御大切 11
やはり、此処は 悪魔の城。
異国ではなく、異界なのでは... ?
実際には、
寝所で首を落とされし後、
見ておる夢 なのでは... ?
では、皆 は?
こうして居る、シェムハザ。
ディル、アシル、ベランジェ。
菜々、葵、アリエル。
ゾイ、
ボティス、アコ、榊。
十字架を降りた時、私は、
“友になった
共に 南蛮へ行くために”... と、過り
すぐに “違う” と 気付いた。
あまりにも、知らぬ場所に
しかし 此処に、みつき が おるのだ。
... だいたい、大罪人である私が
天の預言者になど なれようか?
ゼズ様に 御目通り叶い
では、涼二も... ?
高島や、真田も?
私の 奥なる 願望が見せる...
「初めまして」
みつきが、そう言いました。
「葉月・ベルグランド です」
緊張しておる事を 覚らせまい とするように
右手を出されました。
「... 天草 四郎時貞、蘇りで 御座います」
手を、握りますと
「“天草四郎” って、本当に?」と 申され
胸の中の何かが 剥がれ落ちたような
心地で御座いました。
********
これは つまり、
他人の空似 といったものなのでしょう。
現代には、これだけの人が居り
しかも私は、南蛮におるのですから。
しかし...
葉月 とは、八月の事で御座いますが
みつき...
同じ 八月の事。
観月 と、字を 知りました時に
夏生まれなのだろう と、考えました。
葉月は、ボブヘア... と 申すのでしょうか?
顎に掛かる辺りの長さで、髪を切り揃えており
眉に掛かる 前髪も御座います。
みつきは、当時の私より
背丈は小さくありました。
それは私が、十六でありながら
大人程の背丈があったため でもあります。
私は当時、歳の割りには 大きな方だったのです。
まだ伸びたでしょうし。
男児等より 10センチ程 小さかったのです。
榊も、同じ時頃の生まれでありましたら
当時は 大きかったのでしょう。
男児の私と 同じくらいでしたから。
ところが、十字架を降りて 驚きました。
どなたも 大変に大きいではありませんか...
ジェイドが、あの
私の覚えより、背丈があったためです。
あまりに 人々の背丈が違い過ぎる。
また、見たことのない衣類を召しておられた。
天を突く建物、何か分からぬ物が走る... 正体は 自動車でありましたが。 そういった訳で
“異界であるのでは?” と 推測しておりました。
天から戻り、状況が落ち着きまして
涼二に 問うてみたのです。
“兄様方は、何故あの様に 背丈が御有りなのでしょう?”... と。
種が違いますので。
すると、涼二は
“個人差もあるけど、泰河くんたちは
大きい方なんじゃないかな?” と、申しました。
それでも、涼二は
「おれが 平均身長になるにも、後 10センチは要るけどね」と 言うのです。
その時の涼二は、私より 5センチ程
高く ありましたのに。
私達は、蛋白質を多く摂り、身体を動かし
週に 一度、保健室で身長測定する事を 定め
現在は どうにか、私も涼二も 165センチ程。
蘇ってすぐ... 過去世の私は、155センチ程だったでしょう。みつきは、140センチ程でした。
葉月は、160センチはあるのではないか と
思われるのです。
しかし、このように 割かし長く推測して於きながら 何なのですが、
葉月は、みつきでは御座いませんので...
違うて 当然なのでしょう。
顔や声が瓜二つであり、雰囲気まで 似ておる事。
名前の漢字の意味が同じである事。
奇しくも、みつきも葉月も 十五である事。
そういった訳で、勘違いをし、混乱したのです。
ですが、現代に 私が蘇り
友が、皆が
ホッと 致しました。
“これは、現実なのでしょうが?
私が 都合良く見ておる夢では?”... と 申しますと
“キュベレやアバドンの事を考慮すると
お前の夢と願いたい”... と、シェムハザに返されたのです。すっかりと 呪縛が解けました。
「... あの」
「はい」
しかし、葉月と 散歩などしておるのです。
“夕食まで、散歩へ行って来ては どうか?”... と
ディルに勧められ。
先程、葉月と挨拶 致しました時
私は、ひとり 勝手に動揺し
もう
みつきでは無い。
その事が
“みつき”
そう思うた時、私の骨が喜ぶのを感じました。
そして、違うのだ と 気付いた時は
勝手に、取り上げられたような気になってしもうたのです。みつきを 愛しておりましたので。
ですが、葉月には 無関係です。
冷静になると、それに気付き
失礼をする事にならず 良かったと思うております。
“天草四郎って、本当に?”
