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聖霊... 導きや働きのこと。


マタイの 12章31節と32節や

マルコの 3章28章から30章を思い出す。

どっちも、“イエスは 悪霊の力を使って

人を癒やしてるんじゃないか?” って 疑われた

ベルゼブル論争の後。


... “だから、あなたがたに言っておく。

人には、その犯す すべての罪も神を汚す言葉も、ゆるされる。

しかし、聖霊を汚す言葉は、ゆるされることはない。

また 人の子に対して言い逆らう者は、ゆるされるであろう。

しかし、聖霊に対して言い逆らう者は、

この世でも、きたるべき世でも、ゆるされることはない”...


... “よく言い聞かせておくが、人の子らには、

その犯す すべての罪も神をけがす言葉も、

ゆるされる。

しかし、聖霊をけがす者は、いつまでも ゆるされず、永遠の罪に定められる。

そう言われたのは、彼らが『イエスは けがれた霊につかれている』と 言っていたからである”...


犯す罪も、聖父や聖子を悪く言うことも

ゆるされるのに、

聖霊を汚すことだけは ゆるされない。


聖霊は、内側にも外側にもある

神... 聖父との繋がり だからだろうと思う。

天への導きや働き。救いに導く 神聖なもの。


「でも、獣は 天のものじゃないんだろ?」


「“類する” って言っただろ?

聖霊とは言っていない。他には 何がある?」


ミカエルとボティスの話が、オレには

よく見えないんだぜ。“他に”?


「聖霊に相反するものであれば、悪霊や 堕落への誘惑となるが、エネルギーなどは?」って

皇帝が言って

あっ、そーいうやつかぁ... って 思ったけど

だからって 何も思い付かねーし。


「作用?」「時空?」


「何か違わないか? ズレてきてるだろ」


朋樹とジェイドが言って、アコに返されてるけど、違いすら 全然分かんねー。

オレと泰河は、呆ける時間じかーん

出た結論だけ 説明して欲しいんだぜ。


「意志を持つエネルギーであれば、あにまや精霊... ?

また違いましょうか?」


「アグニは?」


ボティスが言うと、皇帝が ボティスに向いて

「あっ! 近いかもな!」って

ベッドに胡座のミカエルも でかい声出すけど

「何だっけ それ」って 言ってやった。


「火天?」


泰河が聞いてる。仏教の天部の人かな?

じゃあ、インド神?


「そうだ。祭火と浄化の存在だが

太陽やマグマ、雷、生物の消化や代謝、

あらゆる火を象徴する。

神に捧げる供物を焼く 祭火である時は

死や穢れを除き、煙として 地と神を繫ぐ仲介者であり、罪や 阿修羅アスラ羅刹ラークシャサ... 悪魔を焼き払う。

地に蔓延はびこる者を焼き払い、人が居住出来る場所にする」


ふうん... “火そのもの” ってこと?

日本神で言えば、カグツチさん?


「アグニも、生まれて すぐに

両親を殺してなかったか?」って

ジェイドが聞いてる。

カグツチさんもイザナミさんを死なせてしまってるし、似てんのかも。


「アスラって、悪魔なんだ」


今さら言ってみたら

「でも、ヒンドゥーの悪魔は

そこの ど悪魔とは、ちょっと違うぜ?」って

ミカエルが言って、皇帝が

「何かと 俺を誘いたいようだが、子供の前だ」と

肩を竦めた。うん、血は吐けねーよな。


「天と地界程、白黒はっきり分かれているものでもない。日本神と近いかもな。

月夜見や須佐之男も 荒神だろ?」


ボティスが言って、泰河も

「アスラって、生命とか息 って意味からきてるんだけどさ、だんだん “善神じゃない” って解釈になっていったんだ」って 補足っぽいこと足したけど

人間とも似てるよなー。

生命や息... 霊が、堕落に傾けばさぁ。


「生命や息と、ほのおか」


朋樹が ぼんやり言う。

泰河が読み込ませたからだけど

獣は、アスラのかたちで出ることが多い。

いろいろなかたちに変化して、最終的になる姿...

