御大切 四郎

御大切 1


「四郎!」


「涼二! お早う御座います」


毎朝、学舎... 学校へ通う折、涼二と落ち合う場所は、私が暮らしております ジェイド宅と

涼二宅の合間程に位置する コンビニエンスストアの前で御座います。


自転車を、店の横丁に置きますと

私と涼二は 此処ここで、昼食までの合間に摂る

ぱん や、握り飯などを買うのです。


朝のコンビニエンスストアには、私共のような学徒は まばらであり、各会社へ参られる方々が多く

ピシリと格好の良い背広を召した方や、各業務に適した作業着を召した方、また 普段の様相で向かう方々。

私共のように 食事を買われる方や、珈琲だけの方、また ガムなどを買われる方、様々で御座います。


店内は、大変に賑わっておるように見えますが

人々の顔は、何処どこうつろであり

または、何か考え事などをしておるようであり

いささか 気に掛かる次第。


「四郎、何にする?」と、涼二は

菓子ぱんの類を 二つ程 選びました。


「では、まだ試したことの無い物を... 」


私は、ツナマヨ と書かれた握り飯と、

涼二が選んでおりました菓子ぱんの 一つを

真似して選びました。

油で揚げておりますもので、カレーパンと書かれておるものです。


レジにて、ピッピと商品の金額をあらためられ

料金の支度をしております内に、持ち帰りがしやすいよう、ビニール袋に仕舞って頂けるのです。


料金を支払いますと

「ありがとうございます」と おっしゃられる。

私も「有難う御座います」と 丁寧の礼を申し

涼二と共に店を出、自転車の持ち手にビニール袋を掛けますと、学校に向かいます。


「今日、泰河くんたちは?」


「朝は まだ、起きておられました。

明けまで、“普段仕事” を しておられたようで」


涼二は、兄様方等の話を聞くのが好きなのです。

『ルカくんが着てたやつ、どこのだろう?』

『泰河くん、どんな音楽 聴いてるのかな?』など

何か、憧れのようなものを抱いておるようです。


私は と、申しますと、兄様方は 勿論のこと

地に降りておられる 天使あんじょさんみげる、

今は人であるという ボティス、

天狗... 悪魔の方々である シェムハザやアコ。


このように、現世うつしよに蘇り

天に昇りまして、舞い戻った次第で御座いますが

大罪人である私を あたたかく受け入れられ

まるで、弟や息子の様に扱われるのです。

その度、この胸の内に、ぬくもりが満ちるのです。


人のる場所、と いいますものは

住居や 社会の何処に属するか といったものばかりでなく、人との繋がりの中に御座います。


そうして 私には、る場所があるのです。

それが どのような心持ちであるのかは、とても

言い表せられる様なものでは 御座いませんが、

日々、大変に しあわせを感じております。


また、ハーゲンティ、そしてなんと 皇帝ルシファー

日本神であります 須佐之男尊すさのをのみこと月夜見尊つきよみのみこと

神使にあります榊や浅黄、霊獣の方々、

また、仏教天部神にあられる 迦楼羅天に阿修羅天... 総々たる諸尊とも 御目通り叶い、

『天草の』『シロウ』と、受け入れられ

一つの事に 協力して当たることに至りました。


「着いたー。四郎、大丈夫?

