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「珊瑚礁については、どう思う?」


バカでかい盆の上のスナックの減りを 見計らって

ワインや生ハム、魚介のマリネやチーズを取り寄せた シェムハザが、ヴィシュヌと師匠に

ワインを注ぎながら聞くと

「ありがとう」って 笑顔で言ったヴィシュヌは

一口、ワインを飲んで

「ごく最近、各地で 妙な異変が起こっている とは

聞いたんだ。こういう、珊瑚礁の移動の様な ね。

湖だったところが 山になってたり

砂漠の 一部に、密林が現れたり」って 言って

ワインボトルを取ると、ミカエルやシェムハザ、

ボティス、アコに注いだ後に、オレらにまで注ごうとする。


「おおっ?! いや、ちょっと... 」

「オレら、やるっす!」


相当に焦ったけど、何故か シイナたちも焦って

「貸して」「全然やるし」って

進んで 酌 し出した。


ヴィシュヌの方に向いて

「そういった話しは 聞かんが... 」と

ボティスが眉しかめて、ミカエルも

「俺も報告は受けてない」って 言うと

「人間が住んでいない場所で起こっていることが多いからだろう」って、師匠が答えてる。


「地震や噴火などの 前触れも何も無く

突然 変わっている。

人の近くで起こったのは、この近海と

日本の海だけだ」


「他の場所の調査もして、分かったことは

サイズの大きな魔物が 住処すみかにしていた場所や

集団で巣にしていた場所だということ。

地上棲みのドラゴンや、デザートワーム、人頭鳥など。何か 心当たりは?」


えー、そんなのいねーだろー。

集団の住処って、六山は該当するけど

月夜見キミサマやミカエルが加護与えてるし

ここからは ちょっと距離あるしさぁ。


「レヴィアタン?」


ジェイドが言って、あっ! って なった。

そうだ... リラの家系との契約で、この辺りを長く彷徨うろついてて、あの後は インド洋に運ぶ って...

インドネシア諸島近海に居ても おかしくない。

そのくらいしか 該当しねーし。


「誰が そういう異変を起こしてるのか は?

何か 見当は着いてるのか?」


チーズ食いながら ミカエルが聞くと

生ハム摘んでるヴィシュヌは「いや... 」と

首を横に振った。

サロンで 胡座かいて、指で摘んで食べてるとこ見ると、マジで南国の王子に見える。

エキゾチックなんだぜ。


「でも、ガルダやアスラに

そちらの 強大な力を持つ 天使の 一人が

歓喜仏ヤブユムになろうとしている と 聞いた」


ボティスやシェムハザの グラスを持つ手が止まる。で、泰河が

「アバドンがキスしただけで、幽世かくりよから

魂 出て来たよな... 」って 言って

オレらも 押し黙る。


「ミカエル、天からの報せは?」


ボティスが聞いてるけど

「まだ何も... 」って、ワイン 一口飲んで

ジェイドに「天使召喚円」って、白いルーシーで

召喚円を描かせた。

ルーシー、オレも欲しいんだけどー。

術使えねーから 意味ねーけど

“自分で瓶に戻る” って 良くね?

いろんな色がいるし、ルーシーで絵を...


「ザドキエル」


ミカエルに喚ばれて、召喚円の上に

ブロンドにブラウンの眼の ザドキエルが立った。


『やぁ、ボティス、シェムハザ。アコ。君達』


ザドキエルも省略かぁ。榊まで含んでるし。

それぞれ片手上げたりして 応えてるけど

『ガルダと... ヴィシュヌ?』と

ザドキエルは、ちょっと戸惑ってる。


「うん。地上で 異変が起こってる... 」


ミカエルが 簡単に説明すると

『本当に? 第一天シャマインからは、何も報告は受けてない。ガブリエルに 聞いてみるけど』って

天衣の袖から出る腕を組んだ。


「奈落の方は、どうなってる?

