女もいる。いっぱい見てきた」って

ボティスとアコから 返ってくる。

そんなとこ 見たくねーし。


「ニナ本人の立場であれば、術中にはまっておる間は、まだ良かろうの。

理由もなく 只々 惹かれ、相手に好かれようと

必死になろう。

如何いかに好いておろうと、金銭など出さぬ者もおろうが、ニナは 術に掛かっておるから 出すのであろうよ。

それでも まだ、自身が満足するならば良い。

だが、術が解けた後は どうであろ?

“何をしておったのだ” と、自己への落胆は 如何程であろうか」


榊が しょんぼりして言った後

ボティス達は 黙って、ジェイドの様子をみてるような気がしたけど、何も言わねーし。

こいつ、マジで ニナに、何の気もねーのかな?

だったら しょーがねーんだけど

なんか逆に、距離置いてる気は するんだよなぁ。


呪術医バリアンかたを探し、“術を解いて頂きたい” と

直談判 致します。

姉様方も、私の友で御座いますので。

ヴィシュヌに術を解いて頂ければ、認識されましょう」


四郎は、宣言した後に

「これだけ 大人の方々がられて

何と 情けない事です」って 煽ってきたんだぜ。


ボティスとアコ、シェムハザとミカエルも

“おっ” て 楽しそうなツラになったし

榊も「ふむ、大変に男らしゅうある!

流石は 天草 四郎時貞よ!」って

切れ長の眼ぇ キラキラさせてる。


「四郎じゃ 相手にナメられるぜ。

見た目で、まだ学生だ って分かるからな。

オレが話す。英語なら いけるしよ」


もう、ジェイドは 放っておいて

朋樹が乗る。


「うん、バリアン探そうぜ」って 言ったら

「おう。“オレ” は、ニナ 助けたいしさ」って

オレ強調して 泰河が答えた。


空のカップ持って、ハティが戻って来た。

ニナの方 見たら、ケーキ もそもそ食いながら

夢見る顔で、まだ ぽけ っとしてるし

「なんか 腹立つんだけどー」

「分かる。ジェラシーに似てるよな」って

朋樹と言い合う。


「お前達が宿泊している、ヴィラの近くの

ホテルの部屋を取っていた。

その周辺で 宛なく、相手の呪術医バリアンに会えるのを

待つつもりのようだな」


いじらしいじゃねーかよ... 切ないんだぜ。


「宿泊先も予約せずに、こっちに来たのか?」


ジェイドが 驚いた顔になると、シェムハザが

「そういったものだろう? 突き動かされる」って

指を鳴らして、幻惑したウエイター 呼んで

コーヒー の お代わり頼んでる。


「もし ニナが、そいつの事で傷付いたら

俺が癒やす」


おう? ミカエルだ。


「ファシエルには、ちゃんと訳を話す。

傷が 良くなるまで 傍に居る。

ニナは、奈落... 天の事にも関わっただ」


朋樹とハティに言ってるし。


「そうか。そういう理由なら

ゾイも了承するだろうな。優しいから」


朋樹が 理解を示して、ハティは

「その際は 聖子に、ニナの胎を閉じるよう

伝えておくが良い」とか 言った。


「そうだな」

「娶らねば、罪にはならん。

妻に取りたい という、自身の欲ではなく

相手を慰め癒やすことが 目的となるからな」


ボティスも 呆気なく頷いて

シェムハザは、無茶言ってる気ぃする。

上手く言い訳付けれた って顔してるけどさぁ。


「そのような... 」


榊は 納得いってねーけど、四郎は黙ってるし。

「そういうやり方しかない時もあるんだ。

特にニナは、自分が男だったことも まだ気にしてるから」って

アコが 瞼を臥せて、コーヒー飲んでる。


「ならば、アコでも... 女子おなごは 得意であろうよ。

特別な相手なども おらぬし」


「俺は、友とは寝ない。寝たら それきりだから。

癒やすんなら、天使ミカエルの方がいいし。

だいたい 俺は、話集めがしたいんだぞ」


「だが ミカエルも、“必要ならば” ということだ」


わざとらしくならねーように か、ハティが

ワンクッション入れたけど

「うん... 」って答えてる ミカエルは

コーヒーカップの中の コーヒー見つめてる。


ミカエル、実際は そんな気ねーな...