白い焔のたてがみひづめの上にも焔の、犬なのか馬なのかって姿が、本来の姿なんだろうけど

泰河の身体に浮く模様は、白い焔。


「ミカエルは、“炎の天使” なんだろう?」


ジェイドが言ったら

「恩恵に属する。地界の炎であれば パイモンだ。

炎が飲み込むのは、悪や穢ればかりでは ないからな。善人も焼く」って ボティスが答えてる。

天は 炎も、白黒はっきり分けた ってことだろう。


「あらゆる物質は、生まれた時に 対極に分かれる。お前が ここに居るが、反お前も居る」


「何すか、それ」


泰河は 皇帝に、サッパリっす って顔を向けてるけど、「反物質?」って 朋樹が聞いてる。

ジェイドも「対消滅?」って 聞いてて

泰河は「ああ、そういう... 」解らんやつか... に

落ち着いてる。


「四郎」


なので ボティスは、真面目に聞きそーにない

オレらに向けた説明に、四郎を選んだ。

うん、なら 聞くしぃ。


「おう」って、泰河が 笑顔で振り向いて

オレも「教えてくれよー」って ねだったら

四郎は 戸惑いながら「では... 」って 教えてくれた。


「ある物質を、小さく分けていくと

分子に たどり着きます。これは

“これ以上 分けてしまうと、固有の性質も失われてしまう” というところです。

この分子は、複数の原子から成ります... 」


原子は、原子核の中に “陽子” と “中性子”。

周りに “電子” が回る。

陽子は プラスの電気をもっていて、

中性子は 中性。電気を持っていない。

周りをまわる電子は、マイナスの電気をもっている。 うーん... 習った気は するんだぜ。


皇帝が、空間に息を吹いたようで

シャボン玉の中に、赤と白の花が入ったものが

浮かぶ。花びらは三枚ずつだけ。


「これが 原子核だ。

陽子は赤い花、プラスの電荷。中性子が白い花。

実際には、陽子や中性子は 幾つかずつ入っているが、分かりやすいように ひと花ずつ」


「電子。マイナスの電荷」と

もう一度 息を吹くと

黄色い花が シャボン玉の周りを まわり始めた。


「原子核を作る 陽子と中性子は、核子と呼ばれ、

核子は さらに、クォークと呼ばれる粒子3つから成り、電子は ミューオンやニュートリノなどと共に、レプトンというグループを形成します」


シャボン玉の中の 赤い花の花びらの色が変わった。三枚の花びらの内、一枚は赤のまま

一枚はピンク、一枚はオレンジ。


白い花の花びらは、一枚が白のまま

一枚が青と 一枚が紫に変わる。

一色が、一つのクォーク ってことっぼい。


シャボン玉の周りをまわる 黄色い花の花びらは

二枚が 緑とカーキになった。


「反物質というのは、真逆の性質を持つものだ」


四郎から 説明を引き継いだ皇帝は

カラフルになった空間の 原子の花に息を吹いて

全部を真っ白にした。

シャボン玉の中に、二つの白い花と

周りをまわる 一つの白い花。


また息を吹くと、三つの黒い花が浮かぶ。

シャボン玉の中に 二つ。一つが 周りをまわる。


「原子核の陽子は “反陽子”。

マイナスの電荷であり、中性子は “反中性子”。

構成する 二個のダウンクォークと

一個のダウンクォークが、

二個の反ダウンクォークと

一個の反アップクォークで 構成される。

周りをまわる電子は “陽電子”。

プラスの電荷をもつ」


泰河に置き換えると

物質... プラス泰河が 生まれた時に

反物質... マイナス泰河も 生まれる ってことらしい。


握った手の、親指と人差し指の先同士を付けて

輪を作った皇帝が

「“光あれ”」と、親指と人差し指の先を離すと

白い花と 黒い花が、空間で左右に分かれる。


「これが、生まれたところだ」


また 噎せて、喀血だしさぁ...