長老の書状を持って行った奴は?」


『まだ戻ってない』


「えっ、長くね?」


つい、口を挟んだら

『うん。ついでに、奈落の囚人達のリストを

第六天ゼブルに提出するように... とも 言ってるみたいだから。

これは、ウリエルが 第六天ゼブルに進言してた。

“今回のように、異教神との問題になる場合もある。アバドン 一人に任せず、第六天ゼブルが把握を” ってね。

もちろん、名のある囚人に関しては 報告は受けているけど、“今回のように 名が上がる前に 囚人となるケースもある” と』って、丁寧に説明してくれたんだけど、また ウリエルかぁ...


まぁ、こっちにとって 都合悪くなることは してねーし、いいんだろうけどー。


「今、ウリエルは?」って、ミカエルが 聞いたら

『相変わらず、サンダルフォンに付き纏ってる』

って ことだし。


サンダルフォンが、まだ預言者エリヤの時に

一晩 エリヤと戦った天使っていうのがいて

この相手は、聖父とも言われることがあるけど

ウリエルって考えられたりもしてる。

で、今は 行くとこ行くとこ 着いて行って。

結構 やりたいようにしてる気する。


『とにかく、地上のことは 第一天シャマインから見ておくし、ガブリエルやアリエルとも話しておくけど... 』


「奈落に、第四天マコノムからも派遣しとけよ。

何か理由つけて。

地上の異変が、アバドンが歓喜仏になっていた場合の影響だとしたら、アバドンが 幽閉の対象になるだろ?」


『えっ? その影響だっていうのか?』


ザドキエルは、生理的な嫌悪感 って感じで

眉をしかめてて、師匠が

「異変が起こる理由が判明しておらん。

そういった事も考えられる」と 言うと

ますます 眉をしかめて

『分かった。第四天マコノムからも派遣するけど

ミカエル直属の軍の者達は、いつでも奈落へ向かえるようにしておく』と、厳しい声で言った。

なんか意外な気がしたけど、ザドキエルは

天の軍の参謀らしい。頭 良さそーだもんなぁ。


『ルカ』


ん? って 向くと、ザドキエルは 表情を緩めて

『ラミエルやアリエルの指導の お陰で

リラは、エデンに降りれるようになった。

エデンのゲート... 地上との重なりの位置に立っても

姿を保てるようになるまで、もう少しだよ』って

穏やかに笑った。


「うん」


胸が 熱を持つ。


『また、召喚円を二つ敷いて

アリエルか私と共に、リラを喚ぶといい。

リラは、“雨” を覚えた』


「本当か?」って、ミカエルが聞いて

「“天に” 降らせるのか?」って

ボティスも ギョッとしてるけど

『エデンだよ。天の天候は 一定だからね』と

オレらには よく分からねーこと話してる。


そしたら、地上の天候の運行を見る天使でもなく

天や、天と見做されているエデンに 雨を降らせることが出来る天使は、そう 数がいないらしかった。


「天の全体に降ることはないし、シャワーのようなものだけど、植物の為に 時々 雨がいる。

俺や アリエル、ザドキエルは出来るけど... 」


『そう。リラは中級に昇格した。

毎日 頑張っているからね』


「なんと... 」って 榊が涙ぐむけど

オレも ヤバい。


『それじゃあ、そろそろ戻るけど

書状を持って行った第六天ゼブルの天使が戻った時や

派遣する者等も戻ったら、こちらから呼ぶから』


ミカエルに言って、ヴィシュヌやガルダに

微笑んで会釈すると、ザドキエルは 円から消えた。


「うーん、まだ 異変が起こる原因については

ハッキリはしないね」


胡座の膝の上に 肘を着いて、頬杖をつく ヴィシュヌが言ってるけど、何となく オレに気を使ってくれたのかな... って 気がした。

“リラ” って? とか 触れねーし

話 戻しながら、また フルーツ取り寄せて

榊や四郎、シイナたちに「食べて」って

笑って 勧めてるし。


「ボティス、ハティやパイモンに話してくる」


一言 断って、ヴィシュヌと師匠にも会釈して

アコも消える。


「“ハティ”?」


ヴィシュヌが聞くと、師匠が

「ハーゲンティ」って 教えてて

ヴィシュヌは「地界の軍のおさと?」って

ミカエルに聞いた。

師匠とアスラは、“天狗が アバドンに取られた” って話は してるけど、キュベレの事とかについては

話してないっぽい。


「何が起こってる?

