30


ヴィシュヌは、ヒンドゥーの神、バリ ヒンドゥー教の神たちとも、また話し合いもあるから

「そろそろ戻る」ってことになったんだけど

「ミカエルが降りていることを話せば、俺も降りやすくなるかもしれない」って 楽しそうだった。

「ラクシュミーに会いに、ちょこちょこ帰るけど... 」とも 言ってたけど、インド神って夫婦仲いいもんなー。


「バロンは、バロン像のような姿なのか?」


バロン像は、牙が生えた 獅子舞の獅子って風に見える。ボティスが聞くと

「決まった姿は無いんだ」って返ってきたけど

「だけど、見れば必ず分かる」って頷いてる。


「ただ、オレら 人に認識されないんすけど... 」


泰河が言うと

「ああ、門を通っているからね。

ここでは、精霊のような状態になる。

だけど その方が、神々や レヤックたちを感知しやすい。不便かな?」って 聞かれた。


信仰も 生活の一部ってとこなのに、感が強くなければ 悪霊やレヤックも見えないみたいだったし

オレらにも見えないようなヤツが居ても困る。

泰河は、模様の右眼でしか見えねーしさぁ。


「いや。俺やミカエル、アコがいれば

そう 不都合もない」


シェムハザが答えると、またヴィシュヌが頷く。

座を立ち上がった ヴィシュヌと師匠に

「そうだ。バリアンの術なんすけど」って

朋樹が、卵から出た眼のない蛇の事を話したけど

黒魔術ブラックマジックだろうけど... 」

「土着の信仰とも混ざり、人の術は、人が作ったからな」って、あんまり分からないらしい。

ヒンドゥーって、あんまり魔術ってイメージ無いもんなぁ...


「治療や 出産の手伝いが多いんだけど。

黒魔術ブラックマジックを使うと、術者に返されることがあるようだから」

「バリアンによっても、術の掛け方は様々になる」


一応、二人で ニナを見てくれたけど

「術が作用するまでは、どういったものかも

判断つかんな... 」

「違う相手に 掛けようとしていたのなら、

彼女には 作用しない恐れもある」って 言ってて

“いや、ジェイドが好きだったのに

それが 抜け落ちちまってるんです”... とは

この場では 誰も言えなかった。


「じゃあ、こちらからも また来るけど... 」


ヴィシュヌが言うと、師匠が思い出したように

「夜になると、寺院に ラクササ... 羅刹ラークシャサがいるが

あれ等は 守護をしておる。

間違えて滅することのないよう、気をつけて欲しい」って 注意した。

羅刹が守護 ってことは、やっぱり仏教も入ってるんだよな。羅刹天ラーヴァナの腕、再生したんかな?


「では」


盆とラグを消した ヴィシュヌと師匠は

そのままテラスに降りた。


「おお?!」「うおっ!!」


師匠が、ゴールドの揺らめく光に包まれたかと思うと、その光の色の神鳥の姿になった。

鉤爪の足から 頭までは、3メートルくらい。

テラスもプールも、黄金を映して輝いてる。


師匠が ジャンプして、大きなまばゆい翼を拡げると

ヴィシュヌも跳んで、師匠の背に立つ。


「何かあったら、名前を呼んで」


師匠が大きく羽ばたくと、瞬く間に上昇して

ゴールドの流れ星のようになって消えた。


「すっげー... 」

「インド神って、カッコいいよな... 」


シェムハザが 指鳴らして戻した ソファーに座ったミカエルが、多少 ムッとしたし

「ミカエルの 天衣とトーガも好きだけど!」

「門の階段を降りて来るところも好きだ」

「おう、カッコいいよな!」「武の天使だしさ」

って フォローして、事なきを得る。


「しかし、“異変” か... 」

「善の象徴である バロンが消えた というのもな... 」


ボティスとシェムハザも座って 話し出して

榊が シイナとニナも呼ぶ。

オレら 四郎も含み、全員 床。

シェムハザが、コーヒー取り寄せてくれたけど。


「四郎、何か 元気なくないか?」


ルームサービスで届いた ナシゴレンとサテ食ってる四郎に、ジェイドが聞いてる。

こういうのは、すぐに気付くんだよな...

自分に向けられた気持ち とかにはニブい。

まぁ、向けられること多いし、

明らかに押されるか、ハッキリ言われねーと

いちいち そういう意味で 取らねーんだろけど。


「いえっ。全く その様な事は... 」


スパイシーな飯なのに、アイスラテ飲んで

氷をストローで カラカラ鳴らす 四郎を見て

シェムハザが ちょっと笑った。


「話して来たぞ」


アコ出現。

「あれ? ヴィシュヌたちは帰ったのか?」って

言いながら、普通に 床に胡座かいて

シェムハザが取り寄せた アイスコーヒー 飲んでる。


「さっきな。ハティは?」


「うん。何人か使って、地上の異変のことを

調べさせてる。

今日は、ベリアルとかベルゼに話しに行くから

“明日 喚んでくれ” って言ってた。

皇帝には、第六天ゼブルの天使が 長老の書状を渡してるところだ って 話したらしいけど

皇帝も、何人かを 奈落の監視に着けてる」


頷いたボティスが

「更に、バロンが消えたようだ」って 話すと

「バロン? 善の象徴だろ?

