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「入れ替わりについては、ヴィシュヌにも

相談してみるけど、アバドンは?」


ソファーに移動して、アコが買って来た エッグタルト食いながら言った ミカエルに

「アバドンは って、幽閉してるじゃねぇか」って

泰河が言って

「大いなる鎖で巻いていただろう?」って

ジェイドも言うけど、ミカエルは遠慮なく

「翼は出していなかったとはいえ、ルシフェルが

やられたんだぜ?」って 答えちまうし

ベッドに座って、ボティスと花札始めてた皇帝が

指 動かして、ミカエルのエッグタルトを取り上げた。


「あっ! 何するんだよ?」


「アバドンが 出て来るようなことがあれば

地上で潰す」


エッグタルト食っちまってる。

地上で って、地上勢力?


「あの姿では 天も頼れんが、力を欲しているのなら、獣を狙って来る」つってるけど

オレら含む かな? 役に立たねー と思うんだぜ。


「地上の 一部でも破壊したら

結局、天が出てくるだろ?

その場合、お前も囚える事になるぜ?」


「破壊予測が立つんだな... 」って

泰河が ゾッとしてるけど、ソドムとゴモラは

“二人の御使い” に 滅ぼされたし...


「だが、奈落に攻め入れば

囚人となっている 異教神等も、解放される恐れがある。モレクのような者もいるだろう?

俺の監視下には置けん。

魂の配分にも影響し、地界と異教神との間に

争いが起こる。

俺は構わんが、ハゲニトが うるさい」


牢獄が破壊されて... ってことかぁ。

それに 奈落も、管轄は 天だもんな。

皇帝が拘束されちまう。


「アバドンを 何とか拘束しておく... っていうのが

一番のようだね」


隣で、ワイン飲んでた ジェイドが

皇帝に呼ばれて、ベッドに移動する。

「呼ぶ前に 来るものだ」って 言われて

「呼ばれようとしたんだ」とか 答えてて

皇帝は ふふ ってなった。

ジェイド、切り返し上手いよなー。


「もし、あの部屋から アバドンが出られたとしても、鎖は解けないのでは ないでしょうか?

天主でうす様の鎖でありましょう?」


四郎は、アバドンを繋いでる 枷や石釘が外れても

身体を巻いてる大いなる鎖は 解けないんじゃないか?... ってことを 言いたいらしい。

鎖に巻き付かれたまま、アバドンが出て来るだろう ってこと。


「うーん... たぶんな。

でも あいつも、ある程度は 鎖を扱えるし

天狗アポルオンの呪いが どう左右するかにもよる」


「天狗自体は どうなんだ?」


第二天ラキアのパン食いながら、アコが聞いてる。

オレも 二個食ったけど。糖蜜 美味かったし。

四郎は 四個。さすがなんだぜ。


「未知数。術にはけてる。

簡単に、アバドンの地位を奪ったし

ベリアルやアザゼル級ではあるだろ」


アザゼルって悪魔には会ったことないけど

名前だけ知ってる。

シェムハザたち グリゴリ... 見張りの天使たちの

リーダーだったヤツ。


ベリアルと並ぶってことは、皇帝やベルゼよりは下、ボティスたち... いや 今は人間だけど

パイモンみたいな 軍を持つ指揮官たちよりは上の位置 ってことだと思う。


天狗、相当だよな...