最近も、“ミャンマーで魔虫が出た” と

ガルダやアスラが 事に当たっていた」


ヴィシュヌは、ヒンドゥーのトップみたいなものだ。話さない訳にいかねーし、ミカエルが

「ルシフェルは、まだ知らない事なんだけど... 」って、サンダルフォンや キュベレの説明を始めてる。


「飲む?」


隣に入った シイナが、ワインボトル見せて言って

「おう、悪ぃ。おまえらも飲めよ」って

グラスに注いでもらってたら

「ねぇ、ルカちゃんの彼女って

本当に 天使なの?」って、勇気出した風に聞く。

榊、リラのことは 話してねーんだな...


「おう。元々 人間で、死んじまったけど」


オレが答えたら、シイナの向こう側から

泰河が「... 悪魔に騙されてたんだよ。

小さい子を救うために、犠牲になったんだ」って

ムスっとして言う。


シイナは、何か感じたようだけど

泰河にも ワインを注ぐと、泰河の手からグラスを取って飲んで、また渡して 注ぎながら

「でも その天使の子、何か 頑張ってて

ルカちゃんに “会える” って... 」って

皿から マンゴー 摘んで食った。


「おう、まぁ... 」


「良かったじゃない」


スライスしてある スターフルーツの星型見ながら

嬉しそうに笑ってて、泰河も ちょっと眼を見張ってる。 喜べるんじゃん、人のこと...

シイナは、自分とココのことと 重ねたみたいだ。


また「おう」って 答えたけど、多少 照れたし

「ニナさぁ... 」って 聞いてみたら

「うん、あれから おかしいんだけど。

神父さんのこと、全く意識してない」って

今度は、眉間に シワ寄せた。

ニナは今、ヴィシュヌに ワイン注いでて

ボティスが ちらっと眼をやってる。


「あの蛇の影響だよね?」

「おう、調べてみるけどさ... 」


ジェイドに対する気持ちを忘れた だけなら

まだ、何も始まってねーし

このままでいいんだけど、他に何か 影響出ねーか

気になるよなぁ。


「あっ、シェムちゃんと ミカちゃんのグラスが... 」


シイナが ボトル持って移動する。

「シェム... 」って 泰河が繰り返し損ねて

四郎の前には、師匠が インディアンコーヒーと

バルフィを出した。


「“神の悪”? そんなものが 地上に出ては... 」


「なんとか 阻止しようとはしてる。

ヴィシュヌ、他のヒンドゥーの神には

まだ伏せておいて欲しいんだ。混乱は防ぎたい」 


ミカエルに頷いた ヴィシュヌは

自分に話してくれたことは、嬉しく思うし

まだ 他の神にも伏せておく... とも 答えて

何かあれば 協力する、とも言ってくれたけど

「ただ、異変は 地上の 一部が入れ替わる ということだけでは、収まっていないと思うんだ」って

マリネのエビを フォークで刺した。


「珊瑚礁の調査中、イスワラに喚ばれて

聞いたんだけど、“バロンの姿が見えない” と」


「何?」「“善の象徴” なんだろう?」


えー、それ 困るんじゃねーのかな?

日本でも、日本神が 一人行方不明になったりしたら、均衡バランス 崩しそうだし。


「そうなんだ。こんな事は 一度も無かった。

バリの神々も 探し回ってるけど、まだ見つかってない。それで、さっき見たような 悪霊ブートやレヤックが増え、やたらに活性化してる」


悪霊ブートやレヤック、ランダなどは

悪魔である俺等が 手を下しても構わんのか?」


シェムハザが、“構わんだろ?” って 眼を向けて言うと

「人間に手を出そうとしている場合なら。

ガルダと協力を要請した と、他の神々に話しておく。助かるよ」って 頷いてる。


「うん。日本と行き来することになるけど

バロン探しも手伝うぜ?」


ミカエルが言って、ボティスやシェムハザも

オレらも頷くと、師匠がオレらに頷いて

「本当に? とても心強い。ありがとう」って

ヴィシュヌも 嬉しそうに笑った。




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