二元論で言えば、悪の側に傾く。

バランスを崩して、何か起こりやすくなるぞ。

それも話して来る」と アイスコーヒー持ったまま

消えた。

慌ただしいけど、アコ居ると雰囲気 明るくなるんだよなー。


「ミカエル、ゾイとは会ったのか?」


朋樹が聞くと、ミカエルは「うん」って

満面の笑みになった。


「沙耶夏ん家に お邪魔して、キャンプの話しを聞いたんだ。エステルも 連れて行ってたから

食べた花を聞いたり。二人で釣りもした って言うんだ。アカリも来てて、羨ましそうだったから

“休みに、海に来たらいいだろ?” って 誘っておいたぜ?」


「ふむ!」

「うん、誘えばいいじゃん」


オレらも 泰河に言ったら

「おう。別で連れて来ようかと思ってたけど

長引きそうだしな」って 照れてるしー。


「明日、こいつ等 送るけど

朱里が来る時は、俺が迎えに行くから」って

アコも言う。


「そう。帰るんだよね、明日」

「明後日から 店だし」


シイナもニナも残念そうだけど

「でも、まさか バリに来れるなんて」

「うん、花火も楽しかったし、ありがとう」って

気を取り直してる。


「また 休みに来たら?

僕らも その内、メイちゃんのショー に

野次ヤジ飛ばしに行くけど」


ジェイドが言うと、二人共 笑って

「縛られる?」

「うん。本当にいいなら、また連絡する」って

笑顔になった。


「お前等は そろそろ、部屋に戻るか?

風呂とかも まだだろ? 俺、居てやるから」


順に行くアコなのに、いやらしさゼロなのが

すげーと思うんだぜ。

アコは、ニナの観察もするっぽい。


アコと 二人が部屋を出ると

「まだ 人が居そうな場所を、少し 見回って来るか... 」と、シェムハザが ソファーを立って

「俺も行く。シロウは守護に残ること」って

ミカエルと 二人で消えた。


「夜半の方が、悪しき者共は 出ようがのう... 」


榊が 気にしてるけど

「ミカエル 一人居るだけでも足りるが

“悪” が 蔓延しているのなら、だ」って

ボティスが 短い指笛を吹くと、部屋の空気が動いた。守護天使を喚んで

「バリ島全体に散らばれ。バロンを探し、

人間に手を出す 悪霊ブートやレヤックなどの対処。

他に何かあれば、すぐに報告」って めいを出した。

バロンが居ない分の “善” を、守護天使達でも補って、バランスを保つようにするみたいだ。


「守護天使から報告が入れば、すぐ動くことになる。なるべく 身体を休めておけ。

明日は、アコが迎えに来てから 飯」って

ボティスと榊も ソファーを立って、部屋を出た。




********




「なんだ、おまえら その水着!

やる気 あんのかよ?!」

「無いね。サービス心も ゼーロ」


昨日は、順にシャワー 浴びて寝て、

朝、戻って来た ミカエルに『退屈』って 起こされたけど、四郎以外は二度寝して、

昼近い時間に レストランで朝飯食って。


『帰る前に、南国っぽいことしたい』って言うから、『プールで飲むか?』って なったんだけど、

アコと 水着買いに行かせたら

膝上くらいまで丈ある、ワンピースみたいの

選んで来やがった。


「おまえら、榊と変わらねぇじゃねーか!」

「南国は 普通、三角ビキニとかだろ?」


「えっ? かわいくない?」

「店で 散々脱いでるから、いいかと思って」


かわいいけどさぁ...


「いいじゃないか。似合ってるし」

「うん、俺も そういうやつの方が いいと思う」


アコとミカエルが いらん事 言うし。

それでも 四郎は、二人を見ようとはしねーし、

いいんだけどぉ。


ボティスと榊も 水着で来ると、

一人 リビングで、本 読んで寛ぐシェムハザが

指 鳴らして、ラ フランスやリンゴの果実酒の瓶とグラス、カットしたメロンや桃、ミラベルっていう黄色スモモの皿が乗った浮き籠を 四つ

プールに浮かせてくれた。


「おお... これは また、異国らしい」

「しかし、日本の温泉であっても

酒を盆に乗せて 飲む。

玄翁が時折、里の風呂で やっておる故」


四郎は、榊なら 大丈夫らしい。乳 ねーしな。

飲んでるのは、別 取り寄せのソーダだけど。


「これだけの人数で入ると、温泉と変わらん」


早くも上がる気配のボティスに

「じゃあ、温泉と思えばいいだろ?」って

ミカエルが グラスを渡す。


昨日の夜、ミカエルとシェムハザは

クラブ周辺を回ったらしかった。


『クラブとかあるんだ』って 聞いたら

『もう少し 南の方や 海沿いの町にある』

『プールのとこには、水着のイシャーたちが居た』って言うし

『なんだよ、オレらも そういうとこで

仕事するぜ!』

『おう、今夜 そこ行こうぜ!』つってたら

『だが、悪霊ブートやレヤックは 外にいる』

『“周辺” を回った って言っただろ?』って

返って来た。周辺って、虚しそうだよなぁ...


で、悪霊ブートとかレヤックは

『まぁ、居るにはいたが... 』

『お前等が、ヴィラの庭園で見たように

大量に出て来たりは しなかった』程度。


『こうした静かな場所の方が 多く出るといった

印象だ。悪霊やレヤックを知らん 観光客も多い。

対処もされんから、餌食にしやすいのだろう』

『それより、“自分は バリアンだ” って 観光客に話し掛けてたり、クスリ売ってるような奴が目立った』


うーん... そういうのは オマワリサンの仕事だし

オレらは、この辺りか 山とかで仕事か

バロン探しになるんだろな...


「ああ、今日 帰るなんて... 」


果実酒のグラス持って、ニナが言ってる。

近くに ジェイドと朋樹が居るけど

やっぱり、何の意識もしてなく見える。


アコは、二人の寝室のドアを開けさせておいて

リビングで 本を読みながら、ちょこちょこ様子をみてたけど、特に変わりは無く。

眼の無い蛇や 他の何かが来たり... ってことも

無かった。


「だから、また来りゃいいじゃねぇか」

「ビキニ持参で。何なら選ぶけど」


「神父さんなのにー」って 嘆いて見せてるニナを見て、シイナが

「なんか、神父さんのことだけじゃなくて

気がソゾロになってるように見えるんだけど」と

スモモ食った。

「おいしい」って 言うから、オレと泰河も食う。


「おまえ、そんなコトバ 知ってるんだ」

「シイナ 落ち着き過ぎよな。幾つ?」


「22。ニナは 25」


22で 女王サマかぁ。ったくよー。

ニナは、オレらからすると ちょうどいいくらい。

肌とか パツパツし過ぎてねーし。


「昨日も “明日帰るの 残念” って話はしたよね?

ニナって、一度 納得したら

ちゃんと切り替えるんだよね。

“絶対 また来る!” とか 言うなら、分かるんだけど。

何かに捉われて、昨日話したことを 忘れてる感じする」


「マジで 楽しかったから、なんじゃね?」

「それか、どっかに ジェイドを思う気持ちが

残ってるとかさ」


オレらが言ってみても、シイナは

「そうかな... ?」って いぶかしんでて

「何かあったら、アコちゃん喚ぶけど... 」って

不安そうだし。


「午後のみ、かふぇ で

ケーキの食べ放題があると、案内に書いてあったようじゃ」


榊が 四郎とミカエルに話してて

「行く?」「良いですね!」って 盛り上がってる。なんか、ケーキの絵が描いてあるページが

ヴィラの案内に あった気ぃする。


「水着で良いようだ。休憩に行くか?」


リビングのテーブルに、本 置いたシェムハザも

言うし、上に シャツだけ着て 行ってみることにした。


軽く拭いたけど、水は ポタポタ落ちるし

「外席だな」って、ボティスが指差したテーブルを、榊が 神隠しする。

アコとミカエル、シェムハザだけで

テーブル幾つか取って座ってたら おかしいし。


「テーブルでオーダー?」

「一部は。カフェの中に ケーキが並ぶテーブルがある」


水、いいのかな? って 気になったけど

他にも水着の人たちは居て

カフェ内には、水対策の細い絨毯が敷いてあって

それが通路になってた。


「じゃあ、取りに行こうか?」

「皿も 中にあるみたいだよな」


ぞろぞろ入って行って、ケーキ並んでるとこに

向かってたら

ニナが「あ... 」って 立ち止まって

窓際のテーブルを 見てる。


「あいつ... 」


朋樹が 眼をしかめて「昨日のバリアンだ」って

言った。蛇の術の男だ。


「うっそ!」

「オレら、相手から見えねぇし

近くに行ってみようぜ」


泰河と朋樹、姿を目眩めくらまししたシェムハザが

男のテーブルに近付く。


男は、カフェの中を キョロキョロ見て

誰かを探してるように見える。

術 掛けようとしてた、昨日の女の人か... ?


「ニナ?」


ジェイドの声で、オレも ニナに向いて見ると

ニナは、薄く くちびるを開けて

潤んだ眼で 男を見つめてた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る