日本の悪神を束ねる力がある ってことだし

像の中に残った、阿修羅や師匠の気の残滓も

取り入れてるもんなぁ。

下手すると、兄ちゃんの天魔雄神あまのさかをのかみを凌ぐのかも。

全然 知らねー人だけど。

日本の悪神の中なら トップだ。


「アバドンを押さえられる自信があるから

囚えてるんじゃないのか?」


朋樹にしたら、めずらしく 希望的観測な気がするけど

「幾らかは あるんだろ。

天狗は、正確に相手の力量を量り

冷静に 目的を達成している」って

場札に ペシッ て やって取ってるボティスが言った。


「ボティス、役が揃いそうじゃないか」


ジェイドが言ったら、皇帝は 楽しそうな顔で

「カードだ。イカサマは無し。

チェスより 上手く負けづらいだろうからな」って 言ってる。実は バレてたんだぜ。怖ぇし。


皇帝ルシファー


「ハティじゃん」「おかえり」


三の山に居たていのハティは、実際に 里にも行ったらしく、桜酒 持ってる。

「榊と浅黄は、日本の神界や 地上神の元へ駆け回っている。天狗の報告と会議だ」って

ボティスに言って

皇帝には「リリトに」って、桜酒の瓶を渡した。


「日本で 入れ替わった箇所は、先に分かっていた山中の他には無かったが、他の国でも見つかっている。

ミシガン湖とタンガニーカ湖の 一部も入れ替わっていた」


「湖って... 」

「なんか でかいの棲んでたんだろな」


「その場合、どうするんだ?」


「湖底のみ区切ったが... 」


もう混ざっちまってるし、どうしようもねーもんなぁ。

地界は どうだったんだろ? って思ったけど

皇帝の前じゃ 聞けねーし。


天は たぶん、大丈夫だったんだろうな。

ミカエル、プールに浮いてたし

もし緊迫してたら、ザドキエルが エデンに

リラを連れて来る ってことは ないと思う。

考えてみりゃ、いくら歓喜仏ヤブユムになったって

アバドンも天狗も、聖父より下位の存在だし

天への影響は ねーよな。


皇帝ルシファー、そろそろ... 」


「ふん... 」


「どっちも 配点が小さい役しかないけど

僅かに ボティスの勝ちだ」


ベッドの上の花札を見て、ジェイドが言うと

ボティスが 得意げな眼をしてみせて

皇帝を ニヤっとさせる。


「また やってもいい」って ピアスはじいて

「次は、榊の くちびるを賭けろ。本気でやる」って 言われてるけどさぁ。


「僕は? 賭けるものがないけど」


桜酒の瓶を持って、ベッドを立った皇帝は

ジェイドの胸に 手のひらを当てて

いつも通り 髪にキスをして、ハティと消えた。


「あいつ、多少 落ち着いたよな」


話の前に、だいぶ血ぃ吐かせた ミカエルが言ってるんだけどー。


「ジェイドの影響だろ」


いいツラして 泰河が言うと

「シロウの前だから、お行儀良い ってのも

あるんだろうけどな」って

今度のエッグタルトは ちゃんと食べ終えた。


甘く爽やかな 花砂糖の匂いがして

シェムハザが立つ。


「おっ、シェミー」

「ハティ、今 皇帝と戻ったぜ」


シェムハザは、皇帝が帰るのを見計らって

戻って来たっぽい。


「地界のことなど、話せんからな。

榊が まだだな... テーブルは、一度片付けろ。

第二天ラキアのパンか」


もう残り少ないパンの内から、白いパン取って食ってる。白いパン人気。

グラスとか ワイングラスとか運んで

カウンターにあった布巾で、泰河が テーブルを拭く。


「あれ? タンブラー は?」


アコと四郎が買って来たタンブラーが

キッチンから無くなってるけど

「今、ディルに送った」って 言ってて

取り寄せてくれたコーヒーと 一緒に

洗われたタンブラーが届いた。


ボティスもソファーに移って、オレと泰河は

もれなく床。

ムリすれば 全員座れるけど、横並びって話しづらいよなー。

全員で 飯 囲む、ヴィシュヌ式が 一番良かったぜー。


「地界の島の 一つが、南極と入れ替わっていた」


「マジか!」「他には?」


「ベルゼとハティ、ボティスの軍が

全域に散らばり、隈なく調べたが

見つかっていない。

どうやら、土地にいた者同士の 力の釣り合いも

関係するようだ」


「何が いたんだよ?」


「地界の島には、トカゲドラゴン族だが

南極の方は、シロクマの下半身がオットセイという者たちだ」


えー、なんか地味くね?


「どちらも 苦手な気候となり、困っていたので

少し移動させ、事なきを得ている。

奈落と入れ替わった森は、恐らく 近辺の無人島だ。まだ調査中だが」


「キュベレは?」


「見つかっていない。ベルゼの軍が 他神界、

ハティの軍が惑星、ボティスの軍が地上に散っている。地上には 守護天使たちもいるが... 」


うわぁ...