ジェイドが何も言わねーし、ハティまで 止めずに乗ってきたから、軽く困ってやがるんだぜ。

でもオレらは、“なり切れないミカエル” が 好きだし、泰河も朋樹も、四郎まで 優しいツラになった。


勢い無くした ミカエルを見て

ボティスがテーブルの下から オレの脚 蹴るし

「けど 正直さぁ、役得だよなぁ、ミカエル。

ニナ かわいいしぃ」って クロポン食って

ニナの方に眼をやる。


「... おう! だよな。

朱里シュリと 付き合ってなかったら、オレが その役

やりたかったぜ!

本気で惚れちまったかもしれんけどさ」


泰河も蹴られたか。

朋樹は、相手がヒスイだから 無理だもんな。

もうちょい いっとくかな...


「まぁ何? 付き合ってても、別にさぁ

“これは これ” だろ。

あんなかわいいコと、やれたら得だし。

リラ子には 言うなよー」


「のっ」って 言う榊に

「ああ... 男はさ、女のコ程 “心で”... って訳でもねぇからさ。いや もちろん、心なんだぜ?

でも、ホルモンバランスの関係とか いろいろあるしよ。そういうのだと、まず視覚 大事」って

朋樹が説明して、榊に見られる前に

「人間ならな」って ボティスが言う。


「寝たからって、のめり込むとかねーしさぁ」


「俺は、そういうやつじゃないぜ?」


ミカエルが反論しよーとすんのを

「うん、分かってるって!

単純に ニナが かわいいから うらやましいだけ

だからさぁ」

「おう。けど、同じように思うヤツ多いだろ。

“あの子と寝た” って言ったらさ」って

泰河と ヘラヘラして、朋樹にも

「なぁ?」って 投げてみる。


「人間は... 」「まったく」って

ボティスとシェムハザが

しょーがねーなぁ... って 空気出して、朋樹は

「いや、そりゃあな。

“えっ、おまえ マジかよ”... くらいは

思うよな?」って、ジェイドにパスした。


「まあ、そうだね」


なんだ それ... 無難な返事じゃね? 妬いてねーし。

もー、読んでやろかな って思ったのに

読めねーし!

けど 閉じてるんじゃなくて、無だ。

マジかぁ...


こうなると オレ、急速に やる気無くすんだよなぁ。煽ってもムダだしさぁ。気持ちはなぁ...


黙っちまったオレに

「ニナ、ストーキングしねぇとな」って

朋樹が言う。


「真面目な話、女の子 一人で海外って

あぶねぇだろ?

この辺りは、比較的 安全だけど」


「うん、そーだな」


オレの返事 聞いた泰河が

「オレら、暇だしさ。ミカエルか誰か居てくれれば、タクシーで追跡も出来るし」って

急ぎ目で言う。


「それでは、私は 呪術医バリアンを探します」


四郎も ピシっとして言ったら

「呪術医は、探せば 簡単に見つかりはする。

ニナの見張りも、軍の者が出来る」って

ボティスが いつもの感じに持っていく。


「でも、何かしてぇじゃねぇかよ。心配だし

術に掛かって こんなとこまで来ちまって。

仕事も休んで、一人で... ってさ」


オレも それは思う。

ヴィラに居ても、モヤモヤすると思うしよー。


「いや、とにかく今日は ヴィラに戻れ。

疲れているからな」

「見張りは、オレがやるから」


シェムハザとアコ。

ジェイドも、心配ではあるだろうし

モヤモヤ させてみんのかな?


「むっ、ニナが立った」


人化け解いた 榊が、テーブルを飛び越えて

ニナの後を追う。話、聞いてなかったな...


「まったく」って ボティスとアコも立って

店の入口の方へ、ニナと榊を追って行った。


「ハティ、ベルゼたちには ヴィラで話すか?」

「うん。その方が、俺も 参加出来る」


シェムハザとミカエルに頷いた ハティは

「プルメリアの花飾りを?」って

オレらに向かって聞きながら、椅子を立つ。


「ああ、僕が ニナの髪に付けたけど... 」


「スマートフォンの待ち受け画面にしている。

それを見る時だけ 少し、術の効果が薄まっていた。花が 癒しとなっているだけかもしれんが... 」


ハティは、それだけ言って

「先に ヴィラに居る」って 消えた。


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