朝の挨拶は?」


所定の場所に、自転車を置き、鍵を掛け

先程のビニール復路、鞄や別のバッグなどを

自転車から取ります際に、毎朝の確認で御座います。ここより、現代の物言いになりますので。

気が締まる次第。


「“お早う” のみ。

または、片手を上げる仕草など」


「うん」と 笑う涼二と、学校の門に入り

教室へ向かいます。

私たちの棟は、正面と連なった別棟であり

教室は四階で御座います。


その間にも、すれ違う学友と 片手を上げ合い

「雨宮」と 呼ばれた折には

「おう、松本」などと 応対 致すのです。

なかなか、慣れて参りましたが

話についてけぬ事も、多々 御座いますので

“人見知り”、“割と無口”... などを

気取っておる次第です。


しかしながら、皆と同じ制服を召し

共に 授業を受ける... ということは

私にとって、これもまた しあわせなことで御座います。


手習い以前より 字は読めましたものの、

九つ頃より、寺にて 筆の稽古、和算、

儒学、仏学、神学、南蛮学などを習うており

十四、十五の頃は、長崎の中国商人の元で働きながら、神父パードレより 基督きりすと教学... 御言葉おらしょの教えを受けておりましたが、その頃の学舎と現代では

全く違うのです。


『四郎って、海外で育ったからか

雰囲気 違うよな』... などと、言われることも御座いますが、もありましょう。

私から見ましても、現代の方々は

南蛮の神父パードレ等や 商人等とも また違い、

まるで 異星に参ったかのようであるのですから。


涼二を始め、他の沢山の方々から 分けられた

血肉に御座いますので、

口に入れ、食する物には、すぐに身体は馴染みました。


大層高い建物や、自動車。信号機。

テレビ、スプーンやフォーク、カップなど

見知らぬ物に 見て触れましても、何処かで知っておるような感覚も湧きいでます。


ですが、芯にある骨やあにま

私自身のものなのです。

滲みいでるものは、如何いかにしようも御座いません。


しかし、“南蛮で育った” などという話であったでしょうか?

“両親は、仕事で海外” であり、朋樹の親類であるので、雨宮姓を名乗っておりますが

『雨宮って、両親がフランスに居るんだよね?』

から、『フランスで育ったらしいよ』と なったように思います。

特に否定などもしておりませんが、そういった訳で、現在は シェムハザに、フランス語もなろうておる次第です。


学校に通い出した折は、大変に緊張しておりましたこともありますが

このように、人の記憶とは 曖昧に御座います。

そうであるので、過去の苦い記憶も

生き方次第では、甘美なものと 変化するのでしょう。生きていくように なっておりますので。


「橋田、雨宮」「おハヨ」


鞄から 筆入れや帳面を出しておりますと

学友であります、高島と真田が参りました。

「よー」「お早う」と、挨拶を交わします。


二人は、元々 涼二と懇意である友であり

私もスマホの番号等を交換し、日々 互いに歩み寄っておるのです。

二人と会うと、腹の中が こそばゆくなるような

照れ臭さを感じます。


私が、コンフェイトを差し出した際も

『おお、ありがとう!』

『ガムとかじゃない!新鮮!』... などと

大袈裟に喜ばれましたが、決して 馬鹿にした様子などは 御座いませんでした。

“少々 変わっておる” 私を、対して気にせず

『涼二から、四郎が転校して来ること 聞いててさ』

『楽しみにしてた。スマホは?』と

すぐに打ち解けることが かないました。


「2組の早川が、ヤッたらしいぜ」

「女子校の2年のオンナと」


「マジで?!

あいつ、別の学校にオンナいるんたろ?」


誰それのライブがどうこう、あの動画がどうこうなどの話も致しますが、熱気を伴う話いえば

もっぱら このような事で御座います。

私も 過去、“女はいいぞ” など、少々 歳上の者に

聞いたことは御座いますが、秘事の類で御座いました。

しかし 現代では、学ぶ場所で こういった話もするのです。大声で はやし立てる者も居る始末。


なんと... と、些か 衝撃ショックを受けまして

こそりと 朋樹に話してみましたらば

『えっ? 中学生の会話じゃねぇのか?

ああ、でも、四郎が通ってるとこは

カトリック系で 真面目な高校とこだからな... 』と

返って参りましたので、口をつぐんだ次第です。


「もう 座っとかねぇと。斎藤が来る」


斎藤とは、学級クラスの担任である教師なのです。

当然であるが如く、姓を呼び捨てるのです。

最初は、皆の このような不遜な様相に 大変に驚きましたが、どうにか 慣れまして御座います。


出席確認や、本日の主だった事項などの通達が為される 朝の会のようなものが済みますと

いよいよ、授業に移ります。

今 一度、スマホの音の確認をし、

教科書や帳面、筆入れからは 消しゴムや赤ペンと、気に入っております 水色のシャープペンシルを出しまして、始業のチャイムを聞くのです。

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