「ベルゼが、“見つけて、第七天アラボトに連れて上がる” と、張り切っている。

父に、“厳重に監視を” と 申し入れ

自分の地位も 向上させる予定のようだ。

天から見ると、バアル神は “罪人” だからな」


「けどさ、なんでキュベレだけ 移動したんだ?」


隣で胡座かいてる 泰河が言って

「おお、そうです!

“人が実在を信じぬ者の 移動はない” ということでは 無かったでしょうか?」って、四郎も言う。


「そうだよな」「なんでなんだ?」


朋樹とジェイドも聞くと

ボティスとシェムハザが 眼を合わせて

「推測になるが... 」って 話す。


「天狗は、“眠り姫を飛ばしてやった” と

言ってたのだろう? 目的は それだった。

土地の入れ替えではない。

だから、キュベレが移動した ということには

特に不思議はない」


「それに伴い、森... 土地までが移動したのは

キュベレの寝台となった天使が、共に移動した

影響もあるだろう。

奈落から 父の肋骨、キュベレという大きなものと

変容した天使が弾き出され、地上や地界の 魔物の住処に 影響が及んだ... と 考えられる」


二人が 話した後に、ミカエルが

「うん。バロンとランダは、入れ替わりの場所を

自分の意志で 移動してるからな。

消えて顕れることが出来る奴なら、移動は出来る」って、ブロンド眉しかめてる。


それ、キュベレ 見つかるのかよ... って思う。

だって、入れ替わりの場所ばかりに移動するとは

限らねーんだろうし。


「眠ってるのに、意志が?」


「アバドンが、魂を与えているからな。

だが、散々に邪魔をしてきた。

まだ 目覚めることはないだろうが、

寝台となった天使が、キュベレを護るよう

使われている恐れもある」


「しかし、状況は変わってきた。

まず、アバドン... サンダルフォンの手を離れたことだ。奴は、まだそれに 気付いていない」


ジェイドに、シェムハザとボティスが答えると

ミカエルが

「キュベレ自身が、魂を集めさせるつもりなら

地界を狙う確率が高い。

ベルゼやハティは、地界で眼を光らせた方がいいけどな」って 言って

「ベルゼに伝えて来る」って、アコが消えた。

悪魔は、契約で魂が取れる。


「月は? サリエルが居ない」


シェムハザが聞いたら

「ああ、管理所から 魂が漏れ出した後は

月所属の奴等だけじゃなくて

第三天シェハキムのハサエルが入ってるけど。

本当なら、サリエルがいい。能力的にはな」って

答えた ミカエルは、ため息をついた。


「サリエルって、まだ ベリアルんとこ?」


「そうだ」


ボティスが オレに、眼だけ向ける。

... あ、そうだ。

サリエルが、アリエルに気があったこと

シェムハザには話してねーんだよな。


「センノーでもしてるんだろ。

第七天アラボトに、魂のことを証言させる気なんじゃないのか? あいつ、法廷に立つの好きだし」


「過去に、イエスも訴えてるんだもんな」


ミカエルと朋樹が、さり気なく流して

「月にも 悪魔が居た方がいいかもな。

天使の方が、キュベレに使われやすいし。

ベルゼ級の奴」 って 言うけど


「誰だ それは」

「生半可な者では、共に キュベレに使われるだろうが、該当する者がいない」 らしいし


月夜見キミに監督してもらうか... 」って なってる。

月夜見キミサマ、同じ月には居るけど

忙しくなるよなぁ。

シェムハザが「俺も ちょくちょく行くか」って

言ってるけどさぁ。


「他神界の魂管理は どうなっている?」

「ヒンドゥー側は、ヴィシュヌに聞いてみるけど

冥府神は、お前等の方が 知り合い多いだろ?」


「いつの間にか 地球規模だよな」って

泰河が あくびして、ジェイドに移る。

オレも そーっとベッドに移動して、そのまま寝てやったんだぜ。

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