アコが 血ぃ拭くタオル持って来て

ソファーの皇帝の後ろから 拭いてやってるし。


「わかった、ルシファー」

「ムリして欲しくないっす」


けど、皇帝は 続ける。


「同じ時に生まれた、この二つが出会うと

互いに 引き合い... 」


離した 親指と人差し指の先を 近付けると

白い花と黒い花も、互いに近付いた。


指の先が付くと

白い花と黒い花の シャボン玉が 一つになる。

周りをまわる白黒の花が くっついて

花々は、グレーになったように見えたけど

「消滅する」

カッ と、テラスまで 照らすくらいの

強い閃光になって消えた。


「ぎゃあぁっ!!」「眼がァッ!!」


「... うるせぇな」


ボティスに振り向かれて、ミカエルにチョップされるし、泰河も皇帝に謝ってるしさぁ。


とにかく、白泰河と 黒泰河は引き合うし、

出会っちまったら、光... エネルギーになって

消滅する。ドッペルゲンガーっぽいよなぁ。


「そのエネルギーが、また 新たなものを生成する。創造のエネルギーだ」


今度は 紫の花が浮かび、赤と青の花に分かれた。


「けど オレら、いるじゃないすか」

「うん、消滅してねーし」


「ああ、それについてはさ

対称性の破れ っていう、仮説があるよな」


「粒子と反粒子で反応法則に、わずかだけ違いがあって、その差の分だけ 粒子だけが残った... って

いうやつだね」


皇帝の血にも、慣れてきて

オレらにも慣れてる 朋樹とジェイドが言うと

「そう思うか?

“ヴィシュヌのまばたき” ならどうだ?」って

皇帝が言う。先を離した 親指と人差し指。


“世界が始まってから 終わるまで

ヴィシュヌにとっては、まばたき 一回分”


「生まれたところ... って ことすか?

まだ 反物質と出会ってない ところ?」


朋樹に 皇帝が頷く。

もう、引き合ってるところ かもだけど...


「しかし 反宇宙は、必ず来る」


親指と人差し指の先を付けると

赤い花と青い花が重なり、光になって消えた。


「それなら... 」と、ミカエルが

真面目な顔で ブロンド眉をしかめた。


「“初め、そして終わりは、神聖な働きにより

融合し 一つとなる”... って 部分は

物質と反物質が出会った奴 ってことなのかよ?」


ボティスが「どういうことだ?」って

ミカエルを振り返る。


「獣は、“消滅しなかった奴” だ。

ひとつに戻った」


「法則から外れるだろ?」って ボティスが返すと

「それなら、父が認識しないことに 辻褄が合う」

って、皇帝が言う。


... なら それ、“絶対者” なんじゃねーの?


「“まだ分かれる前” ってことは?」


ジェイドが聞いたら

「“神が生まれる” って あっただろ?

結果 だってことじゃないのか?」って

ミカエルが返した。


「“分かれる前” なら、まだ これから分かれるかもしれない。

それじゃあ 法則から外れないし、父が認識する。

対称と出会っても 消滅しなかったから

新たなものが生まれた。

予言... あらかじめ 情報があった ルシフェルから見て

“生まれる” って 表現になった。

まぁ、生まれた時に 情報を読み取ったのかもな」って 言って

「何か甘いもの欲しい」って ワガママも言うし

アコが消えて買いに行く。


「“神聖な働きにより”。

問題は、結果である獣より この部分 となるが

これにはついては まだ推測もついていない」


皇帝を眼で示した ボティスから

「ワイン」って 言われて

ジェイドと朋樹が カウンターに立った。


「地上の入れ替わりの件だが、そういった訳で

お前は どうにか出来んのか?」


「そうです、そのような話でしたね」


四郎も忘れてたっぽいけど

オレも とっくに忘れてたぜー。


皇帝に聞かれた 泰河は

「ムリっす」つって、ヒゲ 撫でられて 謝った。











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