握手の手を離しまして、“はい” と 答えました。
すると、葉月は黙られたのです。
聞けば、半分は悪魔の血が流れる 魔人だということで、切支丹... ましてや、現在は預言者である私に、あまり 良い印象は無いのでしょう。
しかし 会話を持てば、友になれるのではないか? と 思うのです。
涼二と、教会で再会しました時は
嬉しゅう御座いました。
涼二は、私の復活の折
大変に辛く、恐ろしい思いをしておるのです。
これは、涼二に限った事では御座いませんが。
ですのに、私を喜んで下さった。
あの様な気持ちは、とても 形容出来たものでは
御座いません。
私は、今の世を護りたいのです。
宗門が認められ、
御大切を広めることを、
地上は、人に与えられました。
他種の動物、植物や環境を含む 責任と共に。
だからといって、人は、神では無いのです。
傲慢になるのは よろしくない。
植物も動物も、天主様が御造りになられたのに
平気で破壊しておるのです。
野菜や果物、
それ等は、“食して良い” と、与えられておりますのに、毛皮のためなどに 食さぬものを乱獲し
種を 絶滅に追い込み、
森林を伐採し、星の砂漠化を図る。
我が物顔で振る舞えば、先に待つのは
堕落や破滅となるでしょう。
人は、至上の存在では無いのです。
ですから、精神は成長するのです。
私達の上にあられる
手を差し伸べれば良いのです。
互いに愛する。
そうした事を、広められる世なのです。
「... 籠城された 一揆は、
年貢の取り立て方が 酷かったから?」
おお... 私が “天草 四郎時貞” であるが為に
出された問いなので御座いましょう。
少々ばかり、“女子と散歩している” という
意識が御座いましたが、改める事と致します。
「難しゅう御座いますね。
確かに、そちらを重視して 一揆に参加された方も
いらっしゃいました。
ですが、“宗門を認めて頂きたいが為” なのです。
天主様の教えを信じる方が増えたらば、他人の痛みを知り、手を差し伸べる方が増えるのです」
人が 人を、迫害など せぬようになる。
愛された方が、親切にされた方が 嬉しいのです。
そうされた方は、自分も他人に そう出来るようになるのです。
されたことの無い方が、誰かに親切にしたらば
必ず、その方にも戻って参ります。
愛する生き方を 選ばれておるので。
過酷な年貢を定め 拷問した側、
相手が切支丹であれば、余計 残酷に... や、
切支丹の弾圧をした側は、
政治的な理由で それをされていた。
切支丹... 南蛮が、我が国で 力を持っては困る、と。
しかし、実際に 武器貿易などをされておったのは
商人なのです。
宣教の許可を得る為でした。
ですので、教理の “内容”を
否定された訳では御座いません。
ですが、幕府方の方々からすれば
商人も
... “返しなさい。カイザルの物は カイザルに。
神の物は 神に”...
私共は、宗門... 神の事 を言うておりましたが
君主様等は、カイザル... 政治、人の世の事 で御座います。
幾度も『宗門を認めて頂きたい』と申し
幾度も『御上に 抵抗は止めよ』と いった
押し問答で御座いました。
カイザルか、神か。
見ておるところが 違いましたので。
また、君主様等が 国を護ろうとなさるのは
当然のこと。
私共の側にも、年貢や責苦に対する不満も御座いましたので、混同されるのは無理も無かろうとは思うのです。
すっかりと切り離せる物でも御座いません。
ですが、この場で言わせて頂きたいのは
私、天草 四郎時貞、過去の 一揆の理由は
“宗門を認めて頂きたいが為” で 御座います。
何度も申しておるのです。
残酷な仕打ちなど、人に出来ぬようになるのです。
後世のため、研究されるのは 大切な事ではあるが
“宗教一揆を装った 農民一揆ではないか?”
... などと、推測で 結論づけるのは
御遠慮 願いたい。
君主様側から見たらば、そう感じられるのでありましょうが、私は 理想を追ったのです。
“宗門の為” という事が、分からぬなら 分からぬで
よろしい。見ているものが違うのだから。
しかし、分からぬことのには、口は
私共が、辛抱せず 立ち上がったことで
私共の望みは叶わず、各地の切支丹弾圧も苛烈を極めた... と、現代に於いて 知った次第。
私共の後、御大切を胸の中に
隠れ切支丹として耐え忍び、教えを守り続けた。
それが、現代に繋がっておるのです。
成して下さったのだ。次は、私が護りたい。
尊き精神を 継ぎたいのです。
そういった事を 話しましたらば、葉月は
「ふうん... 」と 申しました。
お聞きになられましたか? “ふうん” です。
私は最近、よく聞くのです。
大した関心も無く、何故 問われるか...
ですが、何か 会話を持とうと なさったのかも
しれぬので、気を取り直しまして
「そういった訳です」と 結び
「シェムハザの城は... 」と
他の話題に移ろうか と 致しますと
「あの、学校の授業で、自分の国の歴史のことを、発表することに なってるんです」と
申されました。
「それで、あなたの事を... 」
なんと。そういった理由でありましたか...
御自身で、私に関する書物を 幾冊か読まれて
当然のことながら、当時の事情も分からず
“本当の理由は何だろう?”... と、なられたと。
しかも 葉月は、人見知りされるようで
「お話が下手で、ごめんなさい」と。
「良いのですよ。御気になされる事はない。
知りたい事には、お答えします」
「あっ、でも、見てください」
葉月は、前方を指差しました。
... なんという 光景でしょう
「ラベンダー畑です」
一面の 花の紫で御座います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます